オビ インタビュー

保険外リハビリで潜在需要を掘り起こす。注目ベンチャー企業の新たな一手「オンラインで在宅リハビリを」

 

「脳梗塞リハビリセンター」を展開する話題の企業

株式会社ワイズ/代表取締役会長兼CEO 早見泰弘氏

 
携帯情報端末を利用し、自宅にいながらリハビリ専門家によるトレーニング指導が受けられる、

そんなサービスが年内を目処にスタートする。

運営するのは脳梗塞に特化した保険外リハビリサービス事業で業界内外から強い関心を集める株式会社ワイズ(東京都中央区)。

常に斬新なアイデアで医療・介護関連業界に新たなビジネスモデルを提示し続ける、

同社の代表取締役会長兼CEO・早見泰弘氏(=写真)に新ビジネスの概要と展望をうかがった。

 

 

注目されるオンライン・サービス

日本初の「脳梗塞に特化した保険外リハビリサービス」という新たなビジネスモデルを確立し、

急成長を続ける株式会社ワイズ(東京都中央区)。

2014年の設立以来、医療・介護関連業界に新風を吹き込む同社の取り組みは、

本誌210号(2016年6月)でも取り上げたが、今年に入り同社が発表した次なる一手が話題を呼んでいる。

それは携帯情報端末を利用した脳梗塞患者向けのオンライン・サービスだ。

理学療法士などのセラピストがビデオ通話を通じて在宅リハビリ指導を行うというもので、業界初の試みとなる。

同社の代表取締役会長兼CEOの早見泰弘氏は次のように手応えを語った。

 

「年内中のサービスインを目指し、モニターを募ったところ、募集枠20名に対し100名以上の応募がありました。

タブレットやスマートフォンを利用するため、若い世代からの応募が多いのではないかと予測していたのですが、

実際には40〜70代まで幅広い年齢の方々が応募してくださいました。

このサービスに対する世間の関心の高さを感じています」

 

モニター試験は4月から始まっていて、現在、実地に沿ったさまざまな検証が行われている。

 

 

潜在需要を掘り起こした、脳梗塞に特化した保険外サービス

同サービスは同社の主力事業であるリハビリ施設「脳梗塞リハビリセンター」のサービスが在宅で受けられるというもの。

同センターは脳梗塞などの脳血管疾患により後遺症を患った患者のための通所型リハビリ施設で、

主な利用者層は60代以下、つまり現役で働く世代である。

最大の特徴は社会復帰・職場復帰を目指すためのリハビリを保険外サービスによって提供している点だ。

保険制度の枠にとらわれないため、従来の類似施設にはなかったサービスを受けられるとして人気を集めている。

 

厚生労働省の「平成26年 患者調査の概況」によると、現在、脳血管疾患の総患者数は117万人を超える。

そのうち、脳出血を含めた脳卒中患者で後遺症を持つ発症者は約6割とされる。

通常、こうした患者は医療保険や介護保険を利用し、病院やデイサービスなどでリハビリを受けるのだが、

これらの仕組みはもともと現役を引退した高齢者を想定したものだ。

そのため、現役世代が社会復帰を目指すのは難しい場合が多い。

 

「国民皆保険制度は万人を保障する素晴らしい制度です。

しかし、『もっとリハビリをしたい』『もっと改善したい』、

そして『社会復帰、職場復帰を目指したい』という方々のニーズに十分応えられるものではなく、

そこに不満を抱いている方が全国にはたくさんいらっしゃいます」

 

事実、同センターには県外から訪れる利用者も多く、利用者を年代別に見ると40~60歳代が75%を占めている。

とかく、「リハビリ=高齢者が行うもの」と考えがちだが、実際には若くして脳血管疾患を患うこともあり、

そうした人々の潜在需要に光を当てたのが同社のサービスだ。

 

同センターではリハビリ専門職である理学療法士、作業療法士、

言語聴覚士らが利用者の症状に合わせたリハビリを、マンツーマンで2時間、徹底して行う。

 

「漫然と行うのではなく、どのくらいの期間でどこまで回復・改善を目指すのか、

具体的な目標設定と目標期間を定め、最終的には施設からの〝卒業〟を目指します。

保険外サービスのため、利用者様は100%自己負担となりますが、

その代わり、保険制度に縛られることなく、一人ひとりに応じた質の高いリハビリを受けることが可能となります」

 

同センターは2014年9月、東京都文京区に1号店が開設されると反響の大きさに比例するように、

わずか2年の間に一都三県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)で7店舗を展開するまでに至った。

全店舗を合わせると、これまで1500名以上が同センターを利用し、多くの〝卒業生〟が誕生している。

店舗数は今後も各地に増やしていく予定だ。

 

 

「距離的な問題で通いたくても通えない方がたくさんいらっしゃいます。

後遺症が残る方にとって長距離を移動することは大きな負担であり、

そうした方たちのためにも、エリア拡大は早急な課題となっています」

 

 

