オビ 企業物語1 (2)

デリケートゾーンのケアに新習慣。日本人女性の9割が抱える悩みに若手女性起業家が挑む

株式会社バルドゥッチ/代表取締役  バルドゥッチ淳子氏

 

オビ ヒューマンドキュメント

美容や健康に対する日本人女性の意識は高い。しかし、デリケートゾーンの話になると事情は変わる。海外ではデリケートゾーンのケア用品市場は一般的だが、日本では未開拓といっても過言ではない。

「本当は多くの女性が悩みを抱えているんです」そう話すのは株式会社バルドゥッチ(東京都渋谷区)の代表取締役・バルドゥッチ淳子氏。

同社がこの7月に販売を開始するデリケートゾーン専用ケア用品ブランド「トレスマリア/TRES MARIA」は、どれだけ潜在需要を掘り起こせるのか。その戦略と展望を探った。

 

 

実は多くの女性が抱えている「悩み」

9割以上もの日本人女性がデリケートゾーン(陰部)に関する悩みを抱えているという(株式会社バルドゥッチ調べ)。

しかし、「恥ずかしい」などの意識から多くの場合、誰かに相談したり、誰かから正しいケア方法を教わることもない。

女性のデリケートゾーンは尿や経血などが付着しやすい構造であり、細菌も繁殖しやすい。そのため、不衛生のままで放置すると匂いや痒み、そして病気の原因になることもある。

株式会社バルドゥッチ(東京都渋谷区)の代表取締役・バルドゥッチ淳子氏は「妊娠や出産、婦人病などに直面したとき、初めて日常的なケアの大切さに気づく日本人女性が多いんです」と話す。

 

女性の社会進出が目覚ましい昨今、同社は多様化する女性の悩みに対して解決策を提供する化粧品会社として、2014年に設立された。

そして、今年7月、デリケートゾーン専用の女性向け高級ケア用品ブランド「トレスマリア/TRES MARIA」の販売を開始する。そのプレス発表会が5月末(29、 30日)に銀座にて開催され、本誌取材班も足を運んだ。

 

5月末に行われたプレス発表会では男性向けのセッションも行われた

 

 

ケアに対する意識が低い日本

登壇した同氏はオーディエンスを前に同ブランドの設立背景を語る。

 

「スキンケアなどに対する日本人女性の意識は高く、日本の美容市場は世界でも最先端と言われています。いっぽうで、多くの女性が悩みを抱えるデリケートゾーンのケアについては、諸外国に比べて意識が低く、最適なケア用品も日本にはほとんどありません。その問題に着目したのがトレスマリアです」
女性がデリケートゾーンに対してどんな悩みを抱えているのか、同社が独自アンケートを実施したところ、もっとも多い回答が「匂い」、次いで順に「蒸れ」「痒み」「黒ずみ」という結果だった。適切なケアを日常的に取り入れることで、これらの悩みの対策になると同氏は話す。

 

「当ブランドでは洗う、潤す、見つめるのシンプルな3ステップケアを推奨しています。これまで誰からも教えてもらえなかったデリケートゾーンの適切なお手入れについて、悩みを抱える女性の皆様に発信していきたいと考えています」

 

 

狙いは意識そのものの〝底上げ〟

「洗う・潤す・見つめる」の3ステップを日常に取り入れるだけで適切なケアが行える(左からトレスマリア ミラー、トレスマリア ソープ、トレスマリア ミルク)

具体的な商品ラインアップは3つ。ボディー用洗浄料「トレスマリア ソープ」、ボディー用乳液「トレスマリア ミルク」、ボディー用ミラー「トレスマリア ミラー」。

興味深いのは鏡をラインアップに入れている点だ。

そこには同ブランドが単なる〝ケア用品〟という位置づけではなく、日本人女性のデリケートゾーンのケアに対する意識そのものを底上げしたいという狙いがある。

 

「このミラーは楕円形をしていて、ご自分のデリケートゾーンを観察しやすい形状になっています。実は、デリケートゾーンに悩みを抱えた方の多くが、ご自分のデリケートゾーンを見たことがないとお答えになっています。

そのため、ケアが不十分となり、垢がたまっていたり、乾燥に気がつかないままになっているケースが多々あるのです。そこで、まずはご自分の目でしっかりと確かめることが大切なステップになると考えています」

 

女性のデリケートゾーンは皮膚が薄く粘膜も多いことから、皮膚を経由して物質が体内に取り込まれる経皮吸収率がもっとも高い部位である。そうしたことから「トレスマリア ソープ」も「トレスマリア ミルク」も安全性については徹底的に配慮した。

 

「シャクヤクエキスや乳酸菌などを配合した当ブランドの製品は、高品質の日本製であること。また、一般的な洗浄料に使われるパラベンや石油系界面活性剤などの添加物は使用せず低刺激であること。それらに注力し、乳幼児が使用しても安全なように配慮しています。加えて、細心の注意を払ったのがpH(ペーハー)値です」

 

女性器の専門医によると、デリケートゾーンは体のほかの部位と比べ、病原体や雑菌の侵入、繁殖を防ぐために酸性度が高くなっており、中性やアルカリ性のボディーソープなどで洗うと、かえってトラブルを招いてしまうことがあるという。だからこそ、デリケートゾーンと同じ弱酸性の専用ソープやミルクが毎日のケアには大切になってくるのだ。

