オビ 企業物語1 (2)

すべての障がい者に就労のチャンスを! 障がい者と健常者がともに働く世界の実現へ

株式会社ラブキャリア/代表取締役社長 坂入孝治氏

 

オビ ヒューマンドキュメント

近年、障がい者の社会進出が目覚ましい。

そうした中、水草を活用した独自のプログラムを提供する就労移行支援事業所「カレント」が注目を浴びている。

ビジネスの仕組みを取り入れた障がい者福祉サービス事業の確立を目指して同事業所を立ち上げたのは、

株式会社ラブキャリア(東京都新宿区)の代表取締役社長・坂入孝治氏

同氏は同事業所を「就労を目指す障がい者たちの居場所・再出発の場所」と称する。

その真意を探ると障がい者支援ビジネスの将来性と日本が目指すべき社会の形が見えてきた。

 

 

ビジネスの手法を取り入れ、障がい者が望む「働く」を実現

日本の障がい者雇用のあり方が変わり始めている。

厚生労働省が公表した2016年の「障がい者雇用状況の集計結果」によると、

従業員50人以上の民間企業に雇用されている障がい者は47万人を超え、

前年よりも2万人以上増加、13年連続で過去最高となった。

障がい者の法定雇用率の改正やダイバーシティ経営に取り組む企業の増加などにより、

障がい者の社会進出が急速に拡大しているのである。

 

総合人材サービスを提供する株式会社ラブキャリア(東京都新宿区)の代表取締役社長・坂入孝治氏は、

こうした流れの中で昨年7月、かねてより念願だった障がい者福祉サービス事業を展開する株式会社LPH(東京都新宿区)を立ち上げた。

同社の主要事業は障がい者が一般企業で就労できるようにサポートする就労移行支援事業所「カレント」の運営である。

 

同事業所の特徴はグループ会社と連携し、障がい者福祉サービス事業にビジネスの手法を取り入れている点だ。

例えば、水草育成プログラムでは就労に必要な知識や能力の習得と同時に収益を出すビジネスモデルの構築を目指す。

また、ラブキャリアの専門スタッフによる採用試験に向けた面接練習など実践に近い訓練プログラムを実施、

さらには総合人材サービスの強みをいかし、より多くの通所者が実際に就労できる体制づくりにも注力する。

 

現実的な問題として、就労移行支援事業所を利用しても就労に結びつかないケースが世の中にはあふれている。

そうした中、ビジネスの手法を活用することで障がい者が本当に望む「働く」を実現すること、それが同事業所の狙いだ。

 

障がい者たちの就労の足掛かりとなる「水草育成プログラム」

 

 

レンタル事業に発展できる、独自の「水草育成プログラム」

同氏は同事業所の設立理由として「障がい者と健常者が一緒に働くことが当たり前の社会をつくりたい」と話す。

そして、その経緯を次のように語る。

 

「ラブキャリアを起業したのは2012年です。事業が順調にまわり始めたころ、

『障害者雇用促進法』が改正され、従業員50人以上の企業の精神障がい者受け入れが義務化、

2018年に施行されることになりました。

障がい者の自立の道を手助けできる社会的な機運の高まりを感じ、

以前より構想を練っていた障がい者福祉サービス事業の会社を立ち上げようと決意しました」

 

同事業所では知的障がい者のほか、

これまで就労移行支援事業で注目されてこなかった発達障がいを含む精神障がい者の受け入れも積極的に行っている。

サービスの利用期間は原則2年間で、自己理解講座やパソコンを使ったプログラムなどを通じて、

就労に必要な基礎体力や集中力の向上、ビジネスマナーや仕事に関する知識の習得を目指す。

中でも一風変わっているのが水草育成プログラムだ。

 

「水草の植え付けには非常に細かな作業が要求され、健常者であっても最初は四苦八苦します。

加えて、水槽の水質管理や清掃など日々の管理も大切です。

通所者はこうした作業を通じて手先の器用さ、責任感、仕事の段取り力を養っていきます」

 

