グロリアス・ジャパン株式会社/代表取締役社長金井田 平氏 ・ 中小物流企業の道は、小さな企業の「困りごと」解決にあり!起業家の若者たちと共に未来を開く
中小物流企業の道は、小さな企業の「困りごと」解決にあり!起業家の若者たちと共に未来を開く
グロリアス・ジャパン株式会社/代表取締役社長 金井田 平氏
企業の子会社から転身、長野・関東圏に9つの物流センターを持ち、3PL事業を中心に倉庫、引越し、コンサルティングなど幅広い物流関連事業を展開するグロリアス・ジャパン株式会社。
大手・中小企業を顧客層の中心として事業拡大路線を進んできた同社だが、小規模企業に注目した新しい路線を打ち出そうとしている。その挑戦について2代目社長・金井田平氏に話を聞いた。
■子会社から転身、3PL中心の物流企業へ
同社の前身は、1968年に設立された日本電熱株式会社の子会社・日本電熱運輸株式会社だ。
もともと親会社の作るホットカーペットやヒーターなどの暖房器具、水道凍結防止帯といった製品の物流を担当してきた会社で、1998年に同じく子会社の日本電熱サービス株式会社、日本縫工株式会社と合併してニチネツ物流サービス株式会社となった後もその業務内容は変わりなく、親会社と共に歩みを進めてきた。
しかし2000年代半ば、輸入品の増加からくる価格競争の激化を背景に親会社が経営戦略を見直したことから、同社のあり方・業務内容も大幅に変更をせまられる。
親企業の傘下を離れ、空いた倉庫を活用して企業の物流部門を包括代行する一物流会社へと大きく舵を切った同社は、以降は荷主企業への物流の提案からシステムの構築、実際の運用までを一括して請け負う3PL事業を中心とした事業を展開するように。
2009年には社員からの公募で社名を「グロリアス・ジャパン」に改名し、名実共に新しい一歩を踏み出した。現在では本社のある長野県と、群馬県、東京都、千葉県に計9カ所の拠点センターをもち、雑貨や通信販売の化粧品、アパレル関係などさまざまな分野を取り扱う各センターでの3PLサービスをはじめ、倉庫、検品、引越し、運輸、家電製品修理、人材派遣、コンサルティングなど幅広く事業を手がけている。
■陸上自衛隊から物流畑、そして同社の経営への道
その路線変更の「舵取り役」として同社の経営に参画したうちの1人が、2014年4月に2代目社長に就任した金井田氏だ。
出身は長崎県松浦市の鷹島。地元の高校を卒業後、18歳で千葉県の習志野駐屯地陸上自衛隊第1空挺団に入隊し、4年間空挺隊員としてパラシュートによる降下訓練や災害時の派遣活動に励んだというユニークな経歴の持ち主でもある。
除隊後、22歳で佐川急便グループの物流部門会社に入り45歳で退職。その時、同じ佐川急便のOBである仲間たちに誘われたのが、同社に参画したきっかけだったという。当時の同社の売り上げは年間約4億円。スタート当時の月に約1億円、年間約12億に比べて3分の1に減少している状態だった。
「私が佐川急便グループに入って3年目ぐらいが、〝売り上げが月1億になった!〟と喜んでいた時期だったので、ちょうど規模が同じぐらいなんだなと思って。そこからもう一度スタートしてやってみたいという思いと、いままでやって来たことを試してみたいという思いがありました」と4人の仲間と共に新しい経営改革を開始。苦しい場面も多数あったが、そんな時によく思い出したのは初めてのパラシュート降下訓練のことだという。
「訓練では東京タワーとほぼ同じ高さ(約340m)から飛ぶんですが、万が一に備えて最初の訓練の前に全員遺書を書いて上司に預けるんですよ。それを思い出すと、死ぬ覚悟でやるなら何でもできるんじゃないか、やるしかないという気持ちになるんです」と金井田氏は語る。
社名変更から5年後の2014年12月の同社の年間の売り上げ額は約20億円弱を達成。入社時の約5倍にまでなったわけだが、ここがゴールではなかった。
2015年1月にはそれまでの拡大路線を変更して、事業所の切り分けや希望する役員への事業承継を通じて事業を整理。事業規模を約半分に縮小して、そのぶん新しい事業への取り組みをはじめたのだ。
■将来の需要を睨み小規模企業に注目
その新しい事業とは、顧客層の大半を占める大手・中小企業相手ではなくできたばかりの小さい企業を対象に、売れるのは1日数個程度というごく初期の段階から物流をサポートしていくというもの。若い世代を中心に化粧品やサプリメントの通信販売などで起業する人も多い中、大手が手がけづらい小規模会社にも確実に物流のニーズがあることに注目。
小口から細かい需要に応え、それらの会社が大きくなるのに合わせ増加していく物流を一手に引き受けようという、将来の可能性を視野に入れた作戦だ。
「起業したばかりの会社は物流のすべてを社長が自宅でやるというところがほとんどですが、場所がない、時間がないと困っている方もたくさんいらっしゃるので、そういう所からお助けできればなと。〝物流は私どもにお任せいただいて、手間が省かれた分だけ販売力を強化する方に時間を使ってください〟というスタンスで、顧客の開拓を進めています」
