日本の中小企業を救え!ファミリービジネスの中で育った社長の挑戦 – 株式会社FBマネジメント
◆文:近藤智子 /撮影:寺尾公郊
山田一歩氏 株式会社FBマネジメント 社長
少子高齢化が進む日本で問題になっていることの一つに、中小企業や小規模事業者の「事業承継問題」がある。中小企業庁の調査(2017年)では、廃業などが増え、2025年頃までの10年間のうちに約650万人の雇用が失われると指摘されている。また、この動きにともなって、約22兆円ものGDPも失われる可能性があるという。危機の矢面に立たされている中小企業の多くが「老舗」といわれ、長年親族で事業を継承してきた「ファミリービジネス」企業である。これらの多くは地場産業であったり、日本独特の産業の担い手であったりすることが少なくない。
このファミリービジネスの継承問題を解決するための起業を立ち上げたのが、株式会社FBマネジメントの社長・山田一歩さんである。
ファミリービジネスのどまんなかで育まれたビジネスマインド
眉山から見る徳島市街 写真AC
山田さんには忘れられない光景がある。それは祖母の葬儀の日のことだ。小さな部屋の中で冷たくなった祖母が眠っており、傍らで母が泣き崩れていた。もともと山田家は地元・徳島でスーパーマーケットを経営する名門で、スーパーを興した母方の祖父は四国では有名人、山田さんの父も地銀の要職を務め、県法人会連合会の専務理事をするほどの人物だった。そんな山田さんは高校卒業後に地元を離れて大学に進学、卒業後は大手証券会社に就職し、数年後に転職してコンサルティング会社で大型案件をこなすようになる。
一方で、山田さんの地元では祖父の興したスーパーが危機を迎えていた。折からの経営不振に加え、大手チェーンの進出もあって事業が立ちゆかなくなっていたのだ。結局、伯父が社長を務めていたスーパーは倒産する。祖母が亡くなったのはそんな時期のことだった。しかし、祖母の葬儀のための資金は会社の資金繰りのために使われてしまっていた。山田さんが小学5年生の時、四国88か所めぐりに出かけた祖父が急死して以降、スーパーの業績は下がる一方だったので、倒産は当然の帰結ともいえた。しかし、祖父の葬儀は盛大なものだったのに、その祖父を支え続けた祖母の葬儀はあまりに寂しいものだった。この時の母の涙を、山田さんはいまも忘れない。
ある晴れた朝、突然会社を辞めてみた
実家の倒産と相前後する時期、山田さんは大手コンサルティング会社でバリバリと働いていた。仕事は楽しく、新聞の一面に載る案件も多数手掛けており、ダイナミックで緊張感のあるコンサルティングの仕事を天職だと感じていた。転職など全く考えていなかった。
ところが、29歳のある朝のことだった。いつものように山田さんは朝5時に起床し、ベランダに出た。よく晴れて心地がよかった。朝日を浴びた時「あ、会社、やめよう」と山田さんは不意に思った。思いついたら即行動、9時には「退職届」を提出していた。もちろん社長は驚いて引き留めたが、山田さんの決意は変わらなかった。こうして、山田さんは一旦ビジネスの世界から去ることを決めた。ある朝、突然に。
実家の倒産で気づいた「事業継承」の大切さ
いわば勢いで会社を退職した山田さんだが、後悔はなかった。コンサルティング会社でやれることはやりきったと思っていた。しばらくは仕事をせず、地元に戻ってみたり、アジア圏などの海外へ行ったりなどして過ごした。そんななかでもビジネスのことは頭の片隅から離れることはなかった。経営者一族として生まれ育った性なのかもしれない。
地方には銀行や税理士がいても、経営の相談に乗ってくれる人材がいないという問題点があることに、山田さんはしだいに目を向けるようになった。会社が倒産して困るのは、経営者だけではない。社員やその家族の人生も変わってしまうのだ。実際に実家の倒産で多くの人々の人生が変わり、山田家の様相も一変した。しかし、そんな状況を経験したからこそ山田さんは自分のミッションに気づいたのである。「後継者が継ぎたくなる会社をつくる手伝いをしよう」。
