日本初のサービス業に特化した「定額制研修システム」を全国に展開しているグローイング・アカデミー。

入会すれば、50人までの従業員の場合、月額7万円で、アルバイトから管理職まで職能階層ごとに細分化された約100種類の講座が受け放題となるのが特長で、開校からわずか6年で会員企業が1700社に達するほどの人気を集めている。

 

運営する株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン(H&Gジャパン)の代表取締役社長であり、同時にグローイング・アカデミーの学長でもある有本均氏に話を聞いた。

 

 

マクドナルドとユニクロで教育部門を担当    人材育成のエキスパートが起業を決意するまで

有本氏は早稲田大学政経学部1年生の時にマクドナルドでアルバイトを始め、そのまま日本マクドナルド株式会社に入社。

同社で店長、スーパーバイザー、統括マネージャーを歴任した後、社員教育機関『ハンバーガー大学』の学長を務める。

2003年にはユニクロを運営する株式会社ファーストリテイリングに招かれ、同社の社員教育期間「ユニクロ大学」の部長に就任するなど、外食・サービス業の世界的な企業で教育部門に携わり、その仕組を作ってきた、人材育成のエキスパートだ。

「自分がサービス業で働くことになった原点はマクドナルドでのアルバイト。それ以来、お客さんと直接触れ合えるサービス業の現場が大好きになり、ずっと現場に携わっていたいと思っていたんです」

株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパン代表取締役社長 グローイング・アカデミー学長 有本 均

そんな有本氏だったが、東日本大震災の翌年にあたる2012年、H&Gジャパンの立ち上げを決意する。

その頃の日本はリーマンショックによる不況からまだ抜け出せないところに、さらに追い打ちをかけるように震災が起きたため、有本氏には「サービス業をはじめ、日本全体がすっかり元気をなくしてしまった」ように感じられていたという。

 

「日本を元気にするためには、まずサービス業が元気にならないといけない。

これまでの自分の経験を生かしながら、1つの企業だけではなく、サービス業全体に貢献し、恩返しがしたい。

サービス業界の人を変え、未来を変えていきたい。そうした思いからH&Gジャパンの立ち上げを決意しました」

 

 

月額7万円の場合50人までの全スタッフが約100講座を受け放題

H&Gジャパンが運営する「グローイング・アカデミー」は、サービス業に特化した定額制研修システムで、月額7万円の場合、1社あたり50名までの全スタッフが、100種類を越える全ての講座を何度でも受け放題になるというもの。

受講できるスタッフは非正規雇用のアルバイトやパートから正規社員、経営者まで役職を問わない。

有本による店長向け講座一例

講座内容は「接客力UP」や「コミュニケーションUP」といったテーマで新入社員やアルバイト向けのものから、「店舗運営力UP」「マネジメント/指導力UP」など店長以上向けのものまで、職能階層ごとに用意されている。

 

「アルバイトや新入社員は仕事の基本や接客の基礎、アルバイトリーダーや店長にはリーダーシップやクレーム対応といった具合に、受講者のレベルに合わせた講座が選べるようになっています。

同じ講座を何度受けても構わないので、店長になった人が新人を指導するために、改めて接客の基礎講座を受講するといった利用もできます」

 

月額7万円という価格は一般的な研修費用の3分の1以下の水準だが、この価格設定にも有本氏のこだわりがある。

「社員教育に本当に困っているのは中小企業です。

中小企業は、店舗開発や商品開発においては大手との格差を縮めてきました。

しかし、こと人材育成面では格差が開く一方です。

スタッフの教育をしたいが、やり方がわからない、任せられる人もいない、資金も時間もないと考えている中小企業の経営者はとても多い。

そんな中小企業でも手軽に始められる価格や仕組みにしたかったのです」

 

 

サービス業の経験豊富な講師を厳選し現場ですぐに役立つ講座を実現

価格や仕組みに加えてもう1つ、有本氏がこだわったのは講師の人選だ。

現在、グローイング・アカデミーには有本氏も含め10数名の講師がいるが、その全員に何かしらのサービス業の現場経験があるという。

グローイング・アカデミー新宿校 クラスルーム

「現場経験があることはグローイング・アカデミーの講師になる必要不可欠な条件です。

何を教わるかよりも、誰に教わるか。

サービス業の現場で働いている人にとって、これは非常に重要なこと。

 

現場のことは現場経験者にしかわからない、現場経験もない人にとやかく言われたくないという思いは、サービス業に携わる人ほど強く持っています。

 

自らの体験談を実際の事例として話すことができるのとできないのとでは説得力が大違いです。

受講生と同じ目線で話すことで受講生は共感でき、学ぶことができます。話術など講師としてのスキルは場数を踏んでいけばいずれ上達していくもの。

大切なのはサービス業の現場を知っていることなんです」

 

講座中のディスカッション風景

また、講師の話をただ聞いているだけではないのもグローイング・アカデミーの特筆すべき点だ。

講座には受講者同士のディスカッションやロールプレイングなどを取り入れ、受講者が発言する機会を数多く設けている。

講義中に受講者同士が自然に打ち解けあい、講座が終わった後も受講者間の交流が続くという副産物も産まれているという。

 