 

「馴染みのよいジェル状の『トレスマリア ソープ』でマッサージをしながら汚れを取り除き、水々しいミルクのようなつけ心地の『トレスマリア ミルク』で皮膚を潤し、『トレスマリア ミラー』で乾燥やごわつきのない滑らかな肌を実感していただけたらと思います」。

 

 

市場開拓に向けて参加したアクセラレータープログラム

新たな市場を開拓し、潜在需要を掘り起こすことがベンチャー企業の成功の鍵となる。当然、同ブランドの真価が問われるのはこれからであるが、その将来性をいち早く見出したのが、本誌2017年4月号でもお伝えしたアクセラレータープログラム「TOKYOアクセラレーター」であった。

 

同プログラムは若手企業の革新的な事業に対し、主催である第一勧業信用組合(東京都新宿区)と株式会社ゼロワンブースター(東京都港区)がさまざまなリソースやネットワークを活用して事業を加速(アクセル)させる支援プログラムである。113の起業家・事業家チームがエントリーし、昨年9月に開催されたビジネスプランコンテストで勝ち抜いた9社が参加資格を獲得、バルドゥッチはそのうちの1社であった。

運営期間となる5カ月の間、同社は第一勧業信組とゼロワンブースター、その関連企業の経営者などからアドバイスや指導を受け、事業の軌道修正やコンセプトのブラッシュアップを行った。同プログラムに参加した感想を同氏に尋ねると、次のような言葉が返ってきた。

 

「もともと私は世界的に展開する化粧品会社の国際部に所属し、世界の有名百貨店におけるブランドローンチや育成に関する仕事に従事してきました。そうした経緯もあり、美容業界の知識や人脈を多く持ってはいたのですが、世界的にも斬新なアイデアがあふれる東京で新たな事業を起こすという点では不得手に感じる部分もありました。

東京アクセラレーターに参加したことで、これまで関わることのなかった業種の方々、例えば、高級飲食店やホテルの経営者、お医者様や弁護士の先生といった多くの方々を積極的に紹介していただき、コネクションを築けたことはとても財産になりました。やはり、業界内の常識や価値観だけで物事を捉えてしまうと視野が狭くなります。

新しい市場を開拓するために必要なアイデアやアドバイスを、本当に多くの方々から頂戴し、より効果的でより充実した新ブランドの発信へとつながりました。

また、5カ月のアクセラレータープログラムを終えた現在でも、継続的に新田理事長を筆頭に販路開拓やコネクションなど多方面において積極的にご支援くださっていることに感銘を受けております。第一勧信さんとゼロワンブースターさんには感謝してもしきれない思いでいます」

 

新田理事長もプレス発表会に参加。右は株式会社バルドゥッチの高田睦営業部長

 

 

新たなる習慣を根づかせるために

海外のホテルではデリケートゾーン専用のケア用品がアメニティとして常備されているなど、市場として確立されている国が多い。では、なぜ、ケアに対する意識が日本では低いのか。

その要因は諸説あるが、例えば、日本人に比べると外国人は体臭が強く、デリケートゾーンの処理を怠ると不衛生だという考えが人々の間に浸透している点が挙げられる。あるいは、イスラム諸国のように宗教的な理由によりアンダーヘアの処理を行うのが一般的な国もある。あるいは、欧州各国では生命倫理を含めた性教育が行われており、学校や家庭でデリケートゾーンのケアについて教わる機会が設けられていることも一因だろう。

いっぽう、日本は性やデリケートゾーンについてタブー視する向きがあり、学校や家庭で教わることは皆無と言って等しい。しかし、冒頭で述べたように悩みを抱えた女性が多いのも事実である。

 

「残念ながら日本では、お手入れについて母から娘に伝える文化は発達していません。トレスマリアはスペイン語で『3人のマリア様』を意味し、ブランドのコンセプトは、『母・私・娘、美絆の伝承』です。大切なデリケートゾーンのケアを世代を超えて母親から娘へと伝承していく、そうした文化を私たちから発信できたらと考えています」

 

同氏はアルゼンチン人男性と結婚したことをきっかけに、日本と海外のデリケートゾーン事情の違いに気づき、それが同社を設立する動機となった。

その後、会社設立へと至り、医療機関などからの協力を仰ぎながら研究・開発を続けていった。起業から同ブランドの販売開始までに3年もの歳月を要したのは、より優れた、そして、より日本人に適した製品を世に届けたいと願ったからにほかならない。

これまでの男性中心社会の中では顕在化されなかった需要を掘り起こし、多くの女性の悩みを解消すべく、この7月、トレスマリアがいよいよその第一歩を踏み出すこととなる。

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

バルドゥッチ淳子(ばるどぅっち・じゅんこ)氏…1977年、東京生まれ。米国UCバークレーエクステンション卒業後帰国。商社、大手国産化粧品会社の国際部に所属し、世界の有名百貨店におけるブランドローンチや育成に従事する。グローバル体験を通じて、日本の美容の盲点に着目し、新たな美容分野の開拓を目指して、2014年、株式会社バルドゥッチを設立、現在に至る。

 

●株式会社バルドゥッチ

〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷2-34-21

TEL 03-6804-8744

http://www.balducci.jp

http://www.tresmaria.com

 

 

 

◆2017年7月号の記事より◆

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