新スタイルを提案する「超」短期カーリースサービス 「NOREL」 ‐ クルマは持つのではなく 〝衣服のように着替える〟時代 必要な時に、必要なクルマを、 必要なだけ、使う
日本のGDPの10%を占めるともいわれる日本経済の主幹産業、自動車。この国内市場が頭打ちとなって久しい。自動車買取大手ガリバーが始めている新たなサービス「NOREL」には、そんな自動車業界を活性化させる可能性がある。
最短3カ月から
利用可能!国内自動車
市場の活性化も
株式会社IDOM(旧名ガリバーインターナショナル)が行っているサービス「NOREL」は定額制クルマ乗り換え放題サービスと銘打ち、様々な車を低価格から利用できる超短期カーリースサービスだ。
今回はこの事業の責任者である許直人さんに話を伺った。
「国内自動車買取実績ナンバー1」を謳い、郊外の国道沿いに商品であるクルマをズラリと並べた大型店舗を誰もが目にしたことがある中古車買取大手ガリバー。そこを運営しているIDOMが2016年8月からスタートしたサービスが「NOREL」だ。
これは、最短3カ月という短期間で普通国産車から高級外国車まで様々な自動車をリースして利用できるというものだ。勿論リースなのでメンテナンス代や車検・税金・保険料は全てリース料に含まれており、利用者は他にガソリン代や駐車場代だけで済む。気軽にクルマを手にすることができるのが大きなメリットだ。
「日本ではクルマを所有しているだけで様々な維持費がかかってくる。それを考えると、クルマを買うことには抵抗がある、という人は多いのではないでしょうか。それに、日本人は平均して9年間同じクルマに乗っている。その間、飽きたって調子が悪くなったって同じモノに乗り続けている。私はもっと次々に乗り換えて楽しんだっていいと思います。だから、NORELのコンセプトは『クルマを衣服のように着替える』。もっとオシャレに、気の向くままに好きなクルマを持てる仕組みを作りたかった」
そう話すのは、「NOREL」の事業責任者許直人さん。そして「そうすることで日本国内のクルマ業界を刺激することもできる」と話す。
若者のクルマ離れが問題になって久しいが、自動車業界はそれに対して明確なアンサーを示せていない。日本国内での新車販売台数は2000年代に入り、リーマンショックや東日本大震災などでの変動はありながらも、600万台から500万台へと、概ね下降傾向にある。
これはピークの1990年と比べると約250万台、30%以上も減少していることになる。日本の全労働者の10%を占める、とまで言われる自動車産業だが、国内に限って言えば四半世紀にわたって右肩下がりを続けているのだ。
「これは不況で収入が減っていることや、少子高齢化問題とも軌を一にしています。収入が減った若者が欲しいクルマを買えなくなり、そしてやっと手に入れたら今度はずっと買い換えない。そういう消費動向だからこの業界はずっと先細りになっていっている」
「その趨勢を変えるのが『シェアリング』と『自動運転』という新しい方法です」と直人さんは言う。
すでにアメリカではテスラモーターズやUBERなどIT技術を利用した自動車サービスが始まっている。今、日本もこの流れの中で、新しい道に進む時期にある。
美容師からIT業界へ
転身様々な分野で
経験を積む
直人さんは元美容師という、異色の経歴の持ち主だ。
「父が事業に失敗して、美容師の母が女手一つで家族を養ってくれました。私も妹たちが独立するまでは家にお金を入れないとと思って、高校卒業と同時に美容師として働き始めました。その後無事に妹たちが手を離れ、さてどうしようかと思った時に美容室のお客さんに、後にDeNAの執行役員になる人がいて、その人からITのこと、プログラミングのことを教えてもらった。
IT業界なら若くても上になれるし、これからドンドン伸びていく。だから自分もIT業界に足を踏み入れました。仕事をしてみて一人でできる仕事量には限界があることに気づいた。そこで多くの人とプロジェクトを完成させてみたいと思って、IBMの下請けで大規模案件を中心に受託する上場企業に入ったんです」
そこは大企業から請けた仕事を数年がかり、数百人でやるようなところ。そこで幾つかの大きなプロジェクトに携わった後、次にITベンチャーに活躍の場を求めた。
「大企業の腰の重さに限界を感じて、もっと速く開発をしたいと思った。それでベンチャーでやっていたんですが、そこが折からのリーマン・ショックで窮地に陥る。資金を全て開発につぎ込んでいたので、波を乗り越えることができなかった。事業部を売却したり、社長が個人で資金を調達し自社株を買い戻すなどして、なんとか私を含め社員7名で再スタートしました」
