オビ 企業物語1 (2)

成果を上げる組織を作る行動型社員研修プログラム。「競争」から得られる「体感」がゆとり世代の本気を引き出す

株式会社ディプレ/代表取締役 中西 誠氏

オビ ヒューマンドキュメント

 

大企業のようなマンパワーを持たない中小企業にとって、社員教育は頭の痛い問題の一つだ。

社内勉強会や研修、外部研修を導入する会社は多いが、

それらの成果が実際の仕事に見えてこないと感じている社長も決して少なくない。

 

なぜ研修の成果があがらないのか?

どうすれば社員の能力を引き出し、強い組織が作れるのか?

 

その問いに「競争」を取り入れた独自の行動型研修プログラムで応える社員教育のプロ、

株式会社ディプレ中西誠社長に話を伺った。

 

 

「競争」を軸にした独自の研修プログラム

株式会社ディプレは、社員研修を中心に採用・人事コンサルティングまで企業の社員教育サービスに特化した会社だ。

2006年の創業時から「働く」と「〝傍(はた)〟にいる人を〝楽(らく)〟にする、楽しませる」の2つを掛けた

「ハタラクを楽しむ!」をミッションとし、「人と組織の可能性をポジティブに変える」をテーマに、

組織力強化のための「チームビルディングトレーニング」に特化したサービスを提供。

「合宿型」にこだわった独自の研修プログラムは、

新入社員向け・中堅社員向けの2種類があり、延べ7000人以上が受講している。

 

同社の研修プログラムに共通するのは、まず競争すること、それから体を動かすことだ。

研修は実際の仕事で成果を出すために行うもの。

そのためには、実社会と同じ競争の中で「仕事と同じ」と感じられる模擬体験を積むことが重要になる。

「競争」といっても負ける人を造りだすためのものではない。

相手がいるから自分にチャンスがあることやライバルがいるから自分が成長できることを体感してもらうのが狙いだ。

研修プログラムの内容は、発声練習とかチームを組んでフルマラソン以上の距離を歩くウォークラリーなど、

それ自体目新しいものではないが、そこで得た体感をビジネスと重ね合わせることができるよう工夫されている。

 

研修の目標である「一番で勝つ」に向かって努力することで、参加者が得られるのは、

(1)人の期待に応え続ける、

(2)周囲と関わり合い互いを高め合う、

(3)何事にも本気で一生懸命取り組む、の3つの体感。

上からの命令に従う義務感や使命感の育成ではなく、

参加者の主体性や自立心を養うことに主眼が置かれているのも特徴で、自分で考え、自分で行動し、

自分で失敗したら自分で反省すること、自分の成長は自己責任であることを実感できる内容となっている。

 

 

アルバイトで磨いた人間力を武器に

この研修プログラムの作成者でありメイントレーナーでもある中西氏だが、

最初から教育に関心があったわけではない。

すべてのもとになっているのは、子どもの頃にはじまり今に続く自身の体験や経験だ。

 

「そもそも働くことが好き」だという中西氏が、最初にアルバイトをしたのは小学6年から中学1年の頃。

幼い頃から小児腎炎に悩まされ小学5年まで入退院を繰り返す生活だったが、体が回復してきたのをきっかけとして、

焼肉屋をはじめ新聞配達、マクドナルドの店員、駅の販売員、甲子園の売り子と数々のアルバイトに挑戦。

早くから年上の人たちに混じって同じように働いてきたおかげで、

高校卒業の頃には既にある程度の職業能力を身につけて、社会人としてのスタートを切った。

 

最初の仕事は、縁あって約100坪の場所を借りて始めたクラブ・ディスコの経営。

しかし経営は上手くいかず、1年間で大きな赤字を抱え多額の借金ができてしまう。

その返済のために中西氏が選んだ道は、とにかく不眠不休で働くことだ。

 

「息をしているだけでもお金がかかる。働かないとお金は返せないと思ってとにかく働きました。

漁船に工場、清掃、ボーリング調査といろんなアルバイトをして、

借金は2年弱で返済できましたが精も根も尽き果ててもうくたくた。

そんな時に、当時登録していた派遣会社から声がかかり、そこに就職することになったんです」

 

そうして入った会社は、当時創業間もなかった株式会社セントメディア(現株式会社ウィルグループ)。

それが「人を育てる仕事」との出会いとなった。

 

 

「立てられた」経験から独立を決意

株式会社セントメディア(現株式会社ウィルグループ)時代の中西社長

入社後、派遣スタッフの指導や指導者の育成を任されることになった中西氏。

20代前半でずっと年上の登録スタッフを相手にすることに、困難はなかったのだろうか?