特筆すべきはこれだけではない。最大の特徴といえるのがレンタル事業に発展させられる点である。

具体的には、育成した水草を水槽にレイアウトし、グループ会社の取引先である企業や病院、

飲食店などにレンタルして収益を上げるというもの。

水槽の設置後は月に1~2回のメンテナンスを行い、利用者も課外事業の一環としてその作業に参加する。

また、発注業務や広報活動、データ管理などにも携わり、個々人の長所を伸ばすことにも寄与できるという。

 

「自分たちで育てた水草が収益を上げることで達成感や自信になり、

就労に向けたステップアップにもつながります」と同氏。

 

作業中の様子。水草の植え付けや水槽の管理といった作業を通じて、通所者はさまざまなことを身に付けていく。

 

 

障がい者雇用を取り巻く日本社会の実像

障がい者福祉サービス事業の経営はその性質上、国からの障害福祉サービス報酬に強く依存する傾向がある。

事業所による不正受給など障がい者雇用におけるさまざまな問題点はそこに起因している場合が多い。

だからこそ、自らマネタイズできる同事業所のモデルが成功することは社会的な意義も大きい。

しかし、同氏が強調するのは、同事業所が決して利益第一主義ではない点だ。

実は、同氏は障がい者雇用に関する世の中の状況に少なからず憤りを感じているという。

 

「確かに大手企業などで就労する障がい者は増えています。

ただ、それは比較的障がいが軽い方の場合が多いんです。

就労移行支援事業に関しても利益を優先している事業所は日額のサービス報酬を得るために、

週5日通所できる障がい者を優先する傾向があります。

けれども、実際には、週に1~2日しか外出できない方がたくさんいます。

そうした方たちが1日でも多く働けるように支援し、雇用を創出することが我々の使命だと思っています。

今の日本のシステムでは就労移行支援を受けられない、あるいは雇用のチャンスに恵まれない、

そうした方々の居場所・再出発の場所として弊社が機能できればと考えています」

 

 

養護学校とブラック企業。異色のキャリアが原点に

ところで、同氏はなぜ、障がい者支援にここまで情熱をそそぐのか。

その疑問は同氏の歩んできたキャリアを知ると得心がいく。

 

「大学卒業後、私は当時の養護学校、今でいう特別支援学校で講師として働いていました。

そこには重度の障がいを持った子どもたちが多く通っていて、

親御さんも生徒たちもそれぞれ複雑な思いを抱えていました。

それこそ障がい者を生んだことを後悔し、無理心中を考えたことがあると話す親御さんにもたくさんお会いしました。

生徒たちも親に申し訳ないと学校で泣き、生まれたことを呪っている、

そうした方たちと触れ合う中で、私は血の涙を流す思いに駆られました」

 

養護学校で働いていた頃の坂入氏

障がいが重い子どもたちは養護学校を卒業しても働くことができず、家に閉じこもるケースが多いという。

その現実に直面する度に同氏は「本当に悲しくて、本当に悔しかった」と振り返る。

 

「同じ人間として絶対に彼らを何とかしなくちゃいけない、そう思って頑張っていましたが、

学校という閉鎖された組織の中では思うように自分の情熱を形にすることができませんでした。

私自身の未熟さもあり、結果的には養護学校を辞めることになりましたが、

いつか再び障がい者を支援する仕事がしたい、そんな思いをずっと抱き続けてきました」

 

養護学校を退職したのち、同氏は大手人材派遣会社に就職することとなる。

実は、その企業は世間的にブラック企業として知られる会社であった。

同氏はあえてブラック企業に就職したのである。

 

「学校をリタイアしたことへの負い目もあり、競争が激しい能力主義の環境に身を置いて、

自分がどこまでやれるのかを試してみたかったんです。

朝6時から夜中まで働き詰めの毎日でしたが、誰よりも努力しました。

その結果、1年後には部長に昇進していました」

 

最終的にその企業自体が廃業へと追い込まれたため、

同氏はまた別のブラック企業として知られる同業他社に、今度は役員として入社する。

 

