高経年化プラントに「ゴジラ現象」続々!? – 千代田アドバンスト・ソリューションズ株式会社
(ゴジラだ。これはまさしくゴジラだ)
数年前、あの大津波の映像を、繰り返し、繰り返し流すテレビの前で、筆者の頭の中には、子供の頃に見た映画「ゴジラ」のワンシーンが、彷彿として甦っていた。
東京湾に現れたゴジラが、芝浦の埠頭にのそりと足を掛けたあのシーンだ。
しかし思えば今や、地震、津波に限らず、列車事故やガス爆発、工業施設や道路、橋脚の崩落など、いつでもゴジラになりうる潜在的脅威が、そこら中に転がっているといっていい。
そこで、これを〝ゴジラ現象〟と呼び、逸早くその問題解決に取り組んできた、〝地球防衛軍〟ならぬ先進的技術者集団を紹介したい。
千代田アドバンスト・ソリューションズ(略称ChAS=チェイス、神奈川県横浜市)とその最高司令官、渡邊昌宏氏である。
今や日本の工業施設やプラントはトラブルの百貨店
まずは渡邊氏の言う〝ゴジラ現象〟から、手短かに説明しよう。
「(戦後70年近くにもなる)ここまでくると、もう国内の(新設)工事は減る一方で増えることはありません。したがって大手ゼネコンやプラントエンジニアリングは、みんな中東やアジアなど海外に目を向けることになります。
それはそれとして、問題は国内の高経年化した工業施設やプラントです。
今から30〜40年前、高度経済成長期につくられたそれらが、とくに見直されることもなくそこかしこで稼働しているわけです。
今や日本の工業施設やプラントは、トラブルの百貨店と言っても過言ではないのです」(渡邊氏、以下同)
もしそれらの施設やプラントの主要部が、あるとき突然パーンと弾けたら、
「成す術はありません。ゴジラが上陸したところを想像してみてください。川崎や市原のコンビナートは瞬く間に火の海でしょう」
それを未然に防ぐという発想から生まれた事業が、ChASのコア・コンピタンス(核となる得意分野)、エンジニアリング・ソリューションである。かいつまんでいうとこうだ。
顧客企業のプラントに何らかの不具合やトラブルが起きたとする。まずはその原因を、あらゆる角度から最先端の解析技術を駆使して究明し、問題解決に向けたもっとも適切なコンサルティングを行う。
さらに顧客の要望に応じて、改良や統廃合など、それ以降のサポートもすべてコントラクトする。
「プラントにおいてはさまざまな流動現象や振動現象、音響現象が起こります。これらの現象には多くの原因要素が含まれており、その解析には、高度な技術的知見と、最先端のコンピュータシミュレーション技術が必要になります」
例えば構造的な問題点を発見するには、有限要素法を用いた非定常熱伝導解析技術と熱応力解析技術を使う。
熱流体に温度差の大きい低温流体が流れ込むと、温度勾配によって大きな熱応力が生じるという現象を解析することにより、合流部の健全性評価が可能になるというわけだ。
ほかにも加熱炉の性能評価や加熱炉管の余寿命評価を可能にする流送解析、有毒物質や可燃性物質の流動、燃焼・爆発に関わる安全性の定量的解析、音響・振動による疲労状況が分かる連成解析など、原因究明はそれこそ微に入り細をうがつ。
安全運転や環境対策はもちろん、効率化、高収益化、さらには近年いわれるところのアセットマネジメント(資産としてのプラント価値の最大化)にも大きく資するとして、今や国内は言うに及ばず、海外からも多くの注目を集めるなどもっぱらの評判だというのだ。
とまあ、難しい理屈はこれくらいにして、話をゴジラ現象に戻そう。
そもそも同社はなぜゴジラ現象に注目したか──である。
技術があるということは、やる責任もある。社会的使命といってもいい。
その前に述べておかねばならないのは、この会社の出自と生い立ちだ。
聞けば(な〜んだ、そういうことなら然もありなん)と思われる恐れがあるので後回しにしたが、俗に言う〝エンジニアリング御三家〟の一、千代田化工建設(以下、千代田)の連結子会社である。
設立はちょうど10年前の2002年。一種のスピンアウトといえばそうかも知れないが、いわゆる業容拡大等による景気の良い分社化ではない。
「今でこそLNG(天然ガス)製造プラントで50%近いシェアを誇るなど、世界ブランドとして揺るぎない地位を占めていますが、当時はたいへん厳しくてですね。希望退職者を募るなどしていました。巷ではもうダメじゃないかなんて言われていたんですよ」
確かに業績を見ると、バブル崩壊直後から急激に落ちており、アメリカKBR社の支援を受け容れたり、1999年、2001年と立て続けに第三者割当増資を実施するなど、けっして楽な時期でなかったのは間違いない。
しかしそれからの処し方が見事といえば見事で、御三家の御三家たる所以である。
「万一のことがあれば、これまでに培った千代田の技術が海外に流出しかねない。
それだけは我々の、というよりこの国の産業の国際競争力という意味で、何としても阻止しなければならない。当時の経営陣はそう決意したんですね。
そこで別会社としてChASを立ち上げ、先進的技術を持った優秀なエンジニアとマネージャーら合わせて55人を、出向ではなく転籍で送り込んだというわけです」
先にChASの技術はすでに海外でも評判だと書いたが、それもその筈で、要するに発足当初から、極めて完成度の高い選りすぐりの精鋭集団だったのだ。
それにしても、描く(設計する)、つくる、コントロールするといったテクニカルな作業には手慣れていても、こと〝売る〟という人間臭い仕事に関しては、誰もが素人である。
にも拘わらず生みの親、千代田は、
「それなりに技術インセンティブは出しますが、基本的には、自分たちで売って自分たちで食べなさいというスタンスでした。となると売るしかありません。しかし今度は、何をどう売っていいかが分からない。
