株式会社島田電機製作所 – 世界のオンリーワン企業を目指す、 老舗エレベーター意匠器具メーカーの挑戦
成長の鍵は「過去に囚われずに前を向くこと」
歴史と伝統は企業の武器。だが企業が時代を超えて生き残るには、挑戦を忘れず、変化し続けるしなやかさが何よりも重要なのではないか。
80年以上の歴史を持つエレベーター意匠器具の専門メーカー・株式会社島田電機製作所の歩みは、そんな思いを裏付けてくれるものだ。
「過去に囚われず、前進を続ける」をモットーに世界で認められるオンリーワン企業を目指す、同社の5代目社長・島田正孝氏に話を伺った。
エレベーター意匠器具の老舗専門メーカー
株式会社島田電機製作所の創業は1933年。まだ東京にさえほとんどビルがない時代、「今後はビルと共にエレベーターの需要が増える」と見通した創業者・島田有秋氏が、東京都港区白金に、エレベーター関連の機械部品を作る町工場を作ったのが始まりだ。
その読みは当たり、町の発展と共に大型ビルの建設件数も増加。同社も増える需要に応えるべく、1939年には世田谷区烏山に分工場を設立し、順調に業績を伸ばしていった。
戦後は空襲で焼けてしまった白金工場に代わり烏山を拠点とし、エレベーターメーカー各社と取引を行うところから再スタート。
ただ当時の中小企業と大手の関係は「縦割り」が普通で、多くの会社と取引するのは難しかったことから、日立の仕事が大半を占めはじめる。そこで日立水戸工場のほど近くに兄弟会社・内原電機製作所を設立して、規格量産品の製造・販売ニーズに応え、島田電機製作所はオーダー品の生産を受けることになり、以来、島田電機製作所は、特注品のエレベーターの押しボタンや階数表示灯などの器材に特化したオーダーメイド生産専門メーカーとして生産を続けてきた。
近年では取引先も拡大し、その製品は東京スカイツリーや東京ミッドタウン、あべのハルカスなど国内の著名な建築物にも多く使用されている。
挑戦により築かれた㈱島田電機製作所の歴史
ビルの建設と切っても切り離せないエレベーター関連分野は、景気動向に左右されやすい業界だ。
今でこそ、老舗エレベーター意匠器具メーカーとして国内での地位を確立し、2008年の中国進出を足がかりに海外でも存在感を増しつつある同社だが、その道のりはもちろん平坦なものではなかった。
それでも度重なる危機を乗り越えてこられたのは、同社が「過去の常識や伝統に囚われず、新しいことへの挑戦を続けてきた」からだと島田氏は言う。
創業者・島田有秋氏の孫に当たる島田氏は1969年生まれ。1990年に内原電機製作所に入社し、3年間出向先の日立工場で働く中で社会人としての基礎を固めた。その間、父である社長の姿を見ているうちに、いつしか自身が後を継いで経営者になることを意識するようになっていたという。
社長が体を壊したのを機に1993年には東京に戻り、同社に入社するが、その数カ月後に社長は亡くなってしまう。時は、バブル崩壊で売り上げが大幅に減少している真っ最中。
会社を継いだわけではなかったが「このままではだめだ。何とかしなければ」と危機感を募らせ、設計、工程管理、営業、工場長、専務…と会社のあらゆる部署を経験しながら打開策を探る日々がはじまった。
その努力の成果は2000年、3代目社長の突然の死により新しく就任した4代目社長と共に、社内の大改革に着手したことで現れはじめる。
まず「声が大きい人が一番偉い」という雰囲気が根付いていた社内に、能力評価の人事評価制度を導入し、やる気のない社員を一掃。
成果を出す社員が働きやすい環境を作る一方、ISO認証を取得して働き方を見える化したり、外注に頼っていたアクリルや板金の加工を自社で行えるようにすることで顧客の信頼を高めたりと、次々に改革を断行し、売上の回復を果たしたのだ。
2008年のリーマンショックには、新たな市場の開拓とオリジナル商品で勝負できるメーカーへの飛躍を目指して、中国上海へ進出することで対抗。2013年に自身が社長に就任した後は、社員の「時間」に対する意識を変え効率的な働き方を根付かせるための行動指針「バリュー」の設定や組織改革など、生産性を高める環境づくりを進め、「社員が働くことに誇りを持てる企業」「エレベーターの表示機で世界に認められるオンリーワン企業」を目指して、日々歩みを進めている。
オリジナル商品作りからその先へ
一般的に老舗企業といえば、伝統を重視するというイメージがあるが、同社についてはそれは少々当てはまらない。
むしろ、「誤解を恐れずに言えば〝伝統へのこだわりはない〟ですね。もちろん過去があるから今があるわけで、そこには感謝しなければいけないと思いますが、〝今までこうだったから、こう〟という判断をするのは、非常に危険だと思います」というのが島田氏の持論だ。
その考えは、中国進出の初期の頃、日本の常識で話をしてもまったく噛み合わなかったという実体験に基づいている。
