オビ 企業物語1 (2)

人間力が掴むビジネスチャンスと共栄共存

自動ドア製造企業が起こす現在の産業革命

 

純国産の木製自動ドアで林業再生・地域創生に取り組む

日本自動ドア株式会社 代表取締役社長 吉原二郎氏

 

オビ ヒューマンドキュメント

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自動ドアができる社会貢献とは何か。

創立から50年。半世紀に渡り建物開口部の自動ドアを造り続けてきた日本自動ドア株式会社代表取締役社長・吉原二郎氏が抱く信念は「仕事と人生を通じて社会課題を解決する」ことだ。

その信念を全うするため、吉原氏は自動ドアを通じた社会的価値を探求する。

コアバリュー経営、社会貢献、地域創生。

モノづくりだけではなく、日本産業の復興、文化の継承へと波及する事業展開を行う吉原氏に、日本産業を継続させるために持つべき視点について伺った。

 

 

人間力によるサービスが 差別化へ

日本自動ドア株式会社は、自動ドアの製造、販売、施工、保守メンテナンス業務を行っている。

北海道から沖縄まで全国25拠点に社員を配置、本社直結で緊急時にも迅速なサービスとメンテナンスを行う、ワンストップシステムが強みだ。

 

「大量にモノを造り売る時代は終わりました。今は、自社が提供したものを、安全に長く使っていただくためのサービスを売る時代です」

 

こう語るのは、同社代表取締役社長・吉原二郎氏。5年前に前社長から経営を引き継ぎ社長に就任した。

 

「弊社が大切にしているのは、サービスの質です。モノの消費が減っても、サービスが充実していれば企業は成長していけます。

このサービス・メンテナンス部門を自社で持たなかったことで、撤退した大手メーカーもあります」

 

自動ドアは、ドアの開閉に使われる駆動装置がメインである、いわばロボットだ。

コンピュータ制御のモーターということもあり、大手自動車メーカーからの参入があったという。

大手企業にありがちな、いくつもの代理店や中間業者に委託する運営方法では、コスト面はもちろん、時間、教育、情報伝達の面で弊害が大きすぎた。

 

同社ではいち早く、製造からサービス、メンテナンスまでをワンストップで行ってきた。

さらに「風船も割れないくらい安全な自動ドア」を開発。店舗や病院を中心に、現在残っている自動ドアメーカー約10社ほどの中でも独自のシェアを拡大している。

 

「ワンストップなので、緊急時には全国の拠点から当日、遅くても翌日に駆けつけることができます。教育も自社で行いますし、サービスから開発への改善フィードバックもできます」

 

この迅速で確実なサービスとフィードバックが、新たな顧客開拓とニーズに沿った商品の開発へ繋がっていくのだ。

 

「寒い地域では自動ドアが凍って動かなくなったら、自動ドア自体が壊れていないとわかっていても、

お客様の元に駆けつけてお湯をかけたり、不凍液をかけたりして解凍し、なんとかして動くようにします。きめ細かなサービスがお客様に喜ばれますよね」。

 

このように、社員一人ひとりの顧客目線を持った行動は、やがて企業の成長へと繋がっていく。

想像、共感を育てるための人材育成を始めたのは今から5年前。社長に就任した同氏が、それまで見えていなかった危機を目の当たりにしたからであった。

 

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両引き自動ドア(左)と円形両引き自動ドア(右)

 

 

 

人材重視のコアバリュー経営。社会的価値の理解と共有

同氏が社長に就任したのは5年前の2012年。

同社社員として勤務していた矢先、父である前社長が倒れた。急遽会社の実印を渡され、経営を引き継ぐことになってしまった。

そして、いざ経営者の立場となって社内を見渡すと、資金繰りは自転車操業、しかも社内のコミュニケーションが全く取れていないことが判明した。

 

「責任の重い仕事は前社長が一人で決断を下して行っていたので、社内の判断基準やルールがない状態でした。

当然、朝礼もやっておらず、情報も伝わらない、指揮命令も上手くいかない。そんな状態が続いていたんです」

 