予定価格は通常の10分の1に。オンライン・サービスの可能性

同氏いわく、「2025年には脳血管疾患の患者は300万人に達し、

退院後もリハビリが必要となる患者は150万人におよぶ」そんな予測があるという。

その中には前述した距離の問題、あるいは経済的な理由から社会復帰を目指したくとも、

それ相応のリハビリが受けられない患者が相当数になることが予想される。

そうしたニーズに応えるべく準備を進めているのが、冒頭で述べたオンライン・サービス事業だ。

 

具体的には、同センターで行われている「60日間改善リハビリ」と呼ばれるプログラムを、

携帯情報端末を利用した在宅での自主リハビリに移植するというもので、実際の流れは次のようになる。

 

「まずはビデオ通話を通じてセラピストが利用者様の健康状態や後遺症の状態などを評価します。

そして、60日後の改善目標を設定し、それに基づいた自主リハビリ・トレーニングの動画を配信、

利用者様はそれを参照しながら在宅でリハビリを行います。

その後は頻度はプランに応じるが1週間に1回程度のペースでビデオ通話による再評価とカウンセリングを実施し、

随時、適切な自主リハビリ・トレーニングを再設定していきます。

そのほか、より的確に身体の状態を把握できるようにアセスメントを行う携帯情報端末用アプリも開発中です」

 

ところで、なぜ60日間なのか。

同氏はその意図を次のように語る。

 

「『60日間改善リハビリ』は脳梗塞リハビリセンターで昨年9月よりリリースしているプランです。

週2回以上、通所によるリハビリとカウンセリングを行い、

並行してリハビリ計画に沿った自宅課題を60日間かけて実施します。

これまで積み重ねてきた施術実績から、最短で最大の効果を実感していただく最低限の頻度と期間を導き出しました。

価格は税別27万5000円ですが、保険制度内では行えない最適なメニューを実施するため、

利用者様からはとても高い評価をいただいています。

今年から始まるオンライン事業でも、このサービスのクオリティに近づけられるよう、

現在、検証・検討を重ねています」

 

同氏は価格設定にも自信のほどをのぞかせる。

具体的には未定ではあるものの、

先の「60日間改善リハビリ」に比べて10分の1ほどの価格を検討しているそうだ。

 

「通常よりも人手をかけない分、コストを最大限に抑えて、

より多くの方々に弊社のサービスをご利用いただきたいと考えております」

 

遠隔地へのサービス提供が可能となるオンライン・サービス。

ゆくゆくは海外へ向けた展開も検討している。

 

「これまでリハビリサービスは通所で行うものという固定観念がありましたが、オンラインを活用することで、

山間部や離島、あるいは海外であってもサービスが提供できる可能性があると思っています」と同氏。

 

オンライン・サービスの様子

 

 

脳梗塞患者の新たな選択肢として

同社では現在、各地方の病院と提携し、

脳梗塞リハビリセンターのノウハウをライセンス供給する準備も進めている。

病院でのリハビリ日数は保険制度の関係から、例えば、脳血管障害では150日、

高次脳機能障害をともなった重篤な脳血管障害では180日までと制限されている。

それにも関わらず、退院後の後遺症に対する本格的なリハビリサービスはこれまでほとんど皆無であった。

 

「当センターを設立した当初は保険外ということで、

医療や介護業界の方々から理解を得るのに時間がかかりましたが、

実績を積む中で徐々に認知していただけるようになりました。

現在では退院後のリハビリ施設として、

当センターに期待してくださる医療従事者の方も増えています」と同氏。

 

そうした期待の声は脳梗塞患者からも多く寄せられている。

 

「『もっと早くここを知っていればよかった』という声を頂戴することが多くあります。

そういう意味では、弊社はまだまだ認知度が低いと思っています。

もっと広く、もっと多くの方に弊社を知っていただけるような努力を、

今まで以上にしなくてはならないと感じています。

現在、脳梗塞などで手術後に後遺症が残った場合、病院の外来に通うか、

デイサービスなどの介護施設に通うか、訪問リハビリを受けるか、

いずれにしても保険制度を利用した環境でリハビリを行うしかありません。

弊社のサービスは万人受けするものではないと思っています。

けれども、より充実したリハビリを望む方たちの新たな選択肢になれればと考えています」

 

保険外サービスによる新ビジネスのモデルを提示し続ける株式会社ワイズ。

高齢化や財政難などにより医療・介護分野においてさまざまな課題を抱える日本にとって、

同社の取り組みは多くの示唆に富むものだろう。

 

今年始まるオンライン・サービス事業はどこまで潜在需要を掘り起こし、

その期待に応えることができるのか。今後の展開を見守っていきたい。

 

オビ インタビュー

●プロフィール

早見泰弘(はやみ・やすひろ)氏…1972年、千代田区神田生まれ。1996年、法政大学経済学部卒業後にWebマーケティング会社を設立、代表取締役社長に就任する。大手企業との取引を中心に業界有数の会社へと成長させ、2004年には東証一部上場企業と統合、インターネット部門等の責任者として従事。2014年2月、株式会社ワイズを設立、リハビリ・介護を中心とした事業を展開し、現在に至る。

 

●株式会社ワイズ

〒104-0041 東京都中央区新富2-7-4 吉本ビル5階

TEL 03-5542-0785

http://ys-j.co.jp

 

 

 

◆2017年5月号の記事より◆

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