株式会社高崎精器 – 商社に頼らない、 独自のパートナーシップでアメリカ、欧州市場へ。
断裁機シェア ナンバーワンにも安住しない!
昨今の電子書籍ブームに伴い、このところにわかに脚光を浴びている事務機器に断裁機がある。
その断裁機の設計・製造を手掛けて半世紀以上、今では個人ユースの断裁機で圧倒的なシェアを誇っているのが高崎精器だ。
しかしながら同社では、降って湧いた流行に安易に便乗することなく、先を見据えた世界戦略が着々と進められている。バブル崩壊の頃から同社を牽引し続けている半澤健社長に、現在の状況分析と将来のヴィジョンを語ってもらった。
突然やってきた〝自炊〟ブームで個人ユーザーが急増
「自炊」という言葉を聞いたことがあるだろうか。
独身者が家で食事を作るあの自炊ではなく、電子書籍の話である。
ざっくり言えば、本や雑誌を解体し、イメージスキャナを通してデジタルデータに変換する行為を指す。そのデータを携帯端末にどんどん落としておけば、何百冊もの本を持ち歩くのと同じ理屈で、いつでもどこでも好きな本を選んで読むことができるというわけだ。
もとはインターネット上で使われていたスラングで、データを「自分で吸い込む」ところからきている。その自炊する本の解体用に、高崎精器の断裁機が今、圧倒的に支持されているのだ。
「以前は9割以上が官公庁や学校などに納めていましたが、ここ1〜2年は、8対2の割合で個人ユーザーが大きく上回っています。
個人が使う断裁機はギロチン式の簡易型が中心ですが、それでも週刊誌1冊分くらいはラクに切れます。もともと開発したのが弊社ということもあって、ほぼ100%近いシェアを弊社が占めています」(半澤社長、以下同)
しかし、だからといって安穏とはしていられないようだ。
「この現象がいつまで続くかわかりませんからね。慎重に見極めていかなければと、気持ちを引きしめているところです」
消費財ではないから、ある程度まで普及すれば当然、需要は鈍るだろうし、そうでなくても〝自炊代行〟という新たな業態が生まれたことで、これに対する法的見解が取り沙汰されているという背景もあるからだ。
したがって詳しくは後述するが、〝次の一手〟にはもちろん抜かりない。
それにしても、これだけの快進撃を可能にした秘密はどこにあるのだろうか。まずはそのルーツを探ってみよう。
昭和27年設立。今年でちょうど60周年になる。当時から断裁機や事務用穿孔機をメインに設計・製造をしてきた、紛うことなき斯界のパイオニアである。
いまでは金属加工やプラスティック金型、メッキ、塗装、樹脂加工など幅広く手掛けてはいるが、中心はやはり断裁機と、後述する乾燥機のようだ。
「零細企業が作って勝負できる商品を、と考え、断裁機というニッチな技術でやってきました。
断裁機は昭和20〜30年代に一気に需要が伸びた商品で、当時は同業他社も多かったようです。しかし昭和が平成になり、価格競争になってどんどん淘汰されていき、同時に全体のパイも小さくなりました。残った少ない会社でそれを取り合うような格好になっていたんですね。
幸い、高崎という田舎の会社で規模のわりに土地の面積も広く取れていたことなど、いくつか恵まれた点はあったと思います。
それとウチのいちばんの特長として、従業員はいま、19名しかいないんですが、自社商品の開発をしてきたことがやはり大きいと思います。
断裁機というのはけっして複雑な機械ではありませんが、開発した商品に関してはとことんプロフェッショナルの意識を持っています。設計から開発、組み立てまでを自社でやれる現場で、みんなマルチに仕事をしてきたからです。
旋盤であれフライスであれ、1人で何役もやれる従業員が少なくないんです。そんな環境で、〝断裁機だったらよそには負けない〟という自信ができあがっていったのだと思います」
厳しい価格競争の中で何を訴えていくのか
外から見ていれば一人勝ちのように見える高崎精器の断裁機だが、ここへ来て海外(その多くは中国製)の商品が流入し、厳しい価格競争にもさらされているようだ。
「海外のものは価格が半値以下。商品自体は比べてもらえば歴然とウチのほうが優れていますが、しかし切れ味というのは試してみないとわかりませんね。
〝外国製のものでも切れるじゃないか。であれば安いに越したことはない〟そういう声が大きくなってくれば、これは厳しいです」
半澤社長は、目先の安さだけではなく、将来にわたるランニングコストまで見てほしいと訴える。
「ただ切れればいいということではなく、その切れ味がいつまで続くのか、そしてどこまできれいに切れているかが問題です。
もともと日本の紙は非常に質が良く、切れにくいんです。それを断裁するには高い品質が求められます。ですから、使用する刃物は選りすぐりの材質を使うことはもちろん、あらゆる製造工程で手間もコストもかけています。
それともう一つ、安全性の問題。
台所の包丁は、切れない包丁より切れる包丁のほうが安全でしょう? 断裁機も同じ。切れなくなってくるとどうしても力を入れますから、これが危ないんですね。場合によっては支柱が折れることもあるし、機械をダメにしてしまうこともあります。