拠点も社員も増え、会社規模は大きくなった。しかし創業オーナーが一人で走っているばかりで、社員の統制は全くとれていない。

このままでは会社は大きくなることはできないのではないか。

そこで同氏が着目したのが「コアバリュー経営」だ。

共通の価値観と自立した人材の育成により、活気ある職場と顧客からの価値への共感により、企業が成長し続けるという経営方法だという。

 

「まず、自分たちの価値感を定義しました。自分たちの社会的価値はどこにあるのかを理解することから始めたのです」

 

今までの経営は、高度経済成長から「自動ドアは売れる」という根拠のない自信を持ったまま、ただひたすら売るだけであった。

しかし、モノが売れない現在、このままではいずれ行き詰まってしまうという危機感が同氏にはあった。

 

「今までは、なぜ自動ドアが売れるのか、なぜ自動ドアが必要なのかということの根拠をあまり深くは考えていませんでした。

自社商品の本質的な役割、社会的価値を定義すると、自ずと営業しやすくなり、良いものを開発しようとします。

グローバルな展開が可能となり、時代に関わらずに売れるものを提供し、企業は成長していけるのです」

 

そしてこの自動ドアが持つ価値の探求は、さらなる事業拡大へと繋がる。

 

 

自動ドアが院内感染を防ぐ!?

「我々の最大の競合は、ドアノブです」と同氏は言い切る。手動のドアを自動のドアに変換させるためには、顧客を納得させられる根拠が必要だ。

自動ドアが提供できる社会貢献とは何か。手動が困難な人へのバリアフリーだけではない。

手が触れないことで発生する、利便性以外のメリットは何か。手動であるデメリットは何か。

そうして掘り下げていって見つけた課題は、病院や介護施設で社会問題となっている「院内感染」であった。

 

「例えば肝臓の病気で入院しても、感染症で亡くなってしまう。訴訟問題にもなる事例が多発しているのです。

どこから感染したのか、国の専門機関は時間が経ってから調査するので菌が死滅してしまい、原因究明できていません。

それを聞いて、感染経路はドアノブではないかと仮説を立て、調査を始めました」

 

某大学や研究機関との共同研究で、ドアノブに存在する菌の種類と、ドアノブを通してウイルスが感染するという仮説の化学的裏付け調査を始めた。

その結果、ドアノブには多くの菌が存在し、66.6%の割合で感染するという調査結果が出た。

これは、ドアノブから自動ドアに変えることで、院内感染を防止することができるという根拠となる。

自動ドアの存在は「感染症予防」の価値を以って、社会貢献となっているのだ。

 

このドアノブが持つ問題解決のため同社では、ドアノブの衛生管理や検査サービスを行い、近い日に消毒用商品の開発販売も行う予定だ。

自社開発の除菌スプレーは、ダチョウの卵の殻から作られており、100%天然由来だ。

手が荒れずに安心、効果も高いということで、医療従事者や介護現場での需要が見込めるという。

 

「本質的な自動ドアの役割を知ろうとしなければ、できなかったと思います」

 

自動ドアが存在する意味を深く掘り下げ、見出した3つの価値「感染症予防」「バリアフリー」「エコ」。

そして更に、同社の自動ドアは地域創生と新たなビジネスチャンスへの扉となった。

 

 

引き寄せたビジネスチャンス。林業再生と地域創生

「弊社は飯能工場(埼玉県飯能市)がある敷地内に山を持っていました。

長い間放置していたのですが、農業家や林業家を育成する事業に取り組んでいる知人の経営者から林業家養成の研修に使わせて欲しいと提案があったのです」

 

聞くと、飯能は江戸の頃より「西川材」と呼ばれる銘木の産地として林業が盛んであったという。

ヒノキやスギは硬度が90%と高く、住宅・建具に使えるほどの強度であることがわかった。

 

