日翔レジデンシャル株式会社 – “ビジネス”で始めた福祉事業が、未来を創る使命へと変わる。転職回数15回の社長がMIRAIO(ミライオ)に込める願いと思い
“ビジネス”で始めた福祉事業が、未来を創る使命へと変わる。転職回数15回の社長がMIRAIO(ミライオ)に込める願いと思い
日翔レジデンシャル株式会社/代表取締役 後藤正樹氏
安定した収入になれば良い──。そうして始めた福祉の事業は、彼に「やりがい」という名の報酬を与えた。
不動産業の日翔レジデンシャル株式会社が今年から始めたベンチャー事業は、発達障害の子どもたちを療育する施設「MIRAIO(ミライオ)」の開設だ。同社代表取締役・後藤正樹氏の過去の経験から生まれた思いと、安定収入のために始めた事業。程なくして同氏は、体験したことのない感情に驚き、自身の使命を知ることとなる。
居場所を求め続けてきた後藤氏がたどり着いた、社会貢献の枠を超えた福祉事業に対する思いと、自身の軌跡を伺った。
長く働ける場所が欲しかった。転職の末の独立起業
日翔レジデンシャル株式会社は、不動産売買、不動産仲介、プロパティマネジメントなどを行う不動産会社だ。同社代表取締役・後藤正樹氏が平成23年5月に設立。およそ15回もの転職を繰り返した末の独立起業だった。
「自分と社員が長く働ける会社を作りたいと思って始めたんです。不動産業界に入った動機は不純で、昔働いていた歌舞伎町のキャバクラに不動産業者がたくさん来ていて、不動産業って儲かるんだなと思ったからです」と、同氏は言う。
同社の社員は16名。社員全員に資格補助を行い、宅地建物取引士の資格取得を義務付けている。これは、ブラック企業ジプシーだった同氏の経験によるものだ。
「いわゆるブラックと言われる企業は、資格よりも、社員の将来よりも今の数字が大切で、社員を数字としてしか捉えていません。それでは仕事は長続きしないし、社員はいつまで経ってもプロにはなれません」
資格は目に見えるプロ証明書だ。
「資格を取得して、自分はプロであると自信がつけば、お客様への対応も変わります。不動産業界で生きていこうという決意にもつながるのです」
長く働ける会社を目指した同氏。それは、自信を持てないまま生きてきた自分の居場所作りでもあった。そして2017年2月、同氏は「MIRAIO(ミライオ)」を開設。社会や学校で生きづらさを感じている子どもたちのための、新たな居場所作りが始まった。
保育事業をビジネスに? 発達障害の支援施設を開設
「MIRAIO」は、「子どもたちの未来を創造する」をコンセプトに、発達障害の子どもたちを療育する施設として開設された。
「療育」とは、障がいのある子どもが自立できるようになるための治療と教育のこと。
子どもたちは、学校の放課後だけではなく、学校が休みである土日祝日、長期休暇中も通うことができ、運動や学習で脳機能の向上と社会性を養っていく。
「私は母子家庭で育ったのですが、自分が家庭を持ち4人の子どもが生まれてから、どれだけ母親が苦労してきたかを知りました。
だから最初は、お母さんたちのお手伝いをする保育事業を始めようと思っていたんです」
ではなぜ、障がい者施設の開設へと転換したのか。
「これも動機が不純なのですが、他の保育事業と差別化をすることで、不動産業より安定した収入が得られると考えました」
しかしこの選択が、同氏が持つ人生観を大きく揺るがすこととなる。その伏線の糸は、同氏が悩み苦しんだ過去から張られていた。
母子家庭と苦労と挫折。居場所を求め転職15回
岐阜県で生まれ育った同氏。中学生のときに両親が離婚し、以来母子家庭となり、女手一つで育てられた。母親と自分と兄弟、親子4人で懸命に生きる中、同氏はスポーツ推薦で高校・大学へ進学した。しかし、期待に応えようと無理をした挙句の故障と挫折。卒業後は職を転々とした。
「転職15回、転職に合わせた引っ越し15回。落ち着かない人生でしたね。自分に合う会社がなくて、ずっと探し続けてきました」
最初の入社は、飲食チェーンを展開するブラックで名高い大手外食産業の会社だ。
「独立したいという気持ちがあったのですが、独立待ちは100人以上居て、何十年経っても独立なんてできないと先輩に言われてしまいました」
早々に夢打ち砕かれ退社。その後は、居酒屋、OA機器販売、歌舞伎町のキャバクラなどにも手を出した。そして最後にたどり着いたのが不動産会社だった。
「そこもブラック企業で、数字に追い立てられる日々。これでは何十年も続かないと感じました」
しかし、同氏を受け入れようとする会社は既にない。
「面接に行ったら笑われるんですよ。転職が多すぎて履歴書が2枚になってしまうんです。〝うちは長く働く人が欲しいんだよね”と断られて、いよいよ独立するしか方法がなくなっていました」
こうして立ち上げた同社。順調に業績を上げ続け、今年で7年目だ。
