地方が悲惨なことになっている、なんて言ったのは誰だ!

この人の話を聞いているとついそう叫びたくなる。

はっきり言って、大都市部の下手な有名企業より遥かに元気で溌剌としているのだ。新潟県中南部に位置する、小千谷市の鉄工電子協同組合(加盟68社)である。

何がどう元気なのか。そしてその元気はどこからきているのか。丸山春治理事長の話と周辺から得た情報を基に、詳しくレポートする。掛け値なし。これは為になりますぞ。

 

 

〝07年問題〟を機に親睦団体が建設的団体に脱皮

まずは明るいニュースからひとつお届けしよう。

おそらく本稿が読者の目に触れる頃には正式に発表されているだろうが、フライス盤、普通旋盤、NC旋盤などの国家技能士(1級または2級)合格内定者が、今年だけで実に34人。5年前までは全68社を合わせても五指に満たなかったのに、これで都合100人超になる計算である。驚異的な資格ラッシュ、合格ラッシュといっていい。

 

なぜこんなにも様変わりしたのか。またそこにはどんな狙いがあり、どれほどの意味があるというのか。

「大きな意味があります。これによってまずはいわゆる〝07年問題〟の手立てと、伝統的地場産業の近代化、競争力強化に向けた力強い第一歩が踏み出せたという点です」(丸山氏、以下同)

 

〝07年問題〟とは2007年から順次始まった団塊世代の定年、リタイヤによる技術者不足と技術力低下の問題で、1990年代後半から全国的にも盛んにいわれてきたことだ。

それでなくても少子高齢化が進み、技術継承が難しいというのに、この国のモノづくりはどうなってしまうのかという国家的課題である。

これへの手立ては率直に言って、人材も内部留保もいっぱいある大企業ならともかく、町の中小零細企業が1社で頑張ってみてどうにかなるという話ではない。

 

そこで同協組の理事らが、何度も議論を戦わせた末に立ち上げたのが、「テクノ小千谷名匠塾」なる協組挙げての若手技術者養成制度である。1社ではできないこともみんなで結束してやればできる。そのための協同組合ではないか、ということだ。

「今思うとこのことの合意が大きかったですね。だってそれまでの協組といえば、単に共同仕入れでコストを下げるとか、時折り顔を合わせて親睦を深めるとか、互いに銀行借り入れの便宜を図るとか、いわば受け身の団体であり社長さんたちの寄り合いだったのに、それがこれを機に、みんなが結束して言うべきは言う、変えるべきは変える〝建設的団体〟に脱皮したんですから」

 

合意はみた。しかしだからといって話がトントン拍子に進むとはもちろん限らない。

誰がいつどこでどう教えるのか。そもそもベテランとはいえ叩き上げの職人さんに、講義なんて系統だった教え方ができるのか。養成所はどこに設けるのか。教材(手引書や機械など)はどう調達するのか。

試行錯誤のうちにそれでも何とか、座学主体で制度はスタートした。実習はポリテクセンター(職業能力開発促進センター)の機械を借りてたまに実施したが、規定がやかましくてなかなか思うようにはいかない…。難問をしこたま抱え込んだままの、とりあえずの船出である。

 

 

自ら率先して頑迷固陋な日本型職人気質に風穴を開ける

時折しも、あの新潟中越沖地震(2007年7月)の直後だ。

小千谷市も大きな被害を受けたのは周知の通りである。氏が経営する会社(ヒムエレクトロ社ほか)も例外ではない。2棟あった工場のうち1棟が操業不能でまったく仕事にならなかったという。

 

しかし氏はこのピンチを、なんとチャンスに変えるべく行動を起こすのだ。

「まずは壊れたほうの工場を直して養成所に当てるようにしました。同時に国や県、市から出ているさまざまな復興対策も、自分の会社だけに使う手はないと思いましてね。

地場産業復興の為にも名匠塾は何としても実効性あるものにしたい。そのためにはこれこれこういう機械が必要で、これだけの講師を雇いたいと、理事仲間といっしょにずいぶん役所に通って説得しました」

 

まさに禍転じて福となすだ。谷井靖夫小千谷市長もこれには大いに賛同したようで、申請はほぼ全面的に認められたという。僅か5年足らずで100人余りもの国家資格技能士を輩出した、これがその背景である。

小千谷のモノづくりが大いに活気付いたのは言うまでもあるまい。〝建設的団体〟の面目躍如といっていいだろう。

 

地震話のついでといえば少々不謹慎かもしれないが、同協組からは、その地震の際にも先年のリーマンショックの際にも、1社の倒産も出ていないという。近隣の柏崎市や長岡市では数えきれないほどの倒産会社が出ているのに、である。

氏の話によると、これはどうやら小千谷という地域の産業の特性と、人の気質が少なからず関係しているようだ。

 

