オビ 企業物語1 (2)

忙しい人にこそ学びのチャンスを。〝しくじり〟から生まれた人気オンライン講座で世界ナンバーワンを目指せ

KIYOラーニング株式会社/代表取締役CEO  綾部貴淑氏

 

オビ ヒューマンドキュメント

 

資格取得を目指すなら、今やオンラインの時代かもしれない。

ビジネス、語学、教養など幅広いジャンルが存在し、近年では社員教育の分野でも注目を集めるeラーニング。中でもビジネスパーソン向け資格講座で話題を呼んでいるのが「通勤講座」である。

運営するKIYOラーニング株式会社(東京都港区)の代表取締役・綾部貴淑氏は「将来的にはこの分野で世界ナンバーワンになることを目指しています」と語る。同サービスの人気の秘密、そして、同社の将来性を探る。

 

 

ビジネスパーソンから人気を集めるオンライン資格講座

資格取得に挑戦したいと考える人は多い。しかし、日々の忙しさに追われて行動に移せない、あるいは挫折してしまう、そんな経験をする人も少なくないだろう。

 

「新たな学びに挑戦するとき、障壁となるのが『時間がない』『続かない』『お金がない』の3つなんです」

 

そう話すのはKIYOラーニング株式会社(東京都港区)の代表取締役・綾部貴淑氏だ。

 

近年、拡大傾向にあるeラーニング市場。インターネットなどを利用した学習形態であるeラーニングはオンライン学習とも呼ばれ、資格取得をはじめ、語学、IT技術、社員教育など、現在さまざまなジャンルが存在する。そうした中、同社が提供するビジネスパーソン向けオンライン資格講座「通勤講座」が人気だ。

 

「当初はデジタル音楽プレイヤーを利用した音声講座でしたが、業界ではどこよりも早く2012年にスマートフォンなどの携帯情報端末を利用したサービスを開始しました。これが契機となり、飛躍的に有料会員数が伸び、現在、1万5000人を突破しています」

 

加えて、今年6月には複数のファンドおよび事業会社を引受先とした第三者割当増資を行い、金融機関からの融資を含めると、総額1億8500万円の資金調達を実施。さらなる事業の拡大、拡充に乗り出している。

 

「2016年度のeラーニング市場規模は矢野経済研究所によると前年度比で約107%拡大し、1800億円弱です。成長する市場のニーズを着実に汲み取っていき、将来的には『通信講座といえば通勤講座だよね』と言われるような業界ナンバーワンの企業になることを目指しています」

 

 

忙しい人にこそ、スキルアップの機会を

「通勤講座」は先に挙げた3つの障壁を解消すべく開発されたサービスだ。スマートフォンやタブレットに特化した資格取得のためのオンライン講座で、隙間時間を使って効率的に学習できる教材・カリキュラムを提供している。現在、対応している資格は国家資格を中心に中小企業診断士や司法書士などの15資格で、2年後には民間資格を含む100講座前後の開講を予定している。

 

「ビデオ講座によるインプット学習と練習問題を解くアウトプット学習を合わせることで、従来よりも早いスピードで実力を身につけられるのが当サービスの特徴です。動画や音声は倍速再生に対応し、復習時などには時間を短縮しての学習が可能なため、隙間時間を活用できると多くの受講生から喜ばれています」

 

同サービスが目指すのは「世界一、学びやすく、わかりやすく、続けやすい学習手段」だ。同氏は忙しい人にこそ利用してもらいたいと訴える。

 

「普段の業務を頑張る人ほど忙しい日々を送り、スキルを伸ばす機会を失っています。その結果、企業の生産性が高まらず、経済面や給与面の伸びが停滞する原因にもなっています。それを打開するために〝学び〟を革新し、誰もが持っている無限の力を最大限に引き出すサポートをすること、それが私たちのミッションです」

 

どこにも負けない低価格の実現

効率的に資格取得を目指せる点が同サービスの人気の秘密であるが、もうひとつの魅力が手頃な価格設定だ。例えば、中小企業診断士の資格を取得する際、一般的にはスクールなどに通う場合で20~30万円前後、通信教育を利用する場合で10万円以上の費用がかかる。

いっぽう、同サービスでは模擬試験などのオプションを追加しても6万円前後だという。

 

「オンラインに特化し、動画の撮影も最新機器を揃えた自社スタジオで行うなど自動化と省力化を徹底し、どこにも負けない低価格を実現しています」

 

前述のように、同社では携帯情報端末に特化したサービスを他社に先駆けてリリースしており、そうした先駆者メリットが人気を後押ししている面がある。しかし、低価格による競争も先駆者メリットもいずれは限界がやってくるものだ。そのとき、同社はいかにして「ナンバーワン」のポジションをつかみ取るのか。

ところが、同氏は泰然自若として次のように答える。

 

「私自身、eラーニングやIT事業をやっている意識をあまり持っていないんです。それらはあくまで手段であり、ツールであって、私たちの事業の本質ではないと捉えています」

 

 

2度の失敗を経てたどり着いた答え

では、同氏が考える「本質」とは何か。

実は、3つの障壁を誰よりも実感しているのが同氏自身である。同氏はサラリーマン時代に中小企業診断士の資格取得に挑戦している。

 