「自動ドアは、建具です」と同氏は言う。

もともと木製の自動ドアは人気があり、料亭や神社仏閣でのニーズが高い。しかし、日本の林業は衰退し、使用する木材は、輸入材や合板となっている。

同時に建具職人の継承者がいないため、木製の自動ドアはニーズがあっても製造が難しくなっていた。

 

nihon_jidou_door_wood木製の自動ドア

「地産地消で木製の自動ドアを復活できる」と考えた同氏は、研修施設として森林を提供。

同時に、伐採した木は同社の商品の材料として使用することとなった。

自動ドアの材木用途の他に、ランクの低い木材は自社でエネルギーとして利用する。

同氏の視点は、新商品の発案と、産業の再生を生み出したのだ。

 

「日本の国土の70%は森林です。林業が衰退した今、森林は放置されたまま海外から木材を輸入しています。

林業が復活すれば、地産地消が可能です。雇用が生まれ地域創生にも繋がります」

 

開発中の木製の自動ドアは、駆動装置部分以外は木材を使用する考えだ。見た目は全て木でできた、純国産の和風自動ドアとなる。

 

「2020年の東京オリンピックまでには、9階建ての木造建築が許可されるそうです。そうなると街の景観は様変わりするでしょう」

 

その時には、日本自動ドアの木製自動ドアがさきがけとなるだろう。

価値を掘り下げる視点は、大きなビジネスチャンスを手中に収めたのだ。

 

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自伐型林業家養成学部第3期生のみなさん

 

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チェーンソー実習(左)と、研修場全景(右)

 

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搬出作業実習の様子

 

 

 

大事なことは全て人の頭の中にある

感染症予防、地域創生、産業復活。同氏と同社の元にビジネスチャンスがやってきたことは、偶然の出来事ではない。

それは、信念に基づいて行動した結果なのだ。

 

「私が社員に常々伝えていることは、〝本当に大切なことはインターネットではなく人の頭の中にある〟ということです。

ビジネスのアイディアは、今一番困っている人の頭の中にあります。その人を見つけて、その人に直接話を聞くのが一番早いのです」

 

インターネットの情報は、困ったことを解決した結果であり、発信されている情報は既に古いと同氏は言う。

 

「病院内の自動ドアについているセンサーの改善や開発も、自分たちの想像ではなく、執刀医の先生からの不満を聞くことで初めて有効な改善ができます。

林業の衰退も雇用の問題も、わが国における地方創生の課題や放置された山林の現状といった話に真摯に耳を傾けなければ、

何もせずに、山はほったらかしにしたままだったはずです。

課題を抱えている人の話や、困っている人の体験が、何よりも大切だと感じています」

 

どんなにITが進み人工知能が発達しても、ビジネスに最終的に残るのは人間の優位性だと同氏は言う。

体験を聞き出し親身になることで生まれる共感、駆けつけたときにいただく感謝、同じ理念を持つ同志との共存共栄。

人間くさい感情や感動が、産業の軸となっていくのだ。

 

「もし、世の中に自動ドアがなくなっても、我々は事業を継続していけます。今はたまたま自動ドアをやっているだけです。

汗臭さがある、人間らしさがあるビジネスを行っていくと決めていれば、ニーズを見つけ、社会に貢献できるモノづくりを行っていくことができるのです」と、同志は力強く語った。

 

日本自動ドアが最も大切にしている「共感共有」は、迅速安心のサービス、潜在的に潜む問題を解決する商品の開発へと繋がり、大手メーカーとの大きな差別化となっている。

そして始まる林業再生と純国産木製自動ドアの開発は、山を育て、商品を産み、植林で再び山を育てるという循環型のビジネスとして、

日本の産業と文化のあり方に一石を投じるものとなるだろう。

 

日本自動ドアと吉原氏が作り上げるドラマは、これからがクライマックスだ。

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

吉原二郎(よしはら・じろう)氏…昭和46年12月生まれ。46歳。日本自動ドア株式会社代表取締役社長。明治学院大学法学部卒業。在学中から同社の工場でアルバイトとして勤務していた。2012年同社代表取締役社長に就任。

 

●日本自動ドア株式会社

〒165-0031 東京都中野区上鷺宮3-16-5

TEL 03-3970-2511

http://www.jad.co.jp/

 

 

 

◆2017年4月号の記事より◆

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