オビ 企業物語1 (2)

社員の意見を反映し、改善に結びつける。目標は「20歳で入って定年まで働ける会社作り」

〈ドライバーにとって〝居心地のよい〟運輸会社〉

大島運輸株式会社/代表取締役 大島弥一氏

 

オビ ヒューマンドキュメント

 

トラックドライバーが「きついけれど稼げる」仕事と言われ、若者が集まったのも昔の話

。現在、若い世代の新規就業者の減少とドライバーの高齢化による深刻な人手不足は、大手・中小企業を問わず物流業界全体の悩みの種となっている。

 

そんな中、社員の定着率が高く、他社ドライバーからも「あの会社に行きたい」と声が上がるのが「大島運輸株式会社」だ。

この人材確保が困難な時代に、同社はなぜ「入りたい」と言われるのか? 代表取締役・大島弥一氏に伺った。

 

 

 

60年の歴史を持つ老舗運輸業

大島運輸株式会社は1957年に大島氏の伯父(長男)が創業。創立当初からトラックによる運輸・配送と企業専属の貨物運送業を専業とし、積み合わせ貨物をはじめとした物流の効率化にもいち早く取り組んで、堅実に顧客の信頼を獲得してきた老舗運輸会社だ。

1999年に大島氏が4代目社長に就任した後は、同氏とコンビニエンスストア(以下、コンビニ)のセンター担当者との縁をきっかけとして、コンビニのルート配送を大幅に拡大。

一方建材配送分野では、商品の運搬・積み下ろしだけでなく、サッシの組み立て等の専門技術を学んだ「職人ドライバー」による組み立ても行うなど、荷主の負担軽減につながる独自のサービスを展開してきた。現在の従業員数は100人、今期の売り上げは7億円余りを見込んでいる。

 

 

物流業界を襲う深刻なドライバー不足

大島氏が初めて運輸業の仕事に触れたのは中学・高校生の時。当時、伯父(二男)が代表取締役を務めていた同社で、夏・冬休み限定でアルバイトをしたことだ。1985年前後のことだが、当時と今ではドライバーの雰囲気も仕事の仕方もまったく違うという。

 

「当時のドライバーは、田舎から免許一つで出てきたヤンキー上がり、暴走族上がりだらけで正直怖い人ばかり。お互いに荷物の数を張り合って、夜の12時、1時までガンガン音を立てながら荷物を積み込んだりもしていましたね。

大学生になると、アルバイトドライバーとして生まれて初めてトラックに乗り、コンビニのルート配送に出たんですが、父からは『3日でコースと仕事を覚えろ。4日目からは1人で行け』と言われ、実際にその通りにされて。

最初の3日間に必死で取った、曲がる場所のメモや交差点名だけが頼りでした」とは、大島氏自身の体験談。2週間~1カ月の研修が当たり前の現在では有り得ないことだが、当時はそれが常識だった。

 

今のドライバー希望者は免許一つで上京してくる人は減り、大卒者も珍しくない。無愛想で挨拶もしない人に代わって、しゃべるのが好きな人が増えたともいう。

変化は悪いものばかりではないが、燃料の高騰・高速道路の値上げなどの影響による報酬面での魅力の減少や長時間勤務が多い過酷な現場などが、ドライバー不足の一因となっているのもまた間違いないだろう。

 

 

意見を聞き反映することが社員の信頼の源

同社トラック

だがこのような変化の中でも、同社は昨年度だけで10人以上のドライバーを新規採用している。それを可能にした他社との違いとは何なのか?

「正直、何がセールスポイントかは理解していません。ただ、居やすいらしいんですよ」と大島氏は言うが、話が進むうちに見えてきた4つのポイントがある。

 

その筆頭格にあたるのが、社長である大島氏の「常にドライバーの意見を聞く姿勢」だ。

会社に対する不満でも仕事の愚痴でも、何でも相手の意見を否定せずにしっかり聞くのが基本。週に1度は多くのドライバーが働くコンビニの配送センターに顔を出す。

1日控え室に滞在する中で、社員同士の会話にも加わることもあれば、個人の悩みを相談されることもあり、会社への要望や上司への不満を聞くことも少なくないという。

それだけスタッフたちが心を開いているのは、一つには大島氏の人柄のなせる業だろう。ここ半年ほどは、共同配送センターでの積み込み作業を手伝うのが習慣。

「ただデスクにいるよりドライバーとのコミュニケーションも取れるし、少しでも負担が軽くなるから」と笑うその姿に、信頼を寄せる社員が多いことは簡単に想像できる。

 

だがもう一つ重要なのは、社員の誰もが「社長に話せば受け入れてくれるし、改善してくれる」と知り、また信じていることだ。実際これまでに多くの意見が取り上げられ、ドライバーの働き方に大きな影響を及ぼしている。

 

 

ドライバーの声から生まれた「常駐倉庫管理者」

常駐倉庫管理者を置くことでドライバーの負担を軽減できる

2003年に導入された、荷主企業の倉庫に管理者を常駐させる「常駐倉庫管理者」も、ドライバーからの提案を受けて始まったものだ。

 

木材やガラスサッシなどの建築資材の専門配送では避けられない重い資材の積み下ろしは、ドライバーには大きな負担となるもの。

荷主企業の倉庫に管理者がいればよいが、そうでなければ1人で作業せざるを得ず、それがドライバーの長時間勤務の原因にもなっていた。

 

