社会保険労務士法人あかつき /国際労務管理から企業間マッチングまで、挑戦する企業をサポートする「ヒト」分野から中小企業を支えるスペシャリスト
国際労務管理から企業間マッチングまで、挑戦する企業をサポートする「ヒト」分野から中小企業を支えるスペシャリスト
社会保険労務士法人あかつき代表社員/特定社会保険労務士 小前和男氏
一般に「労務の専門家」と紹介される社会保険労務士だが、同じく企業を顧客とする税理士や弁護士に比べ、その業務内容はあまり知られていない。しかし、労働法の改正や政府から企業への賃上げ要請プレッシャーの増加などを受けて、その存在は徐々に注目を浴びている。
開業から30年以上、約250社の賃金・人事・労務コンサルタントを手がけてきた、「社会保険労務士法人あかつき」代表社員で特定社会保険労務士の小前和男氏にお話を伺った。
人事・労務面から中小企業をサポート
社会保険労務士、一般に略して「社労士」と言われる資格は、1968年に創設された比較的新しい職種だ。1960年代の急激な経済成長の中で日本企業が大きく成長するに伴い、厚生年金・健康保険・労災保険・雇用保険も発展したが、同時にこれらの複雑化・高度化が進行。
給付や申請などの手続きが中小企業にとって大きな負担となったことから、企業に代わってこれらの手続きを行ってくれる専門家が必要とされ、制定されたという経緯を持つ。
労働や社会保険に関する法律に通じた人事・労務管理、年金の専門家であり、その主な業務内容は中小企業の社会保険・労働保険に関する書類の作成や提出の代行、年金相談、企業の人事・労務管理に関する問題の相談や指導など。企業の3つの経営資源と言われる「ヒト・モノ・カネ」のうち「ヒト」分野において、企業とそこで働く人々をサポートする立場にあるのが社労士なのだ。
他の士業と同じく、社労士業界も近年大きな変化にさらされている。主な顧客層である中小企業は2009年から2012年の4年間で420万社から385万社に減少。一方、弁護士や公認会計士、税理士など同じく中小企業を主な顧客とする他士業を含め、資格者数は増加。競争は厳しくなっており、より専門性の高いサービスが求められる時代になっている。
しかし小前氏は、現代はチャンスの時代でもあるという。
「われわれが扱う労働・社会保険関連の諸法令は、かなり頻繁に法改正が行われ大変複雑になっています。専門部署を持たない中小企業から見れば、改正に対応する形作りがなかなか難しいのは事実。そういった中で、労務の面から企業の発展につながる情報提供や改善提案をしていく余地は十分にあり、われわれが必要とされるニーズの広がりはあると思います」と話し、社会・労働保険手続きなどの事務処理代行から人事・賃金体系の企画立案、社員教育、労使交渉、国際労務管理まで、人事・労務に関する問題全般について、積み上げてきた他士業との強いネットワークを活かしたサービスを提供している。
「調整者」として労使双方のバランスをとる
社労士の仕事を規定しているのは、社会保険労務士法という法律だ。その第1条「目的」の項目には、「事業の健全な発達と労働者等の福祉の向上に資することを目的とする」とある。一見きれいごとのようにも感じられるが、まさにこれが社労士の業務を表しているのだと小前氏は言う。
「従業員の権利だけを擁護して主張するとしたら企業は成り立たないし、また利益だけを追い求めても企業や従業員にとって必ずしも良い結果にはなりません。企業が存続、発展していくためにはどんな形でバランスをとればいいのか、というのが社労士の仕事の前提としてあります」
裁判や調停などの場面で、徹底的に依頼者の立場に立って相手方に対するのが弁護士だとするならば、社労士はある意味「調整者」と言えるかもしれない。
小前氏の前職は郵便局の総務会計関連職。30歳まで勤め、そこで労働・社会保険分野を扱ったことがきっかけで社労士を志し、1982年に31歳で独立開業した。労働者として参加した組合活動の経験と、社労士として仕事をする中で接した経営者のあり方や考え方、裏表が揃ってはじめて労使がどういう形で成り立っているのかが見え、「法律がこうだからこうしないといけない、という議論だけでは何の解決にもならない」と実感したという。
労使関係の問題でも賃金体系や福利厚生制度の改善でも、経営者・従業員双方が納得できる目指すべき着地点を定め、そこに行き着くためにどうすればいいのかを提案していくのが大切だというのが小前氏の持論だ。
経営者から聞いた話を専門的な見地から捉え直し、緊急度・優先度の高いものを判断して、着地点とそこに至る道筋を考えていく。時には依頼主である経営者サイドに対して修正すべきところを指摘せざるを得ないこともあるし、場合によっては逆に従業員に理解を求める立場で話をすることもあるという。
例えば賃金の支払いを巡って労使に対立が起きている場合、支払ったか支払っていないかは白黒がはっきりした事実だ。仮にそこで「支払っていない」という状況があった時、経営者側が「払えない」という態度を貫くと、対立を解決することはできない。そこで理由を分析し、「どうすれば払えるようになるのか」という道筋を組み立てるのが社労士の仕事というわけだ。
