オビ 企業物語1 (2)

新生・松山技研発進!! ワンストップの陣立てと認知度アップに向けて

◆取材:姜英之

 

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総合商社にも似た広範なカバー領域を誇る国内屈指の金属加工メーカー

松山技研株式会社 代表取締役社長 松本秋夫氏

 

鬼に金棒──、となる?
金属の熱処理、表面処理技術の完成度と信頼性にかけては、ただでさえ国内屈指と評される松山技研(長野県上田市)が、約2億5000万円を投じて進めていた工場の増築と設備の拡充事業をこのGW明けにも終えるのを受けて、これまでにない斬新な営業の陣立てづくりと、サービス体制の強化に本腰を入れ始めたという。顕在、潜在を問わず顧客のニーズを隈なく拾い集め、それらを現場に直接反映させるのが狙いだ。

先導するのは、昨秋、三代目社長に就任したばかりの松本秋夫氏(59歳)である。さっそくその松本氏を訪ねて、胸の内を訊いた。詳しく報告しよう。


金属加工に欠かせない四本の柱勢揃い

 

まずはこの松山技研という会社のアウトラインについて、手短に説明しておく。
営業品目が品目だから、初めて聞いたという読者も少なくはあるまいが、自動車や家電品をはじめとする各種機械装置、各種工作機器等の製造業界では、実のところ国内屈指とされる、紛れもない超有力金属加工メーカーである。

 

そのルーツを辿れば、この国に農業革命をもたらした耕耘(こううん)機器、松山犁(すき)にまで遡る。松山犁とは、明治時代の農政家であり科学者でもあった松山原造翁が、日本で初めて(明治35年)つくった近代的農耕器具である。その松山翁の意思を継いだ一族の手によって立ち上げられ、1970(昭和45)年に操業を開始した金属熱処理事業者、「松山スキ工業協同組合」が松山技研の前身だ。

 

もう少し身近なところで言うと、あの〝NIPROブランド〟で知られる国内シェアナンバーワンの農業用作業機器メーカー、松山(株)も同じグループ企業である。当然、同社の製品の金属材料の重要な機能部品は、松山技研が加工し、供給している。早い話が、由緒もあれば事業基盤もしっかりした、押しも押されもしないスーパー安定企業というわけだ。

 そのスーパー安定企業が今、更に一段上のアグレッシブな企業に向けて、果敢にチャレンジしようと言うのである。

 

「我々の業界に限ったことではありませんが、もはや既存の〝安定〟に胡座をかいている時代ではないんですよ。はっきりと選別される時代に入っていますから」(松本氏、以下同)

 

理由は言うまでもなく、ここ十数年の間に一気に進んだグローバリゼーションによる、市場のパワーバランスと経営環境の変化である。

 

「機械化、自動化で大量生産できる汎用品は、もうどんなに追いかけても新興国には敵いませんし、仕事になりません。そこでやるなら多品種少量生産ということになりますが、それで経営を成り立たせるためには、相当に高い付加価値を生み出す技術力と、独自性が必要になります。もしそれができなければ、瞬く間に自然淘汰されるんじゃないでしょうか」

 ということで同社が早くから進めてきたのが、他社が真似ようにも真似られないだけの高い完成度の追求と、多種多様なニーズにもワンストップで対応しうるだけの、ある意味で総合商社にも似たカバー領域の拡大・拡充路線だ。

 

「幸いにして私どもには、熱処理事業部、真空炉事業部、表面処理事業部、コーティング事業部という、機械金属の加工には欠かせない四本の柱がすべて揃っています。これらの事業部を有機的に組み合わせ、融合・連携させることで、すべての問題や課題を一連の流れの中で発見し、解決することができるという、他社にはない絶対的な強みが生まれました。これを生かさない手はない。

問題はこの強みをどう世間にアピールし、広く認知していただけるようになるかだ。そう考えて打ち出したのが、今回の新たな営業の陣立てを中心とした、一連の方針というわけです」

 

 

