新潟大栄信用組合4代目理事長 八子英雄氏

「組合は組合員のもの」と語る新潟大栄信用組合(新潟県燕市)の4代目理事長・八子英雄氏。

経営規模は小さいながらも、同信組は設立以来、黒字経営を続け、自己資本比率は全国の信用組合の中でベスト10内をキープし続けている。同信組がなぜ地元から愛され、揺るぎない財務基盤を守ることができているのか。その理由を探った。

 

 

「取引先を倒産させない」方針を守り抜く

新潟県に「泥臭い経営」を地で行く金融機関がある。同県燕市に本店を構える新潟大栄信用組合のことだ。

「格好なんてよくありません。派手さもありません。ただ、小さな企業や個人であっても組合員の中から『落伍者を出さない』『取引先を倒産させない』という方針を1952年の設立以来、地道に守り抜いてきました」そう話す同信組の4代目理事長・八子英雄氏。

 

洋食器製造で世界的に知られる燕市をはじめ、長岡市や柏崎市など同信組の営業エリアは製造業が盛んな地域である。地域密着型の協同組織金融機関である信用組合は、その成り立ちや根拠法から主な取引先は中小零細企業だ。「組合員には大手メーカーの下請け企業の方がたくさんいらっしゃいます。

そうした中小零細企業は親会社の事業方針次第で突然、受注がなくなるなど、非常に経営が不安定です。だからこそ、この地域に根を張る私どもは組合員の方々の実情をしっかりと理解し、気軽になんでも相談できる信組でありたいと思っています」。

 

負債があっても逃げない金融機関

同信組にはその言葉を裏付けるさまざまな事例がある。例えば、自動車部品を扱う融資先企業が、バブル崩壊をきっかけに元請けからの発注がほとんどなくなり、倒産しかけたことがあった。このままでは債務の返済もできなくなると頭を抱えた経営者は同信組に相談を持ちかけた。その結果、複数あった債務を一本化し、返済期間も延長することを取り決めたという。

 

「下請け企業にとって事業継続できる環境づくりは大切です。そのためには、事業拡大に対する融資だけでなく、資金繰りに対する融資も不可欠になります。そして、それが結果的に地域経済の安定化、活性化につながるものと考えています。ですから、たとえ、銀行が廃業を勧めるような負債があっても顧客対応を変えず、どんな情勢下であっても利用者にとって利用し甲斐がある信用組合を目指すこと、それが私どもの金融機関としての使命だと思っています」

 

そう話す同氏に、どうしてそこまで地元企業に対して親身になれるのか、改めて理由を尋ねた。すると「逃げられないからです」と笑う。

 

 

「地元の高校を卒業して当組合に入組してから50年以上が経ちました。だから、逃げられないし、悪いこともできない。職員の大半も地元の出身者です。また、地域密着型の信用組合は地元でしか生きられません。それゆえに、地元のために、組合員のために必死になります」

 

営業エリアの広い地方銀行などは利益が上がらないと判断すれば、その地域から撤退する。しかし、地元地域からの要請に応える形で誕生するケースの多い信組は、その地域に根を張った経営を行うことが本義となる。だからこそ、「逃げない」のである。

 

 

新潟県中越沖地震からの復旧

 もう1つ、同信組が地元から喜ばれる理由がある。それは地域特有の事情を肌身で理解している点だ。

 

「この地域では豪雪など予期しない災害によって生産がストップしたり、営業できなくなることがあります。そうした事情を考慮できるのは、やはり私どものような金融機関しかないと自負しています」

 

同信組および同氏の天災に対する姿勢が端的に表れたのが2007年、同氏が理事長に就任した直後に起きた新潟県中越沖地震だろう。

 

このとき、同信組の営業エリアは甚大な被害に見舞われた。同氏は被害職員の支援物資を全営業店に自ら搬送するなど陣頭指揮を執り、地震発生の翌日には全店で通常業務を行う態勢を整えたのである。

 

「こういうときだからこそ、取引先に不便をかけないようにするべきだと考え、可能な限り迅速に行動しました。この震災をきっかけに倒産の危機に陥った地元企業もありましたが、以前より経済の疲弊が進む当地域において、中小零細企業の倒産はなんとしてでも防がなければなりませんでした」

 

新潟県中越沖地震に関連した融資は、最終的に174件、13億円以上に上り、震災からの復旧の大きな原動力となったことは言うまでもない。

対人信用を重視した無担保・無保証の融資

震災が起きた年、同氏はさらなる取り組みを行う。このころ、消費者金融などによる多重債務や過酷な取り立てが社会問題化しており、燕市周辺地区でもそれは例外ではなかった。同氏は組合員から落伍者、サラ金被害者を出さないために、以前より扱っていた「家庭安泰・倒産防止特別融資制度」を全面的に改正することを決める。そして、対人信用を重視し、1000万円以内であれば無担保・無保証で融資をする制度を開始したのである。具体的には、「徳義心があるか」「家庭内は円満か」「働き者か」を評価基準とし、これを満たした事業者に対して、返済期限30年程度で融資するというものだ。

 

「返済期限を長期にし、月々の返済を少額にすることで、企業も個人も再生が可能になります。また、30年の間に新たなビジネスの芽を見つけて欲しいと願っています。たとえ1%でもビジネスの芽を見出す可能性があるならば、私どもはその可能性を高めるお手伝いをしたいと考えています。

 

当地域は人口減少が進み、経済も小さくなっています。今から本気で事業再生に取り組まなければ、いずれ地域経済も私どもも破綻します。この組合が生き残る術として、合併に走ることも1つの方法ではありますが、私にはそうした考えはありません。地元のことを熟知し、地元に愛着がある私どもと組合員の方々とが力を合わせて、なんとしても豊かな暮らしを実現していく。それを愚直に目指したいと思っています」

 

 

自己資本比率全国1位を目指して

ところで、対人信用を重視する貸付には高いリスクが伴うものだ。しかし、それを成か、歴代の理事長がそうしてきたように、私も『組合は組合員のもの』という考え方を貫き、組合員の方たち一人ひとりとの対話を大切にする。そうした地道な積み重ねを今後も変わらず、やっていきたいと考えています」。

 

 

同信組では「組合は組合員のもの」という考え方を職員全員が共有するために行っていることがある。それは営業店の清掃を支店長以下、全員で実施すること。こうした一つひとつの取り組みが、同信組の揺るぎない財務基盤につながっている。

同氏は「泥臭い経営」と謙遜するが、それは誰もが実践できることではない。泥の中でも、しっかりと根を張り、キラリと光る信用組合。それが新潟大栄信用組合である。

 

八子英雄(やこ・ひでお)氏

1940年生まれ。

1960年、新潟県立三条高校を卒業。

1962年、地蔵堂町信用組合(現・新潟大栄信用組合)に入組後、同信組理事などを経て、

2007年、先代理事長の急逝に伴い、理事長に就任、現在にいたる。

2010年、旭日双光章を受章。