そのための具体的な手段の1つが、例えば会計士が財務的な監査や内部統制監査などを通じて財務的なアドバイスを行うように、労務に関する分野で会社の状況の客観的評価を行うというやり方。
業界内での定義付けはまだ確立しておらず、経営労務診断、労働条件審査、経営労務監査などさまざまな呼び方で呼ばれるが、内容は概ね、企業の労務管理体制が労働法令に適応しているかを判断する「労務コンプライアンス監査」、事業活動に必要な人材タイプを明確化した上で、組織内の多様な人的資源を分類し最適な人材タイプの組み合わせを設計する「人材ポートフォリオ監査」、アンケートなどによる従業員の意識調査などを主軸とするもの。
労働生産性や労働分配率など、どの指標に注目するかはそれぞれの社労士により違いがあるが、企業ならではの特徴や傾向を汲みながら、改善提案の土台として活用しようという動きは、徐々に社労士業界全体に広がっている。
海外挑戦を後押しする国際労務管理
士業の職域は、弁護士の訴訟代理権に代表される、法律により資格者以外が生業とすることを禁じている「独占業務」と資格者以外も自由に行える「非独占業務」に分かれる。社労士の場合、労働保険・社会保険の手続きの代行などは前者、企業の労務管理についてのコンサルティングなどは後者だが、業務の内容そのものは社会保険労務士法で定められているものであり、そこからはみ出すことはできない。
では、同法人はどうやって独自のサービスや専門性を打ち出しているのだろうか。
「法人としての職域や、実際に行っている具体的な仕事自体は、そんなに差異はありません」とした上で、小前氏は個人の考えと前置きしながら2つの点を挙げる。
そのうちの1つは、社労士の仕事の目的にも通じる労働CSR(労働分野に関する企業の社会的責任)に基づく労務管理を追及すること。もう1つはグローバル化が進む現代に即した、国際労務管理への取り組みだ。
「グローバル化の中で、これからは中小企業が持っているいろいろなノウハウを、国内だけでなく海外で展開することも求められざるを得ないだろうし、また日本で事業を行いたい海外企業を受け入れ、対応していくことも必要だと思います。けれど体力も組織力もある大企業はともかく、中小企業は社内にそんなノウハウがない、お金もそんなにかけられないのが普通。そこに有意義なアドバイスや実務的なサポートをしていきたい。それは強く意識しています」
既に数十カ国と締結されている社会保障協定に基づく手続きの代行をはじめ、海外に挑戦する企業を労務の面からサポートする。
企業の特性を活かす具体的提案でチャレンジを応援
1982年の事務所設立以来、30年以上に渡り中小企業のサポートに徹してきた小前氏。労使や労務関係のトラブルを未然に防ぐためのアドバイスにはじまり、時には人を減らす事務処理、企業の存続のために解雇を含めた人員整理などあらゆる案件を手がけてきた。
企業の寿命は約30年と言われた時代もあったが、現在では「30年前に顧客になってくれた企業が続いているのは非常にレアなケース」だと言い、企業規模に関わりなく、企業が長く存続することの厳しさを肌で感じている。
そんな時代には、社労士の仕事の中でも労使トラブルの解決や人的コストの削減ばかりが注目されがちだ。だがそれももちろん重要なことだとしながらも、一番「いい仕事をした」との実感が持てるのは、企業が伸びていく中で出てくる「どうしたらいいのか?」という前向きな問いかけに応え、企業の成長を手助けすることだと小前氏は語る。
「チャレンジングな経営者に出会いそれを応援するというか。新しく挑戦しようとする企業の問いかけに応えて企業の成長をお手伝いし、成長した先で新たに持ち上がってくる問題にまた応えていく、という流れに入るのが理想。従業員の福祉を含んだ、企業全体の発展を手助けしていきたい」
その際に常に考えているのは、どんなに小さな企業でも持っているその企業ならではの「特性」を活かすことだという。海外への進出もその手段の1つで、だからこそ国際労務管理にも力を入れる。
さらに、豊富なネットワークを活かしてA社とB社のマッチングやコラボレーションの提案など、労務管理の分野だけに止まらない企業全体を見た上でのサポートも行っている。
その徹底してクライアント企業の成長を手助けする姿勢が、同法人が多くの企業経営者に信頼される、3つ目の「他社との違い」となっているのだろう。
◉プロフィール
小前和男 (こまえ・かずお)氏…1951年、兵庫県生まれ。高崎経済大学卒業後、郵便局(現日本郵政グループ)に30歳まで勤務し、在職中に社会保険労務士の資格を取得。1982年、31歳で独立し「小前事務所」を設立する。2005年の法人化に伴い代表社員に就任、現職。
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