「受講者は役職も職種も業種もバラバラですが、講義中は一緒になって意見を交換しながら1つの課題に取り組んでいく。

新人でも店長でも、経営者クラスの人でも講義中は同じ受講者。

同じ土俵に立って堂々と意見を言い合う。受講者にとって大きな刺激になっているようです」

 

 

設立6年で延べ1700社が導入    新サービス「H&G Club」もスタート

グローイング・アカデミーはこうした強味を存分に生かし、設立から6年で東京、大阪、福岡、名古屋、横浜、札幌と全国6カ所に開校した。

これまで導入した企業は延べ1700社以上に達し、25万人を超える現場スタッフが受講している。

 

全国の教室を繋いだ中継講座の様子

さらにH&Gジャパンでは、このグローイング・アカデミーに加え、今年2月から新たなサービスとして「H&G Club」もスタートさせた。

これはサービス業に特化した人事部のトータルサポートサービスで、月額定額制で人事の困り事を解決するサービスが使い放題になるというもの。

例えば、グローイング・アカデミーで行っている講座の内容を動画で提供するオンデマンド研修が受けられる。まず約50講座を提供するところからスタートし、今秋までにはほぼ全ての講座を受講できるようにする予定だ。

 

「これまでのグローイング・アカデミーでは、受講対象者が大都市圏に限られていました。H&G Clubなら全国どこからでも利用可能になります。

地方の利用拡大を促し、地方のサービス業の活性化につなげたい」

 

H&G Clubではほかにも、行動特性やメンタリティを分析し、個性を形成するパーソナリティ、基礎資質・適性や心理傾向などを知ることができ、人事採用の際に役立つ「適性検査 H&G|EQ」、サービス業で利用するフォーマットや各種資料・動画マニュアルを提供し、現場や人事・教育部門の業務効率アップに貢献する「フォーマット・マニュアル提供」、人財採用・育成・教育などに関する相談窓口として、最適なアドバイザーが対応するヘルプデスク「育成相談窓口」といったサービスを提供する。

 

 

マニュアルは最低限を担保するツール    自分で考え行動できる人材が大切

「今、サービス業は深刻な人不足に悩まされています。以前なら、サービス業で人員が必要になる際、すぐに採用ができていました。しかし、今は次にいつ採用できるか分かりません。

採用できたならば、たとえどんな人材であっても、企業が時間をかけて育成して戦力にしなければならない。

人を選べる時代ではなくなったのです。

人を大切にする仕組みをつくり、人材教育に力を注がない企業に未来はありません」

 

立居振る舞いを学ぶ講座での接客練習(ロールプレイング)

H&Gジャパンが目指しているのは、端的に言えばマニュアルを超えた接客ができる人材教育だ。

マニュアルを否定するわけではなく、マニュアルを作り、それを徹底させた上で「お客さま1人1人に合わせ、場面に応じた接客を自分で考えてできるようになることが大切」と語る有本氏。

 

「例えばその店でハンバーガーを1番美味しく作る方法はマニュアルに書いてある通りに作ることなんです。手順や材料の量などを勝手に変えてしまえば、同じ味が再現できなくなってしまいます。

接客の基本である、笑顔でお客さまにあいさつをする。実はきちんと教えないとこれができない人も多いんです。

お辞儀の仕方や身だしなみなど、マニュアルで指導しないと分からない。マクドナルドのアルバイトには16歳の高校生から70歳を超える高齢者まで大勢いました。

彼らに同じように接客してもらうためには〝マニュアル通り〟動くことが求められていたのです。

マニュアルは誰もが平均的なレベルの接客ができるようになるためのもの。

最低限を担保するツールです。

マニュアルを超えた接客ができるようにすることが私たちの目指す人材育成です」

 

働ける時間は「あと25年くらい」と笑う有本氏。現状に甘んじることなく、サービス拡大のスピードをもっと上げていきたいと話す。

 

「サービス業界に携わる人を変え、未来を変えたいと始めたこの事業。

6年で1700社の導入という実績は自分にとってはまだまだと思っています。H&G Club利用者の裾野を広げ、これからもっと利用者拡大の速度を上げていく予定です」

 

人材教育がサービス業界の未来をどう変えていくのか、H&Gジャパンの今後とともに注目したい。

 

 

有本均

1956年、愛知県生まれ。

早稲田大学政治経済学部入学後、大学1年からマクドナルドでアルバイトを始め、1979年日本マクドナルド株式会社に入社。店長、スーパーバイザー、統括マネージャーを歴任後、社員教育機関である「ハンバーガー大学」の学長を務める。

2003年、株式会社ファーストリテイリングの柳井社長に招かれ、社員教育機関である「ユニクロ大学」部長に就任。社員・アルバイト教育の基礎を創った。

その後、株式会社バーガーキング・ジャパンの代表取締役など、外食・サービス業の代表、役員を歴任。

2012年、株式会社ホスピタリティ&グローイング・ジャパンを設立。定額制研修サービス「グローイング・アカデミー」の学長を務める。

 

 

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