「従業員は、みんな中途採用です。スタッフには水商売出身や元ホストもいます。でも資格と知識を持つことで、みんな自分に自信が持てて、長く働くことができるようになるのです」
自信を失い生きづらさを感じる人に必要なのは、世の中に必要とされているという自信と実感だ。
この経験を活かし、同氏は「MIRAIO」を開設。そして、自身が今まで知らなかった感情に出会うこととなる。
感謝される喜びは、やりがいと使命に変わる
「安定した事業になる」。障害者施設事業について、最初はそう考えた同氏であったが、収入のための施設の運営が同氏の「使命」へと変わるまでに、時間はかからなかった。
「親御さんたちは、切実な思いで、救いを求めて子どもを連れて来ます。そして、自分の子どもが療育によって今までできなかったことができるようになると、とても喜んで我々に感謝してくれるんです。感謝されることなんて初めてで、『ありがとう』と言われることは、こんなにうれしいものなのかと知りました」
感謝されることで生まれたものは、喜びと自信、そして「やりがい」だ。
「不動産業では、毎月家賃が払い込まれても、家賃滞納者を退去させても、大家さんに感謝されることはありませんでした。しかし施設では、できないことができるようになる、それだけでこんなにも喜んでもらえて感謝される。自分にも価値があるんだと感じられました」
神様が作った存在は、全て必要の証。入所している子どもたちも、15回転職して笑われた自分も、全て価値がある存在なのだ。
子どもたちの療育に関わっていくうちに、社会における福祉の課題も見えてきた。
「脳や精神の障害には様々なタイプがあります。しかし、そのことは社会にも、福祉の現場にもあまり認知されていません」
ひとくちに「脳の障害」といっても、学習障害、ADHD(注意欠如多動性障害)、アスペルガー症候群、自閉症などがある。それぞれに特徴や得意分野があり、天才性を発揮する子どもも少なくない。
「いくら得意なことがあるとわかっていても、親は、その子の将来を一番心配します。その子が将来自立して、生活できるかどうかが問題なのです」
しかし、現実はどのタイプもひとくくりにされ、単純作業を行う訓練所に入所させられてしまうのが現実。子どもたちはいずれ、適性や天才性を発揮できないまま生きていくのかもしれない。ブラック企業を転々としながら居場所を求め続けてきた同氏にとって、それはあまりに身につまされる未来に思えた。
「次に必要なのは、子どもたちが将来仕事を持って働くための支援です」と同氏は言う。
「MIRAIO」で学ぶ子供たちの様子。さまざまな教材を用いて療育を行う。
療育と就労支援をワンストップで。子どもたちの未来を創造
「今は子どもたちの療育施設ですが、3年以内には就労支援までワンストップでできる施設にしたいと思っています」
小学生から高校生までの療育、高校生から60代までの就労支援の二本立てで、それぞれの個性に合わせた指導を行っていくという。
「大学等の有識者たちと協力して、個性や適性を活かせるオリジナルのプログラムを作ろうと思っています。就労支援につなげていきたいです」
障がい者を取り巻く環境も変えていきたいと同氏は言う。
「障がい者に対する企業の認知を高める必要があります。適材適所であれば彼らはちゃんと仕事ができますし、健常者よりも向いている仕事もあります。そういったことを企業に啓蒙して、将来は求人を行う企業を募集し、子どもたちを送り出せる環境を作りたいですね。自分たちのところで雇用することも考えています」
さらに同氏は続ける。
「安定した収入を得るために始めた事業なのですが、まだまだ利益は出ていません。効率よく利益を出す方法はあるのでしょうけど、それだけじゃ寂しいと感じますね。人の役に立つことは、自分の支えにもなるのだと、今ならわかるんです」
将来は福祉の事業で、自分の故郷である岐阜に錦を飾りたいと話す後藤氏。「MIRAIO」と同氏は、健常者・障がい者が区別されることなく、誰もが「自分は価値ある人間である」と感じられる「未来を」創造している。
●プロフィール
後藤正樹(ごとう・まさき)氏…昭和49年生まれ、岐阜県土岐市出身。山梨学院大学在籍時には陸上駅伝部に所属。大学卒業後に就職した大手外食産業会社を退社以来、15社の転職を繰り返し、最後に勤めた不動産会社の経験を活かし独立。平成23年5月、日翔レジデンシャル株式会社を設立。同社代表取締役就任。平成29年2月1日、藤沢市に「MIRAIO(ミライオ)藤沢駅前教室」を開設。
●日翔レジデンシャル株式会社
〒141-0031 東京都品川区西五反田8-1-8 中村屋ビル9F
TEL 03-6417-0665
●MIRAIO(ミライオ)藤沢駅前教室
〒251-0024 神奈川県藤沢市鵠沼橘1-1-5 平本藤沢ビル2F
TEL 0466-20-5108
◆2017年7月号の記事より◆