会社は売ればよいわけではない 「継ぐ方法」とはどんなものか
かねてより山田さんはM&Aに強い関心を持ち、実際にコンサルティング会社で取り組んでいた。これを、中小企業の事業継承に生かす方法を考えるのが、山田さんの新しい仕事になる。「ファミリービジネス」をアシストする事業を手掛ける会社のサンプルを山田さんは探したが、海外に少しあるだけで、、日本にはそんな会社は見つからなかった。
「後継者が、会社を継ぐことについて学ぶ環境がないのも問題です」と山田さんは言う。
事業を継ぐことを前提に、その前提に必要な学びをつくるのも山田さんの仕事である。進学等で地元を離れ、そのまま帰ってこない若者は多いが、魅力のある会社があれば帰ってくるというのが山田さんの考え。そして、後継者が継ぎたくなる会社にすることがオーナーの仕事だ。
折しも、事業承継の問題に中小企業庁が取り組み始め、山田さんは自分の仕事が成功するだろうと確信した。起業して間もない環境ではオーナーの心に刺さりづらいが、省庁の後押しがあれば鬼に金棒である。
「それってなんのサービス?」理解を得られず苦労した創業期
もっとも、起業して間もなくは苦難の連続であった。銀行融資を頼んでも、企業に営業に行っても「それで何をするんですか?」と聞かれるばかりであった。事業継承においては税金などお金の話ばかりに注目が集まり、そもそも「後継者が継ぎたくなる会社を創る」ということが認知されていなかったからだ。起業後約半年間会社の売り上げはゼロ円。それでも営業要員として5名ほど在籍していた社員に払う給与などが必要なため、毎月数百万円の赤字が出てしまっていた。売り上げがゼロ円の会社には借り入れもできず、貯金などで補うしかなかった。
「でも、本当にきつかったのはお金のことではないのです。この仕事が本当に成功するのかわからなかったんです。老舗企業は堅い会社が多いですから、『あやしいサービスを売りつけに来た』ように思われてしまって。先の見えないトンネルを歩いているみたいで、それがつらかったですね」と山田さんは言う。
仕事が取れない分、時間はたくさんある。暇に任せて電話営業を行ったり、宣伝の手紙を出しまくったりと、地道な作業を続けた。しかし「市場を開拓できる自信はあったんです」という山田さんにとって、これは時間稼ぎのようなものだったのかもしれない。
助けてくれた会社の存在 そしてファミリービジネスの着手へ
そんなある時、大規模BtoCサイトのシステム開発等で知られる株式会社テクノモバイルという会社から連絡が入った。山田さんの熱心さに折れ「よくわからないけど、応援するよ」と契約してくれた。やがて、様々な経営課題解決を任されるようになった。また、パーテーションメーカーのアイピック株式会社からもコンタクトがあった。テクノモバイルからは、テレアポの営業請負を頼まれ、コールセンターを探したりした。まだファミリービジネスへの着手には至らなかったがありがたいと感じた。
そして、7社目との取引で、ようやく事業継承問題に対応するプランを作ることになった。日本のファミリービジネスの世界に、新しい波が訪れた瞬間だ。
ファミリービジネスのサービスがようやく確立
近頃、ようやく自分の人間力ではなく、会社のサービスで評価してもらえるようになったという山田さん。サービスをわかりやすくし、マーケティングの方法も決め、入社後3カ月ほどの社員でも仕事を回せるように工夫した結果だ。人材を増やしても品質が下がらないファミリービジネス請負チームの完成である。社員の他に「顧問」と呼ばれる人材が社内にはいるが、遠隔地など、ピンポイントでニーズがあるというところだけに派遣している。企業に顧問を送り込む「顧問ビジネス」はクライアントのためにならないと山田さんは考えている。