「2つのブラック企業を経験し、ブラック企業のどこに問題があるのかを実際に知ることができました。

また、学校であってもブラック企業であっても、怠ける人は怠けるということもわかりました。

だからこそ、本当に働きたいと思っている障がい者のために、その機会を創出したい、

そういう思いが一層強くなりました」

 

 

障がい者と健常者がともに働く、そんな社会を実現するために

障がい者と健常者が同じプログラムの工程を学ぶ実習の様子

同事業所では現在、水草をネットショップで販売する準備も進めている。

商品の撮影から出荷まで利用者がすべての工程に携わり、利用者自身が対価を得るという試みだ。

 

「会社に出社できないからといって社会不適合者のレッテルを貼るのではなく、

そういう方たちが出社しなくても働ける、あるいは個人事業主として対価を得られる、

そういう仕組みを作りたいと思っています。

雇用を創出し、収益を出せる仕組みをつくる。

そうした輪が広がれば、いずれは障がい者が日本経済の一翼を担う存在になり得ると私は考えています。

正直なところ、昨年の設立以来、まだ赤字経営は続いていますが、

これは誰かがやらなくちゃいけないことだと思っています。

障がい者と健常者がともに働く社会を実現するために、

なるべく早く継続性のある事業として自立できるように現在、奮闘しています。

誰かが未来を切り拓かなければ、日本は何も変わりません。

だから、私は障がい者雇用の根本的な問題に目を伏せたり、その場しのぎで取り繕ったりせず、

真っ正面から取り組みたいと思っています」

 

折しも、3年後には東京パラリンピックが開催される。

同大会は日本で障がい者と健常者がどのように共生しているのかが世界に知れる舞台でもある。

そのとき、日本がどんな社会であるべきか。

障がい者の社会進出が拡大する昨今、同氏の志はより一層その意義を増していくだろう。

同事業所の今はまだ小さな芽が、やがて障がい者雇用の世界に新たな風を巻き起こす、

そんな未来を、期待を込めて想像するのである。

 

育成した水草を水槽にレイアウトし、レンタルを行うことでビジネスへと発展させていく

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

坂入孝治(さかいり・たかはる)氏…1974年、栃木県宇都宮市生まれ。白鴎大学を卒業後、養護学校(現・特別支援学校)での勤務を経て、大手人材派遣会社に就職、同社における最速で取締役に昇格する。その後、別の大手人材派遣会社にて役員として入社、2012年に株式会社ラブキャリアを起業。2016年7月、障がい者福祉サービス事業を行う株式会社LPHを設立、現在に至る。

 

●株式会社ラブキャリア

〒160-0022 東京都新宿区新宿5-18-12 SHINJUKU5-Ⅱビル2F

TEL 03-6205-6556

http://lovecareer.co.jp

 

【グループ企業】

株式会社LPH 〈発達障がい者の就労移行支援事業所「カレント」の運営〉

〒160-0022 東京都新宿区新宿1-18-10 カテリーナ柳通りビル6階

TEL 03-6273-0920

http://lph.co.jp

 

株式会社ラブクリエイティブメディア 〈求人広告代理店・HP作成・WEBプロモーション〉

〒160-0022 東京都新宿区新宿5-18-12 SHINJUKU5-Ⅱビル2F

TEL 03-6205-6780

http://lovecreativemedia.co.jp

 

●株式会社ラブフェア

〈障がい者のための求人マッチングサイト「POGY」の運営〉〈障がい者専門の有料職業紹介サービス〉

〒160-0022 東京都新宿区新宿1-18-10 カテリーナ柳通りビル6階

TEL 03-6380-4377

http://lovefair.co.jp/

 

株式会社カレア 〈コールセンター専門のポータルサイト運営〉

〒160-0022 東京都新宿区新宿6-27-29 コンフォリア新宿イーストサイドタワー2202

http://caleer.jp

 

●株式会社rapport

〈フリーマガジン沖縄県 医療・介護情報『メディサポ』の発刊〉〈医療機関・介護施設のコンサルティング〉

〒900-0006 沖縄県那覇市おもろまち4-16-18 ステーションサイド21 901号室

http://rapport-medisapo.com/

 

 

◆2017年5月号の記事より◆

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