オビ 企業物語1 (2)

ノンボトル型ウォーターサーバーで、日本の〝新たな常識〟の創造を目指す

〈命の必需品「水」のあり方に新しい可能性を提案する〉

キスリー株式会社/代表取締役社長 西村太郎氏

 

オビ ヒューマンドキュメント

 

オフィスや病院、個人の居宅などに、広く普及しているウォーターサーバー。

水が入った大きなボトルをセットして使うタイプが一般的だが、水のボトルは重いし保管のための場所も必要だ。

だがその不便さは、本当に避けられないものなのか?

偶然の出合いからそんな疑問を持ち、今までの常識を破るノンボトル型ウォーターサーバー、

「CoolQoo(クール・クー)」に注目したのが、キスリー株式会社代表取締役社長・西村太郎氏だ。

金融、不動産、飲食、ITと様々な業種を経て、今この次世代ウォーターサーバーの普及に全力で取り組む西村氏に、

事業にかける思いと将来の展望を伺った。

 

 

水質も効率もよいノンボトル型サーバー

ノンボトル型ウォーターサーバーとは、読んで字のごとく水のボトルが不要なウォーターサーバーのことだ。

現在、日本で普及しているウォーターサーバーの大多数はボトル設置型。

サーバーをレンタルし、使う分だけ水のボトルを購入する仕組みで、

ボトルの注文、配送、交換、使い捨てボトルならゴミの処理といった手間がかかる。

ボトル内の水は、名水の産地で採取した水にろ過、沈殿、加熱殺菌処理を加えた「天然水」をうたうものと、

水道水を「RO(逆浸透)膜ろ過」という技術でろ過し、不純物をほぼ完全に取り除いた「RO水」があり、

メーカーの工場でボトル詰めをして販売している。

 

だが水のボトルは重くて設置が大変だし、配送の手間も費用もかかる。

それならば、工場から配送するより、個別のサーバーに水をろ過する機能を持たせた方が効率的ではないか。

むしろ、飲む直前にろ過した方が新鮮で雑菌汚染のリスクも低いのではないか?

ノンボトル型ウォーターサーバーは、そんな疑問から登場したものだ。

 

ボトル型との一番の違いは、RO(逆浸透)膜ろ過装置を搭載し、水道管に連結して自宅で水をろ過できることで、

どれだけ使おうと月額固定のサーバーレンタル料しかかからないのが大きなメリット。

キスリー株式会社の「CoolQoo」の場合、年1度のメンテナンス付きの価格は月々4200円で、

後は水道代のみで好きなだけ利用できる。

 

 

時代に必要とされる「良いもの」との確信から事業を開始

「〝CoolQoo〟を広めるために会社を作った」。

そう話す西村氏だが、昔から水に興味があったというわけではない。

 

大学を3カ月で辞めた後、フリーター期間を経てカナダへ留学。

帰国後2004年に最初の会社を立ち上げ、以後、金融業や不動産業、飲食業とさまざまな業種でビジネスを経験した。

「CoolQoo」を知ったのは、SEOを中心とするWEbマーケティング事業を手がけるSEO株式会社を経営していた時だ。

その出合いから、ノンボトル型ウォーターサーバーの普及事業に心血を注ぐまでになったのは、

3つのきっかけがあったからだという。

 

「一つは、正直な話SEO業界自体が下火になっていたことです。

そんな中、偶然ノンボトル型ウォーターサーバーの存在を知り、実際に自社で使ってみたらとても良いものだと思いまして。

けれど数々のメリットがあり、優れたものであるにも関わらず、日本の市場ではほとんど知られていませんでした。

我々が普段意識することは少ないですが、世界的にはこれからどんどん水不足が進むと言われています。

それは水の絶対量が減るわけではなくて、安全に飲める水が減るということ。

〝水〟は命の必需品ですから、ならば信頼できる水を自宅でつくれるウォーターサーバーを普及させることは、

大きな意義があると思ったんです」

 

「ノンボトル型ウォーターサーバーは間違いなく良いものだし、

自分がビジネスとしてやらなくてもいずれ必ず広まっていく」。

西村氏を動かしたのは、3つのきっかけから得たそんな確信だ。

最初はSEO株式会社の事業の一環として「CoolQoo」を販売する会社の手伝いをするも、

2013年5月にキスリー株式会社を設立し、2014年にはSEO株式会社を売却。

より多くの人に使ってもらうために、販売からレンタル方式に切り替え、

2015年6月から本格的にレンタル事業をスタートさせた。

2017年4月現在までの契約数は約1500台。月100~200台のペースで拡大中で、確かな手ごたえを感じている。

 

CoolQooは水道直結方式(自動給水型)だが、水道から離れた場所でもサブタンク方式での設置が可能。さらにホースや管がしっかり隠れるので、設置場所の雰囲気を壊さない。

 

 

味のあるものをつくり、新たな常識を創造する

どんなに優れたものでも、実際に形になって示されるまでは、それが必要かどうかはわからない。

例えば、冷蔵庫のない時代に「自宅でいつでも冷やしたジュースが飲める箱が必要だ」と思った人はいないだろうし、

インターネットが登場する前に「世界中と瞬時に情報をやり取りできるようなネットワークがないと困る」と思った人もいないだろう。

 

しかし冷蔵庫もインターネットも、今ではわざわざ日々便利さを感じるまでもない当たり前のものとして、

我々の生活の中に溶け込んでいる。

西村氏が目指すのは、そういう「新たな常識を創造する」ことだ。

 

