株式会社ニット代表取締役 秋沢崇夫氏

「様々な事情で、働きたくても働けない人たちがいる。そんな人たちが、仕事と暮らしを両立させて、充実した人生を過ごせる社会を作りたい」。

そう話すのは、株式会社ニット秋沢崇夫代表取締役。

 

そこには、人手不足に悩む企業と家庭に眠る優秀な人材を橋渡しするメソッドがあった。

 

 

全ての人が活躍できる社会に

株式会社ニットは、企業から業務の依頼を受け、それを世界各地にいるアシスタントと呼ばれるスタッフに、ネットを通じて仲介するサービス「HELP YOU」を運営している会社だ。

 

労働人口の減少、「働き方改革」が政府の方針になって久しいが、その中心にあるのが女性・老人の活躍の促進だ。特に女性に関しては、安倍晋三首相によって「すべての女性が輝く社会づくり」の推進が内閣の方針として定められており、毎年多額の予算が計上されている。

 

とは言え、では具体的にそれが進んでいるのかと問われれば、多くの企業がその対応に右往左往しているのが現状ではないだろうか。「多くの女性は様々な理由で家庭に釘付けにされてしまっています。そこには優秀な能力を持った方もたくさんいる。それを今の日本は全く活かせていない」と話すのは、秋沢代表。

 

日本の労働人口は約20前、平成7年の約8000万人をピークに減少し続けており、平成28年は6648万人で、この20年で1500万人近くの労働力が日本から失われたことになる(厚労省調べ)。

6648万人の内訳は男性3765万人に対して女性2883万人なので、女性の割合は43.3%となっている。この女性の労働人口割合は、近年は上昇を続けているのだが、それは非正規労働者の数が増えた結果として、であり正社員そして管理職の女性の比率は依然として低く、女性の社会進出を測る「ガラスの天井指数」ではOECD(経済協力開発機構)加盟29ヵ国中、28位という不名誉な地位に甘んじている。

 

「その原因の多くは、女性が仕事を自ら選べない状況に置かれていることにあります。日本では女性がキャリアアップしていく途中に、どこかで『仕事か家庭か』を選択させている。そこで家庭を選択した場合、家庭では男性主導にならざるを得ない。登録していただいているアシスタントには結婚前には正社員としてバリバリ働いていながら、結婚・出産を機に退職することを余儀なくされた、という方が多くいらっしゃいます」(秋沢代表)

 

国は女性に働いて欲しいし、女性ももっと働きたい。しかし企業としては育児・家事を優先する女性を扱いづらいので、雇用に二の足を踏んでしまう。そんな状況に、秋沢代表は疑問を感じていた。

 

仕事の仕方を選択できる幸せ

 秋沢代表が起業したのは今から2年前、2015年のことだった。

 

「大学2年生の時にいわゆるITベンチャーに参加し、それから約10年、朝から晩まで仕事に没頭して走り続けていました。そして30代に入って、今度は自分の会社を立ち上げようと考えるようになって。仕事を辞めてすぐに起業する!と周りに言っていたら、ある先輩から『焦って会社を作るくらいなら、少し立ち止まって自分の見聞を広げてみたら』と言われたんです」(秋沢代表)

 

学生時代からつっ走り続けてきた秋沢代表は、その言葉を聞いて考えを改め、退職後、海外放浪の旅に出た。アメリカを横断してみたり、東南アジアに足を伸ばしてみたり。

 

「けれど、仕事を辞めたと周囲に話しておいたら、じゃあこっちの仕事を手伝って、と色々頼まれるようになって。旅先でもドンドン仕事のメールが入ってくる(笑)。ですが、そこで頼まれる仕事は、日本にいなければできないものばかりではなく、どこにいたってPC1つがあればできるものも多かった。そこで、地方や海外でも好きな所で生活しながら仕事をすることは可能なんじゃないか、と考えたんです」

 

 

 

そもそも前職で数十人の部下と共にプロジェクトを行っていた秋沢代表だったが、その時も仕事の割り振りや雇用の仕方に疑問を感じることが多かったという。

 