もちろん前提として、既存の顧客へのサービスは継続している。その一方で今後はこのような小規模な企業との契約を増やし、全体の10%程度までもっていくのが目標だという。「1件ごとの扱う金額は小さいので、もちろん利益を上げるには数多くやらないといけないというデメリットはあります。
けれど例えば最初は月10万規模でも数カ月で倍になったり、1年間で10倍になったりもするのが小規模会社のおもしろいところ。10のうち2つか3つは本当に成功して急成長することも珍しくなく、業種によっては半年で10倍になることもあります」というから驚きだ。
■既存の設備の最大利用も大きなメリット
このような小規模会社の顧客を増やしていくことは、大手に比べて資金が限られる中小企業にとって、設備投資の面から見ても大きなメリットがあると金井田氏はいう。
というのも、大手が求める大口の物流を請け負うためには求められる精度を達成するために設備や人材への先行投資が不可欠。当然そのための資金が必要になるが、小規模会社のものなら既存の拠点センターの設備と人で対応できるので、新たな設備投資は不要だからだ。
そうやって今使える枠の中でできる限りの実績を重ね、売り上げを上げることで蓄えができれば、1~2年の後には新たな設備投資も可能になるという。
「今後のビジョンとして、売り上げを何十倍にしようとかは今は思っていません。それよりも重要なのは、お客様からのコスト削減と精度アップの要望に応えて確実に利益を上げていくことです。今お取引いただいているお客様には改善を提案しそれを実行すること、新規では小規模のお客様を大事にして一緒に成長していくことです」と、話す金井田氏だが、拡大路線を転換し、事業整理と新規事業をスタートした背景は一体何だったのだろうか。
■従業員の成長と挑戦の継続が企業の要
「拡大路線に徹したここ数年は、設備投資はしても回収ができていない状態。ともかく顧客のオファーに応えることを最優先にした結果、売り上げは増えましたが地固めができておらずぐらついている部分もたくさんありました。
それを整理して、今のお客様、社員、社員の家族を守り、企業が生き残っていくために重要なことに注力しなければというのは就任以来ずっと感じており、それにようやく手をつけられたという所ですね。企業はお客様第一主義であるのは当然ですが、社員とその家族を守るのも同じぐらい大事なこと。
商品のない物流業は従業員が財産ですから、どんどんスキルを伸ばして役職・給料が上がるようになってもらいたいし、1人ひとりにそういう意識をもってもらうこと、常に前を向いて挑戦を続けることが大事だと思っています」
金井田氏は現在55歳。60歳までの5年間は将来に向けての地固めに当てる予定だという。
■大手企業が目を向けない困りごとにチャンスがある
物流業界全体を見渡しても、小さな会社・小規模な取引を集めて大きくしていく作戦は、これから物流に携わる中小企業にとって必須になるのではないかというのが金井田氏の考えだ。
「大手荷主企業のニーズに応えようとするには資金が必要。資金力・マンパワーに勝る大手物流会社には勝てません。しかし例えば10のお客様を10件集めれば100になり、100を持つ大手1社と契約したのと同じスケールメリットを得ることができる。中小の物流企業はそうやって戦っていくしかないと思いますし、そのためのコスト削減の工夫なり、体制作りがこれから向き合うべき課題になってくると思います」
◇
金井田氏は仕事で困難に直面した時、ふと自衛隊時代に災害派遣で救助した人々の姿がよぎることがあるという。
「間近で見てきた災害に遭われた方の苦しみを思えば私なんかまだまだできると思いますし、そういう社会で苦しまれている方に対して何ができるのかというのも、今後の課題の1つとして常に心にあります。東日本大震災では石巻で車で衣料品を配って回ったり避難所で話を聞いたりしましたが、それも同じ気持ちですね。どんな形になるかはまだ分かりませんが、会社を立て直した上で何か貢献できればと思っています」
誰かの苦しみや困りごとを解決するのは、ビジネスの原点でもある。大企業が目を向けない小さな会社の「困りごと」が、物流に大きな波を起こす日が来るのかもしれない。
金井田 平氏(かないだ・たいら)氏…1960年生まれ。長崎県出身。高等学校卒業後、習志野基地陸上自衛隊第1空挺団に入隊。22歳で除隊後、佐川急便グループの佐川物流サービスに入社。1999年4月に社長賞を受ける。45歳で退職した後、同社の経営に参画する。2014年4月に代表取締役に就任。現職。
グロリアス・ジャパン株式会社
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