多くの被災者を生んだ東日本大震災。災害大国・日本ではいつまたこのような災害にあうか分からない。国や自治体に頼るだけではなく、自ら準備しておかなければならない

G72BOXを届けるためだけに物流企業と提携し専門会社設立 より迅速・確実な支援体制整う!

以前、本誌でもご紹介した「Guardian(ガーディアン)72災害支援プロジェクト」が今、本格的に動き出している。目の前に迫る自然災害から自分や家族をどう守れるのか。多くの人が目を背けたままにしているその問題に対する明確な方法が、このプロジェクトには示されている。

自らの実体験を元にこのプロジェクトを立ち上げた、株式会社ミーチュアル・エイド・セオリー代表取締役、そしてガーディアン72プロジェクトの代表でもある有馬朱美氏に伺った。

 

救援物資が届くまでの3日間を生き抜くための「G72BOX」

「どんな災害にもすぐに対応でき、災害後にすぐに立ち上がっていく社会になってほしい」と訴える有馬氏

 

2018年6月。都内で行われた会見において、「ガーディアン72災害支援プロジェクト」が大きく前進したことが明らかになった。一般社団法人全日本冠婚葬祭互助協会という、全国217の冠婚葬祭関連企業が加盟し、冠婚葬祭業界では国内で最大の規模と実績を誇る団体が「G72BOX」の購入を決定したのだ。これにより災害時の救援がより迅速・確実に行うことができる、と株式会社ミーチュアル・エイド・セオリー代表取締役であり、このプロジェクトの代表でもある有馬朱美氏は、そう自信を覗かせる。

以前に本誌でもご紹介した「ガーディアン72災害支援プロジェクト」。その骨子は以下のようなものだ。

大地震などの自然災害が発生した際、国や自治体がその対策に当たることになる。しかしそこで第一に優先されるのはまず人命の救助だ。消防隊も、災害派遣されて来た自衛隊も生き延びた全ての方々に手を差し伸べなければならない。一方、無事に避難所までたどり着いた人々に救援物資が提供されるまでには多少の時間がかかる。道路は寸断されライフラインは遮断されている状況では平時と同様な物資の輸送もままならないからだ。その時間は平均して災害発生から3日後、約72時間と言われている。

全くの着の身着のまま、取るものもとりあえず避難してきた人々が、空腹を抱えてその3日間をどうやって過ごせば良いのか。2011年の東日本大震災の際には、被災地が地方であったために各家に備蓄された食料や来客用のお菓子があり、生活用水も近隣に井戸があったので、それを少しずつ食べて飢えをしのいでいたという話もある。しかし、東京などの都心では家に当座の食料を用意しているという家も少なくなっているだろう。

救援物資が届くまでの3日間をどうやって生き抜くかという問題を解決するために考案されたのが「災害発生直後から72時間で、物資の仕分けを必要としない災害支援BOXを被災地の近隣の備蓄倉庫から短時間で被災した人達に1人1箱届ける」という「ガーディアン72災害支援プロジェクト」だ。

水やアルファ米、衣類のほか
おむつや生理用品もセット

有馬氏の地道な活動によって、ガーディアン72に賛同する企業や団体は着実に増えている

 

BOX1つには人1人が3日間生活できる分の水(6リットル)や水なしで食べられるアルファ米、衣類などが詰められている。また全てのBOXには乳児用のおむつや男性用と女性用の下着、簡易トイレキットに生理用品まで入っている。

「3日間同じモノを食べ続けるよりバリエーションがあったほうがいい。それに好き嫌いなどもありますので、一緒に避難している人同士で共有し互いに交換し合ったりして融通できるようにしています。生理用品も女性にとっては必需品ですから、最初から入っていますし、男性用と女性用の衣料を一緒に入れてあるのは、お互いにその場で譲り合うことができるようにするためであり、また同時にセットを男女別で作る手間や、避難所の前に積み上げられた救援物資から人手を使ってそれを仕分けるという手間を省くためです」