「古くから鉄工の盛んな町ですが、いわゆる企業城下町ではありません。それぞれが独自の技術を持ち、大手の下請けに甘んじることなく、自ら取引先を切り拓いてきた、ある意味で非常に独立心の強い企業風土をそれぞれが持っているんです。

また、潔いというか男っぽい気質の人が多くてですね、例えば地震でA社が操業不能になったとするじゃないですか。となるとそこから部品の供給を受けていた会社は仕方なくB社に依頼します。するとB社はこう言うんですよ。今回は引き受けますが、A社が復旧したらこれまで通りそちらに発注してくださいよって」

 

これを単なる美談とみるのは早計だ。善くも悪くも、かつては全国どこの町でもみられた、これが日本型の職人気質というやつだからである。

善くもというのは、自主性であり独立心だ。他人やお上に文句ばかり言っても始まらない。ましてやオマンマを恵んでくれるわけでもない。だったら自分でやるしかないじゃないか、という気概である。

悪くもというのは、もちろん皆がみんなそうとは限らないが、社会の変化に対する融通性や順応性に欠ける、というなところだ。

 

いささか回りくどい言い方になったが、氏が理事長としてここまでやってきたことをひと言でいえば、自ら率先してその頑迷固陋な日本型職人気質に風穴を開け、地場産業の近代化と競争力を強化すること、これに尽きるのではないだろうか。

 

 

最終目標は〝小千谷〟という名のブランディング

とまれ氏が理事長として最終目標としているところは、

「〝小千谷〟という名の鉄工、電子工業のブランディングです」

 

それにはそれぞれが持つ固有の技術にさらに磨きをかけることだという。

「これはとくに小千谷に限ったことではありませんが、その為にも日本のモノづくりは根本的に頭を切り替える必要があります。

もはや欧米の真似や大量生産の時代ではない。もうそれは新興国に任せて、創造性に満ちた付加価値の高い多品種少量生産に、我々は目を向ける時代ですよ」

 

もうお分かりだろう。旧習や経験則に囚われることなく、何事にも果敢に挑戦するというこの一連の改革が、この町の〝元気の源〟になっているということだ。

 

ちなみに氏は、先のヒムエレクトロ社をはじめとするグループ6社(国内4社、海外2社)の最高経営責任者でもある。

創業は1975年。コイルの捲線加工からスタートし、現在は間欠イオンエア洗浄システムや基盤クリーナー、省力化設備などの設計製造販売を行っている全国でも有数の捲線機メーカーだ。

早くから多品種少量生産と高付加価値化、さらにそれが全国どこの工場でも金太郎飴のように同じモノがつくられる高度の自動化と、標準化に取り組んでおり、その完成度は業界屈指ともっぱらの評判である。

 

とりわけ氏がこだわっているのは高度な自動化で、

「人の手を極力、介さないほうが均一で品質の高いモノづくりができる」

からだという。一見先の「名匠塾」と矛盾するようだが然に非ず。

「優れた技能士が1人いれば、メンテナンスも含めて高度な自動機がますます威力を発揮します。逆に技能士のレベルが低いと1台の自動機に何人もの人が係わることになります。それだけコストが掛かり、高品質化や標準化も妨げられるのです」

 

ついでのようで恐縮だが、同グループは中国にも早くから進出し、順調に業績を伸ばしているという。

「いえいえ。8年目にしてようやく利益が出始めたところですよ」

と飽くまで謙遜はするものの、失礼ながらその目や物腰から溢れ出る元気と溌剌さは、隠しようもない。

とまれ今回は残念ながらあまり聞けなかったが、是非とも近いうちに再取材し、次回はそのヒムグループについても今少し詳しくご報告することとしよう。

 

 

●プロフィール

丸山春治(まるやま・はるじ)氏

1950年、新潟県小千谷市生まれ。

東京の叔父の家業(豆腐店)を手伝いながら高専に学び、卒業後、郷里に帰って鉄工所勤めをする。

約2年後、新聞にあった大手電気会社の協力工場募集広告を見て応募。一定の技術を習得の後に、1974年、個人会社丸山電気として独立を果たす。

2年後、有限会社ヒム産業設立と同時に代表取締役に就任。以降、コイル加工、磁器ヘッドコア加工、VTR用フェライトコアの一貫生産など着実に業容拡大。

1992年以降は中国、香港、三重県、北海道帯広などに相次いで工場、またはグループ企業を設立し、最高経営責任者として指揮を執る。

2006年、小千谷鉄工電子協同組合の初代理事長に就任。現在3期目を努める。

 

小千谷鉄工電子協同組合

〒947-8691

新潟県小千谷市本町2-1-5

小千谷商工会議所内

TEL:0258-81-1300

URL:http://www.techno-ojiya.com

 

ヒムエレクトロ株式会社

〒947-0044

新潟県小千谷市大字坪野853

TEL:0258-81-2381

URL: http://www.himu.co.jp/