最後は結局〝人〟で決まる

と言っても同社には、とくに営業部という正式なセクションがあるわけではない。各事業部ごとに受注管理や工程管理をし、同時に渉外担当を兼ねる部門長が1、2名、配置されているだけだという。要するにイメージで言うと、各事業部はそれぞれが一つの町工場で、渉外担当はその親父さんとか後継ぎの息子さんといったところだ。

 

したがって彼らはたまに飲食を共にしたり、商工会などの寄り合い(会議?)で近況報告をし合うことはあっても、情報を共有し、それに基づいたサービスを連携して顧客に提供することなどはまずない。言うなればこの陣立てと日々のルーティーンを根底から見直し、如何にして〝全体最適〟を生み出すかというのが、氏の言う一連の方針の眼目である。

 

「まずは手始めに、営業担当全員に同じタブレット(PC機能を持った板状の携帯用端末機器)を持たせるようにしました。これによってそれぞれが抱えている顧客情報や工程の進捗情報、受注状況などが、垣根を越えてひと目で分かるようになります。ひと目で分かれば、迅速で最適な対応が連携してできるようになります。すでにその効果が、営業現場はもちろん、作業現場でもはっきりと随所に現れてきていますよ」

 

単なるスマホではなく、タブレットにしたのには他にも大きな理由がある。

「顧客に対する営業ツールとしても、大きな力を発揮するものと期待しています。それぞれの事業部を有機的に組み合わせて連携させると言っても、言葉だけではなかなかイメージできませんし、しっかり伝わりません。そこで今、どうソフトをつくるか鋭意研究しているところですが、そのイメージをインパクトのある形でビジュアライズし、顧客に見せることができれば、強い説得力を持つこと請け合いじゃないでしょうか」

 

なるほど。前章で〝総合商社にも似た〟と書いたが、そこまでくれば確かに、今どきの大手商社マン並みと言っていいだろう。

「でもね。これは技術陣にも営業担当にも言えることですが、7割か8割まではデジダル=高度な機械や技術=が威力を発揮しますが、残りの2割か3割は、やっぱりアナログ=人の感性や熱意など=がモノを言うんです。その意味では、最後は結局〝人〟で決まるんですね。よくモノづくりは人づくりって言いますが、まさしくその通りだと私も思いますよ」

 

松山技研はISO14001認証、9001認証を取得し、技術レベルでは定評があるが、「私はISOが嫌いなんです」と笑い飛ばす。

「既成の認証以上のものを作るには勘とかコツ、いわば感性の入った技(わざ)が加味されないとダメですよ」 力を込めてそう語った。

 

ということで氏が今もっとも力を入れているのが、その人づくり、人材育成だと言う。

「技術の高度化も、営業の最適化も、結局はどう人材を育成するかなんですね。前者は〝匠の世界〟ですし、後者は〝人間性が問われる世界〟ですから。私自身が技術畑出身ですし、会社自体も松山原造翁以来だとすると、100年以上の歴史を持つ技術系の企業ですから、その意味ではカルチャー的にも技術陣は育て易いんですが、課題は営業担当ですよ。

すぐに結果が出ればそれだけ早く自信も付きますし、モチベーションも上がるでしょうけど、なかなかそうはいきません。ですから彼らとは常にコミュニケーションを取り、密接に意思疎通を図るようにしています。

 

それにもう一つ。必ずしも売り上げを持ってくることだけが営業の仕事ではなく、情報、とくに顕在、潜在を問わず顧客のニーズを隈なく拾い集めてくることも、営業の重要な役割だと私は思っているんです。それを技術開発や現場に反映してよりいい製品がつくれるようになれば、社としては大きな利益を得たことになるじゃないですか」

けだし至言、と言っていいだろう。

 

 