「WEBマーケティング時代から、最も核にあるのは〝意味のあるものをつくりたい〟という思いです。

今の時代は、本当に暇つぶしのためのゲームとか何の役にも立たない情報とか、

まったく価値のないものも売り方さえ上手ければ売れる時代。

でもそれでは続かないし、つくっていても全然楽しくないと思うんです。

意味のあるものは続くし、それが土台となって様々な方向に波及していく。

そういう意味のあるものを世の中に供給して、新しい〝当たり前〟を生み出すのが目標です。

それが社会貢献だ、と偉そうなことまでは言えませんが、常にそういう風に思っていますね」

 

キッチンへの設置例。配線が目立たず、またボトル用のスペースを確保する必要もないためスッキリと置ける

その思いからなる現在の事業を支えるのは、

「ノンボトル型ウォーターサーバーは新たな常識になりえるものだ」という確かな確信。

それから、子どもの頃から工作やモノづくりに感じてきた「楽しさ」だ。

 

「子どもの頃からちょっとした工作は好きで、

ダンボールのロボットとかいろいろなものをつくって面白いなと感じていました。

今当社は〝空気、水気、香気〟の3つを柱として、ウォーターサーバーの製造・レンタルのほか空気清浄機・

加湿器の販売も手がけているんですが、こんな機能を付けたらどうだろうとか、

こうやったらすごいものができるんじゃないかと日々考えて、

フィードバックされた問題をクリアすることでよりよいモノづくりを目指しています。

その過程は面白いし、そうやって問題をクリアし続けてできた自信作を製造・販売し、売れたら単純に楽しいですよね」と、

モノづくりの根本である品質向上に余念がない。

 

今は韓国の工場で製造しているが、

将来的には日本の工場でメイド・イン・ジャパンのノンボトル型ウォーターサーバーを生産する予定。

現在はライバルとなる同業他社はいないが、今後確実に参入者が出ることを見越し、今から準備にも抜かりがない。

直近の目標は、2021年~2022年期間でのレンタル3万台の達成。

売上にして年商約20億円を見込み、その時点でマザーズへの上場を目指す。

現在「CoolQoo」の新規レンタル契約の締結数は月100~200台だが、常に入荷待ちが発生しているためで、

入荷すれば1カ月でなくなる状態とのこと。売上は伸び続けているという。

 

ベンチャー企業では株式上場を「ゴール」とする企業も多いが、西村氏が見据えるのはその先。

市場からの資金調達を得て日本での生産を開始し、

「ジャパン・クオリティ」の製品でもって海外へと事業を拡大していくことだ。

世界を見渡せば、水に関しては日本は比較的安全な方。

 

「水道水を飲めない国はアジアにはたくさんあります。

そういう国にこそ自宅で安全な水をつくれるウォーターサーバーは必要じゃないですか」と、

足元をしっかり見つめながら将来を俯瞰する目も忘れてはいない。

 

 

最終的には、挑戦する若者を支援したい

だが実は、西村氏にはもう一つ大きな目標がある。

それは、創業間もないベンチャー企業に資金を供給し支援する個人投資家「ビジネスエンジェル」になること。

自身もベンチャー企業として同社を起こし、経営している実体験の中で強く感じることがあるからだ。

 

「僕のビジネスは製造業プラスレンタル。

〝CoolQoo〟本体、代理店報酬、新規設置委託費等の初期投資に対し、

月額4200円のレンタル代を毎月回収していくビジネスモデルのため、キャッシュフローは非常に悪く、

体力勝負みたいなところがあります。

ビジネスモデル上、初期フェーズでは〝売れば売るほど〟利益が圧縮される。

一方で損益分岐点を超えると着実にストック型の売上を積み上げていくところが魅力的。

しかし、ベンチャーキャピタルや金融機関、ビジネスエンジェルの方に融資をお願いしてもなかなかいい返事はもらえません。

販売は非常に好調、資金さえあれば……といつも歯がゆい思いをしております。

僕が相談した金融機関だけかもしれませんが、ITバブルの経験からか、

何の意味もないスマホゲームでも爆発的な人気が出るかもしれないものには何十億も投資する一方、

実態として存在するものにはお金を出しにくくなっているように感じます。

でもそれでベンチャーが育たないのは残念なことですよね。

志もアイデアもあるのに、単純にお金がなくて勝負できない若い人はたくさんいますから、

〝新しいものをつくろう!〟と頑張っている今の僕みたいな人を応援したいんです」

 

西村氏は現在38歳。

10年後、20年後には、日本のウォーターサーバー事情、ベンチャー支援事情はどんな風に変化しているだろうか?

楽しみだ。

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

 

●プロフィール

西村太郎(にしむら・たろう)氏…1979年11月生まれ。東京都新宿区四谷出身。東海大学原子力工学部を3カ月で中退後、カナダ留学を経て2004年外国為替証拠金取引の媒介事業で起業。同業務が証券業務化されたことから2006年に企業売却。 その後不動産業、飲食業の起業・経営を経て個人で行っていたアフェリエイト等のITビジネスの事業化を目的に2008年SEO株式会社を設立。2015年に同社を売却し、同年キスリー株式会社代表取締役に就任。2021年までに30,000台の出荷(レンタル)を目標にマザーズ市場店頭公開を目指している。

 

●キスリー株式会社(渋谷本社)

〒150-0045 東京都渋谷区神泉町10-10 アシジ神泉ビル7階

TEL 03-5428-6333

http://www.coolqoo.com

 

 

◆2017年5月号の記事より◆

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