そこで、事前に荷物を準備し、ドライバーと一緒に積み込みを行う管理者の配置を求める声が上がってきたのだ。

ドライバーの総数は変わらない以上、1人を倉庫専属にすれば、当然その分個々のドライバーが運ぶ量は少しずつ増すことになる。

しかしそれでもなお、倉庫管理者を置いた成果は十分にあると大島氏は言う。

 

「2016年3月から倉庫管理者を置いた八王子倉庫は、以前はほぼ毎日労働時間12時間超という状態でした。けれど倉庫管理者を置いたことで、月間3分の1程度に抑えることができたんです。

荷主企業の了解が必要なので、現在倉庫管理者がいるのは4カ所のみですが、まだ配置できていない倉庫にも導入できるよう、荷主企業に積極的に働きかけているところです」

 

いきなりすべてを改善することはできなくても、社員の意見を取り入れ、働きやすい環境づくりに真剣に取り組む。その熱意が信頼につながっている。

 

 

現場中心を徹底した新規採用・新人教育

社員を信頼し、その意見を取り入れる同社の方法は「ドライバー教育」にも表れている。

まず新規採用に関しては社長である大島氏はノータッチ。

 

「僕が採用したところで使うのは現場。〝自分が使いたい人を採りなさい〟と言っています」と現場の責任者に全権が与えられており、大島氏が声をかけたり、話を聞いたりすることはあるものの、新人教育も現場の管理者が行うのが基本なのだ。

 

もちろん完全に野放しというわけではなく、法改正などの必要な情報を伝える必要からも管理者については年に数回の研修、約半数のドライバーが所属するコンビニエンスストア部門では月末の管理者チームミーティングを実施。管理者から現場のドライバーに伝えるという仕組みだ。

荷主の元に常駐し、直行・直帰するドライバーが多い中で、安全・安心につながる教育が重視される時代の要請に応え、効率的に採用・教育を行うシステムとして機能している。

 

 

「免許を取るなら運輸業」の流れを作りたい

サッシの組み立て等の専門技術を学んだ「職人ドライバー」たち(写真上・下)

もう一つ、「働く意欲のある人への支援」の充実も働きやすい環境づくりとリンクするものだ。

 

中型自動車免許や大型自動車免許、フォークリフトなどの取得を希望する社員、運行管理者の受験を希望する社員のために、大島氏が費用を負担することは珍しくない。

免許を持っていない人には、3年間の勤務継続を条件に、会社が準中型自動車免許の取得費用全額を負担する制度がある。

取得後、毎日の給与から少しずつ返済していく形だが、途中で辞めたとしても特にペナルティはなし。3年勤めれば、全額キャッシュバックを受けることができる。

もちろん若い応募者を増やすのが狙いだが、ただ自社の採用のためだけではなく、「18歳、19歳の学生さんに〝免許を取りたければ運送屋に行け〟という流れを作るのが目標」なのだと大島氏は言う。

 

「免許取得にかかる費用は、僕らの頃は18万円ぐらいでしたが、今は30万円、40万円ぐらい。10代の学生さんには相当な負担で、親が出してくれない限り免許の取得は厳しいのではないでしょうか。

けれども、運送屋で3年なり5年なり頑張れば免許も取れるし、ほとんどの場合収入も普通の18歳で働くより高いわけです。そこはねらい目だし、アピールしていくべきところだと思うんですね」

 

しかし仮に若者への手厚い支援が業界の常識になったとして、条件が同じなら学生は大手に流れてしまうのではないか?

そんな疑問も生まれるが、大島氏の答えは「それでもかまわない。むしろ一度大手を経験してほしい」というものだ。

 

「最初は名前のあるところに就職したいのが普通ですし、実際に大手では最近結構高校を回っていると聞いています。でも大手に入ったとしても、必ず合わない人もいます。中小企業にとって、二つ目のねらい目はその合わない人たち。

その人たちにうちのことを知ってもらえるように、募集広告やプレスリリースを通して発信しているんです」

 

 

最後に目標を尋ねると「20歳で入って定年まで働ける会社作り。結婚して子どもを養うことになっても十分な休みと給料をあげられる会社を目指したいと思っています」との答えが返ってきた。

4つのポイントが集約されたその一言こそ、同社に人が集まる何よりの理由なのだろう。

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

大島弥一(おおしま・やいち)氏…1969年5月12日生まれ。神奈川大学卒業後、父(三男)が代表を務める大島運輸株式会社に入社。コンビニエンスストアのルート配送に始まり、数々の現場経験を経て、1999年2月に代表取締役に就任する。一般社団法人東京都トラック協会新宿支部支部長。独立行政法人自動車事故対策機構専任講師。 2017年6月より、流通経済大学客員教授。

 

●大島運輸株式会社

〈本社〉

〒160-0022 東京都新宿区新宿1-25-3 503号

http://www.oshima-ex.co.jp

〈井草営業所〉

〒167-0023 東京都杉並区上井草2-34-26

TEL 03-3395-4881

〈横浜営業所〉

〒224-0054 神奈川県横浜市都筑区佐江戸町155番地 横浜港北センター内

TEL 045-931-9900

 

 

 

◆2017年6月号の記事より◆

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