安い商品に手が伸びてしまう心情は痛いほどわかりますが、トータルなランニングコストを見ればどっちがトクか、そこをよく考えていただきたいと思います」
このシビアな価格競争の中で、高崎精器が追求しているのは、良いものをできるだけ安く売ることだという。
あたりまえのようだが、これが実に難しい。その姿勢は、断裁機ばかりでなく、同社のもう一つの主力商品である乾燥機にも貫かれている。
「レインメイト」と名付けられたロッカータイプの独自の乾燥機は現在、消防や警察、道路公団、JR、市役所の土木課など、多くの公共機関で使用されている。成田空港にも装備されており、近く関西空港にも納品の予定だという。
「ゴルフ場に行きますと、雨の日に着る合羽を乾かす機械がありますね。あれがレインメイトです。
屋外で作業される方に雨や雪はつきものですから、合羽を着て作業をしていた方が屋内に戻ってきて、次にまた出て行く時までに乾かしておける機械がどうしても必要になります。
レインメイトはステンレスを使っていますが、こうした乾燥機に、標準でステンレスを使用しているケースは、他社製品では見当たりません。他社は一般鋼板を使います。コストがまったく違うからです。
しかし、水に濡れるものなのに鉄でいいのか?という疑問が残りますね。実際、外側は大丈夫でも、海沿いのゴルフ場なんかだと、ロッカーの中は錆びてきます。実はウチも以前は鉄を使っていたんですが、それではやはり良い商品は作れないと考え、5年ほど前にステンレスに切り替えたんです」
断裁機と乾燥機。分野は違えどまったく同じコンセプトの下に作られていることがよくわかる。たとえコストがかかっても、自信を持って送り出せる商品を作ること。その商品の高いパフォーマンスによって信頼を得ていくこと。これが高崎精器のやり方なのだ。
自社製品に自信アリ 独自ルートで欧米市場に挑戦
しかしそれでもなお付き纏うのが、やはり価格競争である。したがって、であればコストの安い海外へ、と考えるのは当然の理だ。
そこで多くの企業が海外進出を図るが、結局は煮え湯を飲まされただけで撤退してきた、という事例は枚挙に暇があるまい。
「弊社としては、自ら出て行って工場を構え、製造しようという気はまったくありません。現に今も、マレーシアに東南アジアの営業拠点がありますが、これは現地提携工場によるものです。30年近くお付き合いしている会社ですが、かなり力をつけて、今ではウチより大きな企業に成長しました。
ですから今後は、ウチで図面を作って現地で製造し、マレーシア国内で販売をする、あるいは円高がまだ続くとすれば、逆輸入も可能性としては考え始めています」
半澤氏が先代社長(義父)からバトンを受けたのは平成元年だが、それ以前と以降とで大きく変わったことの1つが、販売ルートだという。
「先代の頃は、取引商社さんが1社だけだったんです。そこの社長も〝ウチとやっていれば心配ないから〟と言ってくれていましたしね。しかしその社長さんが亡くなり、時代も変わりますと、〝ウチだけと商売していても責任は取れません。御社は御社で独自に販路を開拓してください〟というスタンスに変わったんです。
当初は仕事が減って厳しかったですが、他の商社さんから取引したいという声がポツポツ出てきて、やがて、たくさんの商社さんと取引できるようになりました。
というのも、価格競争の中で断裁機の製造をやめる企業が相次ぎ、結果的に皆さん、弊社に買いに来るようになったんです。もちろんそれだけじゃなく、他社以上に、弊社の技術力が認められたものと自負しておりますが」
夢は〝自社製品を、世界スタンダードに!〟
最後に、同社がいま考えている〝次の一手〟と、そのためにいま取り組んでいることを訊いてみた。
「東京都内にアンテナショップ的な拠点を一つ、作ろうと考えています。といいますのも、〝商品を見たい〟というお客様が東京を中心にけっこう増えてきているんです。と同時に、新たな販売ルートを作るという目的もあります。
これまでの製品についてはこれまでの商社さんにそのままお願いしますが、新しく開発する製品は、新たな直販ルートで展開しようと考えているからです。
ターゲットはアメリカとヨーロッパです。断裁機も乾燥機も、もちろん向こうの製品より優れているという自信があります。すでにパートナー企業(貿易会社)も決まっておりまして、緊密な連携の下に、情報の収集から発信、ネットワークの構築、供給商品の選定など、徹底した輸出戦略を練って乗り出す計画です。
これを機に弊社の製品が、日本のスタンダードから世界のスタンダードになることを目指したいと思います」
物腰や言葉遣いこそ穏やかだが、これこそが日本のモノづくりに携わる男の気概なのだろう。
世界を舞台に、一層の〝切れ味〟を期待したい。
●プロフィール
半澤 健(はんざわ・けん)氏
1957年、山梨県生まれ。専修大学卒業後、高崎精器に入社。
およそ10年の経験を積んだのち、先代社長の後を継ぎ、平成元年より同社2代目代表取締役に就任。以来、23年間にわたり、会社を牽引している。
高崎精器株式会社
〒370-0884 群馬県高崎市八幡町370-1
TEL:027(343)3781
URL: http://www.tpmc.jp/