オビ 企業物語1 (2)

うつ病に特化した社会復帰支援。自分らしい働き方と生き方の実現を

株式会社リヴァ/代表取締役 伊藤 崇氏

 

OLYMPUS DIGITAL CAMERAうつ病による自殺者が社会問題となっている昨今、メンタルヘルス不調による休職者数は増えているという。

厚生労働省による施策が企業へ浸透しない背景には、行き過ぎた資本主義から脱却できない日本企業の姿が見える。

そんな中、うつ病による休職者に特化した支援事業を行っている施設が「omsorg(オムソーリ)」だ。

「ひとりでも多くの人が自分らしい生き方に気づき、ともに実現を目指す」を理念として掲げるリヴァ代表取締役伊藤崇氏に、人間らしさを失い疲弊していく日本社会への挑戦を伺った。

 

 

うつ病に特化した支援体制

厚生労働省の調査によると、平成27年度の精神障害による過労死労災請求は1515件であり前年より59件増加しているという。

うつ病による自殺者が増えているにもかかわらず、メンタルヘルス対策を行っている企業は60%、その9割が大企業であり中小企業ではほとんど対策がされていない。

伊藤崇氏が立ち上げた支援施設「オムソーリ」は、独自のカリキュラムで社会復帰へ導く、うつ病で休職中の人に特化した施設だ。

 

同氏の前職は障害者の就業支援で、障害者と企業をマッチングする業務。

取引先企業の人事課から「休職中の社員は、障害者手帳を取得して支援を受けることはできないのか」と言う人事もいて、その時は、大変だなという感想しか持たなかったという。

しかし、今度は社内で休職者が相次ぎ始めた。会社がベンチャー的な急成長を目指し始め、ついていけなくなった社員が現れたためだ。

 

「自分で体験してみて初めて、その大変さがわかりました」(伊藤氏、以下同)

 

うつ病が改善して復帰しても、また休んでしまう。メンタルヘルス対策のマニュアルは役に立たない。

しかし同氏は、会社の経営が不安定になることよりも、望まないうつ病の発症により、休職していく社員の能力が発揮される機会が無くなることを憂いた。

 

「うつ病の社員は能力が低いかと言えば、全くそうではない。活躍できる場面もあるのにもったいない」

 

一度うつ病になってしまうと、復職・再就職が難しくなる社会にも疑問があった。なぜうつ病による休職者への支援がないのか考え始めたという。

 

 

誰もやっていない事業を

うつ病が原因での休職や自殺について、厚生労働省が政策を立てていないわけではない。

企業のメンタルヘルス対策の充実や、職場復帰への支援、精神保健医療改革の推進、働き方改革など行っているが、先日の広告会社過労自殺事件を見ても分かるように、浸透していないことは明らかだ。

 

「行政も、うつ病で休職中である人に、どのような支援が出来るのかわからない状態でした」

 

同氏が行政にヒアリングを行った際に、知った現実だ。

うつ病で休職中のひとが、社会復帰を目指す施設が足りていないのではないか。そう気づいた同氏は、2011年にうつ病に特化した支援施設「オムソーリ」を立ち上げた。

 

現在は4施設で日々100名近くの人が訓練していて、2016年11月末時点での復職数は420名。内復職6カ月後の定着率は84・7%だという。

うつが再発しやすいのは復帰して6カ月後、その6割がうつを再発すると言われている中で、驚異的な成果だ。

 

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疲弊する行き過ぎた資本主義社会

メンタルヘルス対策が浸透しない背景には、日本の経済状況と、労働力不足の不安があるかもしれない。

メンタルヘルス対策として社員の労働時間を減らし、個人の精神性を重んじることは、生産性を下げるリスクであると考える企業は、まだまだ多い。

このように、国や企業が避け、認知度が高いとは言えない事業を始めた理由について、同氏は次のように語る。

 

「うつ病になってしまった人は、周りに気遣いしすぎて背負いこんでしまう人が多いように感じます。優しくて純粋な人達が多いなと。

そういう人が、一度うつになると社会復帰できない。回復してもうつ病だったというレッテルを貼られてしまい、また倒れてしまう。

そういった社会ってなんなんだろうかという思いを強く持つようになりました」

 

現在の、儲け至上主義である「行き過ぎた資本主義」の歪みとしてうつの人が増えているのではないか。豊かになった日本だが、本当の笑顔が溢れる社会になっているのかと、同氏は問う。

 

「我々は、自分らしい生き方をできる人を増やしたいんです。うつになったということは、その生き方は違うかもと気づくきっかけに出来るのではないか。

うつから回復した後、より充実して活き活きと輝いている。そういう人を増やすことが出来れば、社会的にうつに対する偏見もなくなり、社会の価値観も変わるのではないかと思っています」

 

 

スタッフは人事経験者も

株式会社として運営しているうつ病に特化したトレーニング施設は、現状ほとんど存在しない。病院に併設された施設は確実に増えてきてはいるものの、社会全体で見ればその数はまだまだ少ない。