 

「もちろん、私よりずっと年上のスタッフもいて〝年下には言われたくない〟という方もいましたが、

昔から人とのコミュニケーションが得意だったことと、

アルバイトで年上の人たちと同列で働いていた経験があったので難しさはなかったです。

また未熟な部分を怒ってくれる人がいて、

20代中盤頃には自分でももっと人間力をつけなくてはいけない、と感じたこともあって、

上手くやっていけたんですよ」

 

そうして現場の第一線で8年間指導や育成を実践し、一通りの仕事はやりつくした頃、小さな変化が起こり始める。

 

「周りから立てられるようになってしまったんです。

いまだに覚えているんですが、出張で訪れた茨城県土浦の駅で、

車のドアを開けてくれた後輩に〝お疲れ様です!〟と出迎えられた時、

〝こんな風にされる自分は何様だ。これに慣れたらダメになってしまう〟と思いました」

 

この出来事を通じて、現場こそ自分が最も力が発揮できる場所であり、

常にそこにあるべきことを確認した中西氏は退職を決意。

これまでに培ってきた経験を独自の研修プログラムに結集し、2006年に株式会社ディプレを立ち上げた。

 

 

「腹に落とし込む」体感が行動の変化につながる

研修中の様子

中西氏が研修において「競争」と「実際に体を動かすこと」を重視するのは、

このような自身の経験からも、一過性のものではない本当の変化を起こすには、

体験や経験を通じて感じることが大切だと考えているからだ。

 

「知識や技術を教える研修をする会社はたくさんありますが、

我々が行っているのは体験を通じて価値観や人間力を向上させるための教育です。

知識・技術に関してはタブレットやパソコンからでも学べます。

けれども、体験や経験は時間と場所を共有して、一緒になってトレーニングしないと得られない。

それが私の哲学ですし、研修においても他社との大きな違いになっていると思います」と中西氏。

 

頭で理解するのではなく、体感として腹に落とし込むことで行動の変化につなげるのが、

一般的な研修との大きな違いだという。

 

事実、新入社員研修の受講者からは「こんなに何かを一生懸命やったことは生まれて初めて」との感想が多い。

それも研修中に感じたその温度や熱量をうまく仕事とリンクして捉え、ただ「ためになった」、

「これから頑張ろうと思う」だけに止まらず、仕事に向かう姿勢を見直しているものが目立つ。

 

「研修の目的は、先生の言う通りにする優等生を育てることではありません。

良いところは認めるし、悪いところはそれを自分で認めた上で受け入れて改善できる、

自分で考えて反省し成長できる人材を育てることです。

クライアントは、そこにお金と時間をかけているので、短期間で仕上げてお返ししないといけない。

そんな思いで時には厳しいことも言いますが、

生の体験と私自身をそのままぶつけて、こちらも本気で毎回の研修を行っています」との言葉の通り、

研修プログラムは毎年ブラッシュアップ。

全体的にやる気がない、指示待ち姿勢で積極性がない、

うたれ弱いなどといわれる「ゆとり世代」の新入社員たちにもしっかり響くもの、

より心が揺さぶられ行動の変化につながるものを目指して日々改良を重ねている。

 

 

良質な研修は中小企業にこそ必要なもの

同社の研修を導入しているのは、ほとんどが社員数十数人~数百人の中小企業。

中でも社長自身が社員教育に高い関心を持ち、自らその指揮を取っている企業が大部分を占める。

それは本当に意味のある研修を行うためには、企業の人事担当者との間の信頼関係が不可欠だからだと中西氏は言う。

 

「研修では、参加者に精神的な負荷を与えたり、厳しくプレッシャーを掛けたりもしますから、

そこに愛がなければパワハラにも成り得ます。

でも愛を持って厳しく接することはパワハラにはならないと思いますし、

企業内では難しい研修を、お金を預かってやらせていただくのが我々の役割。

サービス業ではなく教育業を行っている自負がありますので、顔を突き合わせて話をして、

信頼して任せていただけることが非常に重要なんです」

 

同社と中西氏の目標は、社員教育とサービスマネジメントで日本一になること。

そして日本の屋台骨を支える中小企業の社員教育を通して企業業績の平均値を押し上げ、

そこで働く1人ひとりにも良い変化をもたらすことだ。

 

「働き方は生き方であり、いい働き方をすると生き方が良かったことになる。

これから自分の生き様で証明しないといけませんが、僕はそう思っているんですよ」

 

「企業は人なり」。組織全体・経済全体の未来を決めるのは、働く1人ひとりのあり方なのだ。

 

ウォークラリーでは43km前後の過酷な道のりを進む

 

合宿最終日に行われた発声訓練の様子

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

中西誠(なかにし・まこと)氏…1976年3月生まれ。大阪府出身。高等学校卒業後、19歳でクラブ・ディスコを起業。廃業後、20歳の時に創業期の株式会社セントメディア(現株式会社ウィルグループ)に入社し、社内の採用・教育担当として年間500名以上の研修に携わる。2006年に退社後、同年株式会社ディプレを設立し、代表取締役に就任。現職。

 

●株式会社ディプレ

〒160-0022 東京都新宿区新宿1-9-4 中公ビル3階

TEL 03-5366-9556

http://www.deple.jp/

http://team-building-academy.co.jp/

 

 

 

◆2017年5月号の記事より◆

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