売りたい人と買いたい人のマッチングも手がける
いま、FBマネジメントの事業の中心は「マーケティングPR支援」と「事業承継&M&Aアドバイザリー」である。たとえば、年商15億円~50億円のファミリービジネス企業の売上拡大をサポートしながら、全国の税理士事務所と連携し、年商3億円~10億円の後継者がいない企業の譲渡案件情報をいち早く入手し、彼らが買いたいという案件があった場合、その仲介をしているのだ。かつてM&Aを手掛けていた実績が生きている。
インベストメント事業を始めた背景には、2025年に127万社の後継者が不在になり、地方の優良企業が続々と廃業に追い込まれるという中小企業庁の予測がある。だが、やり方によっては、爆発的に成果を出せる企業もあると山田さんは考えており、そうした企業が後継者不在になるのなら、自社の経験・ノウハウを活かせるものであれば、自社で経営権を取得してグループに参画してほしいという野望を持っている。「成果を出しやすいのはいい商品・サービスを展開しているが、経営力・IT力が低いメーカーなどですね。『こういう売り方をすればいい』という方法論が確立しすぎてしまっていて、変われていないところを突くんです」。
蒲鉾は冬しか売れない!? メーカーを救った戦略とは
老舗の某練り物加工メーカーは、以前はスーパーや百貨店に製品を卸すのみであった。しかし、いまは物が売れない時代であり、スーパーや百貨店自体の業績が厳しいため、練り物は買いたたかれてしまっていた。実は、あまり知られていないが、練り物は冬しか売れずらい。そのため、春から秋にかけては工場の稼働もストップしてしまう。春から秋は冬の儲けでしのぐという何とも非効率な稼ぎ方が常態化している。
結果として、このメーカーは原材料費の上昇もあって赤字に転落し、苦境にあえいでいた。相談を受けた山田さんは、小売店に左右されず、自社が価格決定権を持てるECへの出荷を始めた。そして、夏にも工場を稼働させるようすすめた。夏に作った製品は冷凍し、海外に輸出するのである。折からの日本食ブームでこれがヒット。貿易会社のプライベートブランドとしての商品生産を引き受けることもできた。こうしてこの練り物メーカーは工場のラインを建て替えるほどに盛り返し、いまや業界のリーダーの一社である。
老舗企業に現代企業の常識を教授する
この練り物メーカーの事例では、最初に相談を受けたタイミングで、すかさずウェブ戦略を立ててランディングページを構築した。これが功を奏した一因でもある。練り物業界について言えば、後継者不足よりも、業界シュリンクが予測されるなか事業収益が上がらないため、跡を継がせるのが不安だということでのファミリービジネス断絶という側面があった。同じ不安を抱えている人や業界が地方にはたくさん存在する。この点に関しては、粗利構造を変え、ビジネスモデルで収益構造を変えて解消すればよい。これが同社のいちばん得意とするところである。
老舗企業は特別に営業しなくても既存のルートを持っている。ただ長い期間何も手を打っていなければ、相手の営業担当者が知らないうちに変わっていて、これまで通りの取引ができなくなることもありうる。そこで、既存の顧客を守り、新規の販路拡大をする発想を持たねばならない。まずは顧客データを作って、見える化を進め、何が売れているのか、何が売れていないのかを知り、売れていない商品は躊躇なく削る提案をしてゆく。売れていないエリアからの撤退などもオーナーに決めてもらう。そして、会社毎にマーケティングPR戦略を策定する。こうした販売方法の転換が同社の仕事の軸だ。
「社長に残された時間はあと5年」!?