実際に被災現場に行くと、多くのボランティアや市役所職員が物資の仕分けに労力を費やしている。その作業を無くし、被災者たちが自分たちが必要なものを自分たちで確保できるようにすることで、ボランティアや市役所職員にはもっとやってもらわねばならないことに力を注いでもらう。
そうすることで救援活動をスムーズにし、被災地の人々の不安を解消することに繋がるのだ。

自分を守る「自助」と
互いに助ける「共助」の精神

被災地の状況を一変させることができるかもしれないこのG72BOX。有馬代表は以前本誌のインタビューに対し、このプロジェクトの根幹には「共助」「相互扶助」の精神があり、人々が助け合っていくことこそ、災害からいち早く回復するために重要である、と話されていた。

「上からの援助に頼ることなく、民間で支え合っていくこと。それがこのプロジェクトの大事なエッセンスである『共助』の精神です。ですがこのプロジェクトが更に拡大し浸透していくためには『自助』の精神も必要不可欠になります」

特に企業が自らの社員を守る手段としても考えてもらいたい、と有馬代表は話す。企業が集中している東京都では交通網の破壊による帰宅難民が大きな問題になる。2011年の東日本大震災では都心部から近郊への幹線道路が延々と渋滞で埋め尽くされ、また歩道に帰宅者が溢れていたのは記憶に新しい。
東日本大震災では東京都内は火災などの被害が無かったので問題はなかったのだが、これが都市直下型の災害だった場合はどうなるのだろうか?充分な消火作業・救助作業を行うことができず、被害を拡大させてしまうのではないだろうか。
東京都ではそのような懸念に対処するために、各企業やビルに対し帰宅困難者を一時ビル内に避難させ都内に、具体的には環状7号線より内側に留まってもらうように指導している。特に今後オリンピックに向けて建築ラッシュが進み、現在計画では100棟以上の新しいビルが建築予定とされているが、これらには全て帰宅困難者を屋内で待機させるための設備と備蓄食料などを用意するように指導がされている。

「このような東京都からの指導にも、G72BOXは適合しています。東京都では今年5月から来年2月末までの期間、帰宅困難者受け入れに協力する事業者が必要な備蓄品を買い揃える費用に対して補助を行っています。こういった制度が私たちの活動を後押ししてくれていますし、是非この機会に多くの企業に購入してもらいたい。そして企業が自社員を守るという『自助』の考えで用意していたものが、万が一の際には逃げ込んできた人々への救援物資になる。その点では『共助』にも繋がるのです」

災害救助のスペシャリスト
自衛官OBの全面バックアップ

G72BOXが災害救援物資として効果的なのは間違いないが、何よりそれが被災した人々の手元に早く確実に届かなくては意味がない。その点についても今回大きな進展があった。

「今年9月に『株式会社ガーディアン72』という運送会社を立ち上げることにしました。これはG72BOXを被災地にお届けするためだけの専門会社です。今後、避難所開設に合わせてG72専用備蓄倉庫より出動、そして、全国展開をしている物流企業との提携の中で、更に、被災地に向けて近隣備蓄倉庫より届けて行く連携を図る計画です。全国で備蓄されているG72BOXを、いざ災害が起こった際には、まずは、株式会社ガーディアン72が迅速に被災地に届けます」と有馬代表は話す。

この株式会社ガーディアン72では災害派遣の経験が豊富な自衛官OBを雇用して災害時の物資輸送についてのノウハウを得る事により実現する。

「彼らはロジスティクスの専門家。特に顧問の榊枝宗男氏は現役時代、国内外で6回も災害救助活動に参加したスペシャリストで、特に自衛隊が初めて海外で行ったホンジュラス国際緊急医療救助隊の先遣調査団長も務められた方です。他にも多くの自衛官OBが参加していますが、彼らもこの『ガーディアン72災害支援プロジェクト』の有効性に賛同してくれたから協力してくれています」