「大量のテキストと問題集が段ボール箱で自宅に届きました。それまでの私は将来のために何かをしたいと思っていても具体的に行動を起こせず、モヤモヤとした時期を過ごしていました。そんなこともあり、頑張ってテキストを読んだのですが、内容がなかなか頭に入ってきませんでした。どんどん気も滅入り、結局、挫折してしまったのです」

 

その2年後、今度は別会社の通信講座で、再度チャレンジした。その結果は……。

 

「毎日の忙しさの中で思うように時間が取れず、またしても挫折しました。さすがに2度目の失敗のときには非常に悔しく、自分の何がいけなかったのか、自分には能力がないのかと自問自答を繰り返しました」

 

その後、資格取得はいったん脇に置き、学習法や脳科学などに関する本を読み漁り、さまざまなセミナーにも参加したという。そして、ある答えにたどり着いたのであった。

 

「勉強ができる人とできない人の差は頭の良し悪しではなく、学び方の差だと気づいたのです。一度に丸暗記するような無理をしても、結局、頭には残りません。野球選手が何千回と素振りをするように、正しい方法を何度も繰り返し、積み上げていかなければ人は成長しません。

そして、勉強ができる人ほど記憶を頭に定着させやすい工夫を実践していることにも気がつきました。そうしたことを踏まえ、私はオリジナルの学習法と学習ツールを作成し、3度目の資格取得に挑みました。

仕事の忙しさは相変わらずでしたが、平日の隙間時間に勉強を進め、短期間であったにも関わらず、2007年、無事に合格することができました。このときの体験と実践が『通勤講座』のベースになっています」

 

いつもの通勤時間を、資格取得のための有効な時間に変えてくれる「通勤講座」

 

 

人間はどうすれば成長できるのか

同氏は資格取得と同時に従来からの通信講座に疑問を抱くようになる。

 

「パソコンをはじめとしたデジタル機器がどんどん普及しているのに、通信講座では紙を大量に送りつけるスタイルを何十年とやっているのです。既存のプレイヤーにはない、効率的な学習サービスが提供できればビジネスとして成立するのではないか、そう考え、週末起業の形で2008年に通信講座の事業をスタートさせました」

 

当初は自身が講師となり、中小企業診断士の資格対策講座を音声データで配信した。セミナーの開催やメールマガジンの発行など地道なプロモーションを続け、スタートから4カ月で受講者数が100名を超えたという。

 

「私はどうやったら人間が成長できるのかをずっと考えてきました。そして、それを実現するためのメソッドを教材に盛り込みました。いつでもどこでもゲーム感覚で勉強ができる、そうしたことを謳うeラーニングはたくさんあります。

しかし、どうすれば成長できるのかという視点を持ったサービスはありません。私たちの事業の本質は人の成長をサポートすることであり、それを実現するためのメソッドがまさに私たちの強みであると考えています」

 

 

グローバル・スタンダードを目指して

これまで個人向けのBtoC市場に注力してきた同社であるが、今後は企業向けのBtoB市場にも参入していくという。eラーニングにおけるBtoB市場は企業の人材不足の問題や人材育成の多様化などを背景に現在、ニーズが伸びている市場である。

 

「働き方改革が叫ばれる中、在宅勤務や派遣社員、シニアの活用など勤務形態が複雑化しています。これまで社員教育といえば、入社すると新人研修、ある程度の年齢になると管理者向け教育というメニューが何十年と行われてきましたが、その方法は今や時代と適合しません。

『通勤講座』で培ったノウハウを応用し、今後は企業向けのサービスを展開していきたいと考えています。その第一弾として社員教育クラウドサービス「エアコース(AirCourse)」の提供を7月から開始する予定です」

 

同社では数年のうちに東証一部へ上場することも計画している。今回の資金調達はその足がかりでもある。

 

「将来的にはグローバルな展開も視野に入れています。今は海外発祥のオンラインサービスが日本でも成功を収めていますが、eラーニングの分野では私たちのサービスが世界標準となり、海外でもナンバーワンになることを真剣に目指しています」

 

どうすれば人間は成長できるのか。その飽くなき探求はこれからも続く。

そして、「忙しい人にこそスキルアップの機会を」と願う同氏の信念は、きっと同社を世界ナンバーワンのポジションへと導いてゆくに違いない。同社の将来に期待がかかる。

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

綾部貴淑(あやべ・きよし)氏…1971年千葉県富津市生まれ。東京工業大学情報科学科卒業後、外資系ソフトウェア会社に勤務。その後、経営情報システムのコンサルティング会社に勤めるかたわら、週末起業の形で2008年よりビジネスパーソン向け資格講座「通勤講座」を開講。2010年に法人化し、オンライン教育ベンチャーの「KIYOラーニング株式会社」を創業、現在に至る。

 

●KIYOラーニング株式会社

〒107-0061 東京都港区北青山2-12-8 荒川ビル2F

TEL 03-6434-5886

https://www.kiyo-learning.com

〈通勤講座〉 https://manabiz.jp/

 

 

 

◆2017年7月号の記事より◆

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