「仕事を頼もうとしても、適任の人や時間が空いている人がいなくて、しょうがないから自分でやるか、となることが何度もあって。大抵は雑務なんですが、そういう仕事を頼める人が『毎日いる必要はないけど、欲しい時にいてくれればいいのに』なんていう経験が自分にもあった。だからそれを頼める人がネットの向こうにいるんじゃないか、と考えたんです」

 

こうしたきっかけからスタートしたHELP YOU だったが、秋沢代表が注意しているのは企業から求められるクオリティを維持することだ。「どうしても依頼する側が気になるのは仕事のレベルだと思います。現在は面談や能力テストなどを行い、徹底的にアシスタントを選別しています。

100人の応募から採用されるのは5名程度ですね。特に仕事をしていく上で大事なのはコミュニケーション力ですので、そういうのに長けた人材を選んでいます」

 

そのような厳正な採用をしていく上で気付かされたのは、優秀な人材が様々な状況下でその能力を活かせずに燻っているという現実だった。

 

「現在アシスタントとして採用・登録している方は300名ほどです。その内90%は女性が占めていて、また全体の70%は主婦の方です。そしてほとんどが地方在住。これは言い換えれば、そういう人たちほど仕事をしたがっている、ということです。例えば宇治川紗由里さんという方は元々大手人材採用企業に勤めていたキャリアウーマンですが、現在はご主人の仕事の都合でスウェーデンに住まれています。

ご主人が転勤族なので、ご自身は仕事を諦めざるを得なかった。しかしやっぱりもっと仕事をしたい、という希望からHELP YOU に登録していただいたんです」

 

他にも田舎で暮らしたいけど仕事がない、とか、子育て中だからフルタイムで働くことができない、という方から好評を得ているという。

 

 

今後は団塊世代の引退に伴い、介護退職する人たちも増えているだろう、そういう人にもHELP YOU を使えば能力を活かせる場を提供できる、と秋沢代表は語る。

 

「個人が抱える事情に合わせて仕事の仕方を変えられる、そんな環境を作ることができれば、それは社会への還元になると思います。これから益々進んでいく少子高齢化の中で、働き方の細分化も進んでいく。その手助けになる、そう思っています」

 

 

自分で未来を選べる社会

サービスのスタート当初はランサーズなど数社しかなかった競合他社も、現在は30社ほどにまで増えた。

 

「それだけニーズがあるんだと思います。ただ、HELPYOU が主にクライアントとして注目しているのは中小企業。中小企業では、派遣社員を雇うほどでもないと思われて正社員がサービスでやらなければならない仕事が沢山ある。それはムダです。

また製造業などは職人さんがそういう雑務もやっていることがありますが、そんなことより職人さんにしかできない仕事に集中してもらいたい」

 

そうすれば中小企業はもっと伸びることができる。「経理の計算など、様々な仕事を頼めるあなたの部下がPCの先にいると思ってもらいたい」と秋沢代表は話す。

 

「現在、170社ほどから仕事の依頼を受けています。今後はクライアントもアシスタントも増やしていき、2020年までに1万人の雇用を目指しています。そうすれば社会に対して大きなインパクトになる。

仕事の仕方の1つとして、社会に認知していただけると思います」

 

「人生の時間の三分の一は仕事をしている。だから、それを充実させなければならない」と話す秋沢代表。地方に、そして家庭に眠っている人材を掘り起こすことができれば、日本経済を再び活性化させる大きな起爆剤となるのではないだろうか。

 

 

秋沢崇夫(あきさわ・たかお)氏

1981年東京生まれ。青山学院大学在学中からIT企業で働き、退職。

退職後一年間のアメリカ放浪の旅の最中、ネットを使ってオンラインで仕事をした経験から、

仕事はどこにいてもできると確信。

「働き方に制限を設けず、選択できる未来を作りたい」という経営理念のもと

2015年にHELP YOUを立ち上げる。
株式会社ニット
〒141-0001 東京都品川区北品川5-5-15大崎ブライトコア4階「SHIP」

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