多くの支持者を経て「ガーディアン72災害支援プロジェクト」は確実に現実のものになりつつある。

故郷島原の経験が
活かされなかった東日本大震災

「目標は、2020年五輪・パラリンピックまでに1280万セットのG72BOXを全国各地に備蓄することです。日本の全人口の10%分を確保することができれば、どのような災害が日本を襲ったとしても対処することができる」

そう話す有馬代表が災害と向き合うきっかけになったのが、1991年に起こった雲仙普賢岳の噴火だった。その噴火の被災地になった長崎県の島原が故郷だった有馬代表は、いてもたってもいられなくなり当時仕事をしていた福岡から、火山灰を浴びて灰色一色に染まった実家に戻ってきた。

「間近に土石流が迫り、命からがら逃げたこともあります。故郷の風景は大きく様変わりし、人々の生活も一変してしまいました」

長く苦しい避難所での生活、そして二度と戻らない故郷の姿。それを目の当たりにした有馬代表は島原の復興と地域活性化を目指して起業し、情報誌の発行などの活動を活発に行っていた。

「そんな中、東日本大震災が起こった。私も震災から2週間後に救援物資を持って現地に入ったのですが、避難所の前には全国各地から送られてきた救援物資が山のように積まれ、それを人手が足りないために介護のチームが仕分けをしていた。彼らにはもっとやらなければならないことがあるのに」

島原での災害の経験が全く活かされていない。有馬代表は悔しかった。

「日本では災害が身近にあり、これからも共存していかないといけない。それなのに動きの遅い国や自治体になんとかしてもらうのを待っていては手遅れになってしまう。被災地は、自治体職員も被災している。だからまずは『自助』・『共助』で最初の72時間を互いに支え合い持ちこたえること。そう考えてこの『ガーディアン72災害支援プロジェクト』を立ち上げたのです」

ボランティアではなくビジネス
だからこそ恒常的に活動できる

災害支援のために立ち上がった有馬代表だが、決してボランティアとしてこのプロジェクトをやっているのではないと言う。

「ボランティアでは続けていくことができません。災害はいつ来るかわからないもの。ですから恒常的に活動を続けていかなければなりませんし、そのためにビジネスとしてモデルを確立していかないといけない」

現在の災害支援体制はヒューマンパワーに多分に依存している。特に公務員への依存が大きく、市役所などで働いている公務員は、自分たちも被災者でありながら他の被災者の救援にあたらなければならない。

このような負担に頼るのではなく「災害は前提として起こるもの」として、いつでもどんな災害が起きても対応できるシステムを構築しておく。それが「ガーディアン72災害支援プロジェクト」だ。

「喉元過ぎれば、で忘れてしまっては意味がない」と有馬代表は言う。東日本大震災から7年。東北は今も復興の途上にある。それをオリンピックなどで糊塗し、目をつぶっているのではないか。そんな日本をあざ笑うかのように今年7月、平成になって最悪という大水害が西日本を襲った。

「どんな災害に遭ってもすぐに対応できること。そして何より、それをベースとしてその後に地域がちゃんと立ち上がっていく社会になって欲しい。私自身だって、いつ被災し命を落とすことになるかもしれません。ですからその後もずっとこのシステムが機能し続け、人の役に立っていくものになってもらいたい」

有馬代表のその言葉には、自らの体験に裏打ちされた強い決意と、そしてもう同じ苦しみを被災された人々に味あわせたくないという熱い思いが込められているようだった。

 

有馬朱美 ……株式会社ミーチュアル・エイド・セオリー代表取締役、ガーディアン72プロジェクト代表。1962年長崎生まれ。1991年普賢岳噴火災害経験を機に起業。災害後の復興に向けて地域活性化事業を構築。2011年、東日本大震災の経験により災害支援プロジェクトG72ビジネスモデルを発明。特許出願公開。現在、追加国際ビジネスモデルとして出願中。

株式会社ミューチュアル・エイド・セオリー
〒102-0083 東京都千代田区麹町2丁目10‐3
Tel:03-4405-5990
URL:www.guardian72.jp