そこで思案の末に着目したのが、かねてより思い温めていたゴジラ現象に向けた技術サービスです。
放っておけばゴジラはいずれ必ずやってくる。同じプラントを長く使っている顧客は、すでにそのことに気付いている筈だろう。
我々にはそのニーズに応え得る技術がある。ということは、やる責任もある。社会的使命といってもいい。
あとはそれをどうサービス化し、顧客に提供するか。それさえできれば顧客は必ずついてくる、という結論に達したんですね。
そして生まれたのが、世界で初めてといってもいい、エンジニアリング・ソリューションという事業です」
〝金(仕事)が金(仕事)を生む〟とはこういうことを指すのだろう。
当初は保守・管理のアドバイザー的な位置付けに過ぎなかったようだが、実際にサービスを開始してみると、それまで思いもしない隠れたニーズが次々と浮き彫りになり、それを受けて新たなソリューション技術を続々開発。
今では完全に、企画、調査、設計、建設、運転、保守、改良、統廃合までの、いわゆるプラントライフサイクルのすべての段階において診断し、問題解決のための高度で先進的なサービスを提供する、いわば高経年化プラントの〝総合病院〟ともいえる、ことにエネルギー関連業界にはなくてはならない存在にまでなっているというのだ。
で、業績はというと、
「お陰さまで、1期目から黒字決算ができました」
ちなみに現在の売上高は40億円弱。陣営の数は160人に及ぶ。ついでながら売上高の約7割は千代田以外からの受注で、とりわけ製油所については、今や国内のほとんどに対して同社がサービスを提供しているという。
こちらもまた、見事というほかあるまい。
需要拡大必至もカギは圧倒的技術力の有無 アブダビ進出など海外戦略も着々
いみじくも2012年は、同社にとってエポックメイキングな、とも言うべき重要な意味を持つ1年だったという。2008年からスタートした事業5カ年計画、「ChAS CHALLENGE 2012」の最終年だからである。
計画の課題はズバリ、〝一層のステップアップ〟だ。
具体的にいうと、すでに確立しているエンジニアリング・ソリューション事業に、更なる環境対応、業務最適化を実現するためのコンサルティング事業と、ITソリューション事業を加えた3本の柱を明確に打ち出し、真の意味での〝統合型シンクタンク企業〟へと脱皮、進化を果たすことである。
そのためには、弛みない技術革新と一層の先進的技術者育成、M&Aも視野に置いた自社にない斬新な技術の取り込み。この3つが欠かせないと氏は言う。
「私どもに限りませんが、今この国の産業界は、生きるか死ぬかの重大な岐路に立たされています。
要するに、もはや避けようのない技術の陳腐化と製品の陳腐化、そして国内市場のシュリンクという3つの宿命的難題に、どういう技術を以ってどう立ち向かうか。これにすべてが掛かっているということです」
言うまでもないが、技術革新に終わりはない。しかし日頃の危機管理意識がよほど強いのだろう、氏は更に、その1歩も2歩も先を行く。
「よりいいものになるのであれば、今持っている技術を捨ててもそちらの技術を採用します。何らこだわる必要はありません」
ご本人がどう思っているかは知りようもないが、おそらくはこれが、あの有名な〝コールド・アイ・レビュー〟に代表される、ある意味での千代田イズムなのだろう。
常に自らを第三者的な立場に置き、いいものはいい、悪いものは悪いと冷静な目で見て評価する習慣が、骨の髄まで浸み込んでいるに違いない。
少々遅ればせながら、どこぞの光学機器メーカーの歴代社長たちに、爪の垢でも煎じて飲ませたいものだ。
最後に、今描いている今後のビジョンについて話を聞いた。
「もちろん国内の需要にも抜かりなく取り組み、応えていきますが、併せてこれまで以上に、海外からの受注を増やしたいと考えております。
数年後の目安としては、国内50、海外50といったところですね。
その手始めと考えていただいて結構ですが、すでに中東アブダビに拠点を構えておりまして、カタールの千代田の拠点と連携し、一気にサービス網を広げていく計画です。
というのも、1970年代後半から80年代に千代田が現地で手掛けた、数多くのプラントがこれから悉く高経年化していく時期に入るからです。
その意味で需要にはこと欠きませんが、一方で韓国勢などの台頭によって、年々、競合も激しくなりつつあります。
仮に価格競争になったら勝てませんから、そこは180度発想を転換して〝圧倒的技術力〟で勝負するしかありません。
要するに目指すところが何か、ですよ。それさえ弁えていれば、何ら恐れるに足りません」
圧倒的技術力──。
今まさに、日本のモノづくりが直面している喫緊の課題である。というわけで読者諸氏、くどいようで恐縮だが、ゴジラが現れてからでは成す術がありませんぞ。
●渡邊昌宏(わたなべ・まさひろ)氏…1976年国際基督教大学(教養学部応用物理専攻)を卒業後、千代田化工建設入社。
サウジアラビア、インドネシアなどのプラント建設において、主にコントロール担当として従事。
以来、コストコントロールなどシステム開発を担当。さらには国内営業、経営企画など幅広い分野で活躍。
2002年4月、千代田アドバンスト・ソリューションズ設立とともに転籍。取締役営業本部長、常務取締役を経て2009年6月、取締役社長就任。
千代田アドバンスト・ソリューションズ株式会社
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※本記事は2012年4月号に掲載された記事を再構成しています