開発スタッフはいなくなり、商材も無くなってしまったが、ノウハウは残っている。その知識を活用して、直人さんたちはコンサルティング会社を始める。当時、海外ではSNSの力が認知され始めていた時期で、直人さんたちはSNSを使って、有益な情報を発信しお客のほうから見に来てもらう、というやり方を日本に取り入れたのだ。
「大企業のお客さんにも恵まれて、2年で負債を返済することができました。その後、初めから最後まで事業を見る経験がしたいと思ってモバイルゲームで有名なGREEに移りました」
GREE在籍時に得た事業の立ち上げ、赤字部門の立て直し、投資案件探しなどの様々な経験は、今でも自分の血肉になっているという。様々な会社を経て、そして経験を重ねてきた直人さん。そのことを振り返ってこう話す。
「ネットが入って業界がガラッと変わる瞬間に立ち会えたなと思います。私がプログラマーとして業界に入った頃はiモードとか着メロビジネスの全盛期だった。それが今はネットも音楽ダウンロードもサブスクリプション、定額制に変わりました。クラウドブームになって、企業ビッグデータをマーケティングなどに用いるようになった。
GREEの事業ドメインであるゲーム市場はコンシューマの頃は6000億円規模でしたが、今はスマホゲームだけで1兆円に増大している(出典:ファミ通ゲーム白書2017)。こういう変革の波はどこの業界にも押し寄せていて、それが今、自動車業界に来ている。クラウド、IoT、OSなどの最近の新技術は全てクルマに活用できるもの。今、クルマ業界がアツいんです」
大きな変革期の
自動車業界カーライフを
根底から覆す
直人さんがそんな思いをもってIDOMに入社したのは2015年のことだった。
「GREEはベンチャースピリッツに溢れた企業でしたが、成長に伴いやはりどうしても大企業的になってくる。ベンチャーやスタートアップの方がアグレッシブなチャレンジができるのではないか、と考え始めていた時に、当時まだガリバーだったIDOMを紹介されました。
新事業への挑戦って、バカにならないとできないところがあると思います。大企業のなかで安定した給料をもらいながら、自分ができる領域だけで仕事をしていたら、そういうチャレンジは生まれないし、イノベーションも生まれない。そう思っていたらガリバーの執行役員で新規事業開発責任者の北島昇に『ガリバーは確かに大企業だけど、君の行くところは動物園だよ』と言われた。今だ未開拓で、荒くれの猛獣たちがツメを研いで飛躍を待っている場所だと。それでガリバーに入るのを決意しました。マァ、入ってみたらもっと凄くてサファリパークだったんですけど」
直人さんが目をつけたのは、縮小均衡になりつつある国内自動車業界がその問題解決のために自動車そのもの、ハードウェアを改良することしか考えていないことだった。
「クルマは変わっていくし、それによって起こるイノベーションは完全に予測できない中でどう事業を展開するかが課題でした。でも、クルマがどうなろうと人は必ず移動する。ですから人の移動需要に注目すべきだと思ったんです。それでクルマが必要な時、必要なクルマを、必要なだけ使う、というスタイルを提案しようと思ったんです」
それがNORELのスタートだった。流通だけでなく、業態そのものを変えようとする挑戦だった。
スタートから1年3カ月を経て、今の状況を伺った。
「ようやく事業モデルも安定して、一契約で利益が出るようになったので、今後も拡大していく予定です。現在は関東・関西・東海のみのサービスですが、社長から早く10倍、20倍の規模を求められているので、2018年年には全国に展開したいと考えています。これからもっとドライブをかけていきますよ。今、社内ではシステムエンジニアと営業がお互いに影響しあい、情報を共有したりして、良いコラボが生まれています。事業会社だと反目しがちなこの両輪が上手く融合して走り出せば、一気に加速していけると思っています」
今後自動運転の技術が進むと「クルマを持つという感覚は無くなっていく」と話す直人さん。その時に、自由にクルマを乗り換えるという新しいカーライフ・スタイルを用意しておくことが「自動車産業の新たな道を拓くことになる」という。
誕生から100年を経て、エネルギー革命、そしてシェアリング・自動運転と、第2次モータリゼーションと呼ばれる時期に入っている自動車業界。そこにNORELの仕掛ける新たな試みが今、人のライフスタイルすら揺り動かそうとしている。
【プロフィール】
許直人
1983年千葉県生まれ。元美容師。2002年ウェブ開発会社に入社後、コンサルティング会社などを経て2013年GREE入社。2015年にIDOM入社後、2016年より現職。