山田さんは、将来的には黒字でもやめてしまうファミリービジネス企業があるなら経営をお譲受け、年商を5億円、さらには10億円に伸ばし、将来的には、自社を連結規模で1,000人規模の会社にしたいと語る。「でもこの構想はまだ3カ月前に思いついたばかりです。でもプレスリリースを出しました」思いついたらすぐに始める。「きのうのことは、過去のこと」が山田さんのモットーだ。
会社のホームページを作ったばかりのころ、「100年企業を100社創る」というコピーをホームページに躍らせた。このキャッチーなフレーズで山田さんはファミリービジネス企業に携わる人たちの心を揺り動かした。顧客しかり、就職希望者しかり。「ベンチャーだけど優秀な若手が集まってくれたいま、やっとピースがそろってここからやっと始まりです」。
事業継承は家族の成果でもある
昔と違い、事業承継の準備は年々早まっており、ITや海外が絡む案件も増えていることから、60歳では遅くとも交代したほうがよいと山田さんは考えている。そのためには50歳から準備しないと難しい。山田さんは「親族内承継の成功には、親子がどのように時間を過ごしてきたかが重要です。どんな会話をしてきたのかという家族の歴史の成果が表れるのです」と言う。事業継承とは、まさに「ファミリービジネス」なのである。
日本には地場産業がたくさんあり、その多くが中小のファミリービジネス企業だ。これを残すためにはマーケティング力の向上が必要で、さらには優秀な人材を得るためにオーナー自身が魅力的な人物になって自らメディアに出てアピールもしなければならない。そうしたこともトータルサポートする。山田さんは自分をコンサルタントではなく、事業家だと考えている。事業家でもありアドバイザーでもあるのが自分の持ち味であるという。
経営理念に込めた思い
会社が軌道に乗り始めてからは、山田さん自身の心持ちも変わり、毎日サービスの改善に尽力している。1年目は10人いた社員のうち8人が辞めてしまったが、この1年は一人もやめていない。彼らを守るため、自社を託してくれた企業オーナーを守るために山田さんは以下の経営理念を掲げている。
①我々は、「プロフェッショナル集団」として全社員が「コンプライアンス」を強く認識して「利より義」を大事にし、経営を行うことに努める
②我々は、クライアントファーストを心がけ、社会貢献性の高い仕事を通じて全社員に高い人間力・ビジネスマン能力を身に付ける機会を提供する
③我々は、日本企業が抱える最重要課題の一つである「事業承継問題」を、クライアントの課題に応じて最適なプロジェクトチームを組んで本質的に解決することに努める
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そして山田さんは、日々チャレンジを続けている。無茶なことをしていても、先行投資だということに確信を持っている。チャレンジには苦しさを伴うが、楽しさもない。「楽しいと言えば、社員が生き生き働いてくれているのを見るのは楽しいですし、クライアントからは使命感や充実感をいただいています」、そんな気持ちも経営理念には込められているのだ。
事業継承のノウハウを広げて日本経済を救う
山田さんは規模の大きな会社ではなく、影響の大きな会社が目標だという。事業承継をし終わったオーナーが、これから事業承継を進める企業にアドバイザーとして顧問で派遣できるしくみ、事業継承の成功者と希望者のマッチングサイトをつくるなど、ノウハウを広げて日本を救いたいという目標がある。
「我が社は、日本初のファミリービジネスに特化したマーケティングPR会社でしたが、少し変化してきて、M&Aやインベストメントのほうが中心になっています。ファミリービジネスに関するさまざまな事業をワンストップでやっている会社は日本にはありませんでした。今後は事業家型支援ができる会社にしていきたい」と山田さんは今後の抱負を語ってくれた。
「そのために、すぐに事業家を送り込める体制を整えたいですね。また、中小企業のファンドの受け皿が少ないのでなりたいですし、事業投資軍団としてノウハウを提供するコンサル会社になってもいいと思っています。ファミリービジネスという日本の最大の問題を解決するハブに慣れれば最高です!」山田さんの夢は尽きない、そして、実際にまた走っていくのだろう。朝5時に会社を辞めようと決めたあの日と同じように、自分の信じた道を迷うことなく、まっすぐ、速く。
会社の業績が上がり始めた今、山田さんは実家の倒産によって失った土地や家を買い戻しているという。家族への思い、つなげていく心、それは山田さんの仕事の原点でありすべてでもある。ファミリービジネスを支えるというミッションへの情熱はこれからも衰えず、絶えず燃え続けてゆく。
<プロフィール>
山田一歩(やまだ・かずほ)
名古屋市立大学経済学部卒業。
大手証券会社にて中小・中堅企業のオーナーに対する資産運用、資産管理ビジネスに従事。大手コンサルティング会社にて、主に日本を代表する上場企業に対して資本政策立案、株主対策、コーポレートガバナンス体制の強化を支援。また、株式上場に伴う株主対応、不祥事・独占禁止法違反に伴う国内外主要投資家に対する対応、委任状争奪戦等の敵対的買収防衛に関するアドバイザー及び経営統合成立に向けての株主総会対応・米国SEC対応等有事に関するコンサルティング実績多数。
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