目指すはズバリ、ファースト・コール・カンパニー

話は前後するが、ここらで同社の技術力についても簡単に紹介しておきたい。
元々は金属の熱処理に特化してスタート(1970年)した会社である。したがって熱処理技術に関しては、他に類を見ない豊富な実績と、真似をすることすら許さない超高度なスキルとノウハウをふんだんに擁する。焼入れ、焼戻し、ガス浸炭、ガス軟窒化、ガス浸硫窒化、高周波焼入れ等々、幅広い分野の処理を得意としており、超小型の精密部品から大型建機部品まで難なく対応、量産性とフレキシビリティを兼ね備えた、機動力のある生産体制が大きな特長とされる。

 

次に同社の表看板とでも言うべき表面処理技術だが、これはアメリカで開発されたダクロタイズド処理(自動車部品や建材などの防錆処理)に始まり(1982年)、現在ではカチオン電装塗装ジオメット処理皮膜など、それぞれの金属の特性や用途に合わせて、ミクロ単位の正確な皮膜処理ができるまでに進化。すでに日本の製造業になくてはならない貴重な技術として、広く認知されているという。

 

他にもプレス金型やモールド金型、ダイカスト金型の製造に不可欠な真空炉熱処理技術と、2000年から本格スタートしたコーティング技術が着実に実績を重ねてきており、技術レベルで言えば、ほぼ磐石の体制が整ったと言って過言ではないだろう。

 

最後に氏は新社長として、近い将来の目標をどの辺りに置いているのか、率直に訊いてみた。

「ズバリ、金属加工業におけるファースト・コール・カンパニーです。何か困ったことが起きたり、悩ましい局面に突き当たったら、何を差し置いても一番に電話してもらえる存在にまで、会社のレベルと認知度を高めたいと考えています。

とくに認知度を上げることは喫緊の課題だと位置づけています。幸い、通期では赤字になりませんでしたが、リーマンショックから約半年間は、なんと熱処理、表面処理だけでも8割減にまで業績が落ち込んだんですよ。

 

そのときに痛感したんですが、もしあのときに、全国にその名が知られている存在だったら、そこまでは落ち込まずに済んだと思うんですね。逆に言うと、さっきも言いましたが、既存の安定に胡座をかいていたらアッと言う間に衰退し、自然淘汰されるということです。そのためにも大切なのは営業力です。情報収集力と情報発信力です。見ていてください。必ずファースト・コール・カンパニーと呼ばれる会社に、一年、一年、着実に成長していきますから」

ここ数年の間にも、この鬼は確実に金棒を手にするに違いない。

 

熱処理工場

真空炉工場コーディング工場

 

 

 

 

 

(写真左より)  熱処理工場 ・ 真空炉工場 ・ コーディング工場

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

プロフィール
松本秋夫(まつもと・あきお)氏…1953年11月生まれ。新潟県上越市(旧中郷村)出身。新潟県立新井高等学校・工業化学科卒業後、1972年にオリエンタルエンヂニアリング株式会社に入社。朝霞工場にて熱処理の基本を叩き込まれる。その後、1978年に松山スキ工業協同組合熱処理工場(現松山技研株式会社・熱処理事業部)へ入社。取締役事業部長(1998年)、常務取締役(2006年)を経て、2012年、代表取締役社長に就任。現在に至る。

松山技研株式会社
〒386-0407長野県上田市長瀬1050
TEL 0268-42-4063
http://www.matsuyama-giken.co.jp

〈経営理念〉
〝知を集め価値を創る〟
■私たちは誠意、誠実、熱意をもって熱処理と表面処理の総合技術で感謝の心をもってお客様のニーズにお答えし社会へ貢献します
■私たちは社員の英知を集結し高収益体質を実現します
〈経営方針〉
〝スピードと集中〟
■事業部ごとの収益性と管理体制の強化推進
■強化事業(コーティング事業部)への集中的投資の実施
■市場ニーズ(QCDS)に対応したモノづくり(人づくり)の強化
■品質マネジメントシステム、環境マネジメントシステムの維持推進

 

町工場・中小企業を応援する雑誌 BigLife21 2013年4月号の記事より

町工場・中小企業を応援する雑誌 BigLife21 2013年4月号の記事より