「企業の理念のように変わっちゃいけない部分はあると思いますが、それ以外は市場の変化にいかに柔軟に対応していくかが大事だと思うんです」。そう話す島田氏が現在進めているのは、下請けからメーカーに変わるためのオリジナル商品作りと2013年に烏山から移転した現地・八王子地域に根付いた活動だ。もともと同社は、一つひとつのビルに合わせて完全にオーダーメイドでモノを作っているため、島田電機としてのオリジナル商品は持っていない。
しかしこれから海外で展開していくためには、自分たちのオリジナル商品も必要だからというのがその理由で、そこに気がついたきっかけも、中国への進出だったいう。
「最初は当然ですが誰も島田電機のことを知らないので、オリジナル商品を持っていないと営業ができないんですね。
日本ではこういうことをやってきましたと言っても、じゃあ中国で何ができるんだと言われてしまう。
そこで中国ではオリジナル商品を作り、カタログを作って営業に行くようにしました。ただ日本と同様、特注品を作ってほしいという要望は強くあるので、今中国では、オリジナル商品の販売とフルオーダー両方の流れでやっています。そんな体験を経て、日本でも専門メーカーが作るオリジナル商品を逆に提案していってもいいんじゃないかと、そう考えるようになりました」。
その考えを後押ししたのが、日本市場の需要の変化だ。80年代、90年代は「金がかかっても、他のビルとは違う特殊なものを作りたい」との考えが主流だったエレベーター業界だが、コスト削減が意識されるにつれ、デザイン性もシンプルになり、オーダーメイドにも関わらず似たような形のものが増えてきた。
であれば、オーダーを標準化し、オリジナル商品のラインナップを作ってその中から選んでもらえるようにした方が、顧客にも会社にもメリットがある。手ごたえとしては「今までのオーダーが100あったとしたら、40か50はこのシステムでできるかもしれないな、というところ」。
もちろん会社の強みでもあるフルオーダーの特注品は請けるが、半分はオリジナル商品のラインナップから提供することを目指して、どのような形にするべきか、2年ほど前から試行錯誤が続いている。
一方、地域での活動に関しては、2017年9月には、東京農工大学工学部と八王子商工会議所が共同開催する、日本の学生と東南アジアの国々の学生との国際交流プロジェクト「八王子ジョイントセミナー」に参加し、工場見学ツアーも開催した。
これは、日本の学生と海外の学生がチームを組み、八王子市の高度な専門技術を持つ企業を訪問し、製造過程の見学や技術体験を行うというもので、企業にとっては地域への貢献に繋がると共に、学生に同社の理念や技術力をアピールし、中小企業の魅力を知ってもらうチャンス。
「人材はいろいろな人がいた方がいいと思っている。年齢や性別、経験、国籍の違う人、できる限り様々なバックグラウンドを持つ人を採用していきたい」と考える同社にとって、国内外の学生に自社の魅力を直接伝えるよい機会となった。
海外へ日本のデザインを広めたい
現在日本のエレベーター市場は、新設約2万台、リニューアルや入れ替えが約2万台の計4万台で、総合的にはバブル期の約4万台から大きな変化はない。そんな状況の中、島田氏が今重視しているのは、リニューアル需要の取り込みとオリジナル商品の開発、それから海外展開の拡大だ。
「中国はもちろんですが、拠点として東南アジアは狙っていきたいところです。ただいくらオリジナル商品を作るとはいっても、うちの強みはオーダーメイドの特注品。今のアジア圏でそれがどこまで求められているかといえば、まだまだでしょうね。
まずは中国を基点に情報発信と市場調査を行い、国のニーズを読み取った上で一歩を踏み出さないといけません。そうして、近くの市場をしっかりカバーしながら、日本でこれだけ長く経験してきたことを生かして商品を開発し、それを中国に投入する。中国でモノを作って海外の市場で販売するという、そんな流れになればいいなと思います」。
日本のエレベーター意匠は、他に類を見ず多彩でデザイン性が高いという。日本生まれの技術がまた一つ、世界のあちこちで活躍する日を期待したい。
【プロフィール】
島田正孝(しまだ・まさたか)氏
1969年生まれ。東京都出身。専門学校卒業後、1990年に内原電機製作所に入社。3年間、出向先の日立工場などで経験を積んだ後、1993年に24歳で株式会社島田電機製作所に入社する。工場長や専務を経て、2008年に、中国・上海に設立した現地法人の代表取締役に就任。2013年に5代目の代表取締役社長に就任、現在に至る。
島田電機製作所
〒192-0045 東京都八王子市大和田町3-11-1
TEL 042-656-1401
従業員数:47名
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