 

LIVA_04image「スタッフには、企業の人事担当者など、会社にどんなストレスが潜んでいるのかを理解できる者を起用しています。

利用者が回復してから戻る現場には、どのような問題があるのかを理解していなければ復帰への支援はむずかしい。このあたりが病院併設の施設との違いになってくるのかもしれません」

 

トレーニング施設は都内4箇所。30名弱のスタッフの中には、以前の施設利用者が6名もいる。

 

「彼らも過去に苦しんで、ここで元気になった。この素晴らしいサービスを広めたいと言ってくれています。中には施設長をしているスタッフもいます」

 

回復して元気に働くスタッフを見て、利用者が勇気や希望をもち、共に復帰を目指すことができるのではないだろうか。期待を寄せたい。

 

 

 

対処療法から根本の解決へ

利用希望者の多くは主治医からの紹介だ。同所には常勤医師が居ないため、病院と連携して支援業務を行う必要がある。

 

「1人の利用者が改善するのをみて、また別の人を紹介してもらえます。主治医の病院に通院同行するなど、地道な活動をしています」

 

登録者数は現在約150人。3カ月から半年、同所に通いながらうつ病の回復と、再就職・復職を目指す。認知行動療法や運動療法など、考えと行動への働きかけを中心にカリキュラムが組まれている。

 

うつ病を克服するためのプログラムは大きくは【生活習慣】【実践】【心理・疾病】【キャリア】に分けられる。最初に利用者へヒアリングを行い、復帰後にどうなりたいのか、一人ひとり個別の支援計画を立てていく。

例えば、【キャリア】。

 

「その人の価値感や未来イメージを明確にし、その上で自分の意思で本当に復職するのかを考えるプログラムを用意しています」

 

LIVA_03groupworkまた、座学はなく、グループワークの体験学習がカリキュラムの中心だ(写真参照)。

様々なワークで得た気づきをどのように日常や職場に連動させていくのか振返りをし、お互いにシェアをする。自分の気づきが仲間の気づきとなる、グループダイナミクスを導入している。

最後の砦として同所へ登録した人が、辛い体験を乗り越え、希望を持って変わっていく姿は感動だ。職場に復帰したOBが、同所を訪れることも多いという。

 

「復帰後に活き活きとした姿を見ることができるのは、本当に嬉しいことです。この仕事をやっていてよかったと思える瞬間でもあります」

と、同氏は誇らしげに語った。

 

 

うつ病未満者への講座を開発中

同所のシステムは、福祉制度を利用しているため、うつ病による休職者(もしくは離職者)しか利用できない。つまり、現在職場で苦しんでいる人は、サービスの利用ができないというのが現状だ。

そこで、通所者からの「できれば、うつ病で退職する前にリヴァを知りたかった」の声を受け、2017年(3月予定)から新しいサービスが始まる。

休職しなくても体調が安定しない、復帰後も体調が安定していないなど、福祉制度を利用できない人を対象にしたサービス「リライフONE」だ。

 

企業で、うつ病未満を抱えながら仕事を続けている潜在的人数は、実際に休職した人よりもずっと多い。ストレスチェックも制度化されるなか、国や企業には明確な方策がない、「うつ病予防」の部分に注目したサービスとなる。

 

「『明日つかえるヒントをみつける』という視点でプログラムを設計しています。週明けの月曜日から職場で試すことを前提とした内容となっており、

書籍や一回限りのセミナーによる『知識として知る』レベルではなく、『分かって使える』レベルを目指していきます」

 

講座は福祉制度を利用することができないため全額負担となるが、同所が持っている高い技術力を利用することが可能だ。

 

「働く人のメンタルヘルスに対する福祉事業は、これから増えていくのではないかと思います。『リライフONE』などのサービスが、企業の福利厚生の一環として導入できる社会となるよう、活動を続けていきます」

 

 

 

少子高齢化や都市への集中により、労働力が減少しているにもかかわらず、資本最上主義は変わらない。過酷な労働条件のままで疲弊していく社員が集まる企業に、日本経済を再生することが、果たして可能なのだろうか。

社会の歪みに順応できない人が、うつ病となって倒れてしまう。この歪みを正常に戻し、個人が自分らしく能力を発揮できる社会へと舵を切るときは、まさに今だ。

「自分らしい生き方・働き方の実現」を支援する、LIVAの挑戦に期待したい。

 

 

 

【施設紹介】

オムソーリならびにハビトゥスの受付時間は、 いずれも平日10〜18時(金曜は10〜13時)

 

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■オムソーリ高田馬場/〒171-0033 東京都豊島区高田3-7-9 花輪ビル1階

TEL:03-5985-4423 FAX:03-5985-4424

 

 

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■オムソーリ御茶ノ水/〒113-0033 東京都文京区本郷2-377 お茶の水元町ビル1階

TEL:03-6240-0912 FAX:03-6240-0913

 

 

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■ハビトゥス市ヶ谷/〒162-0842 東京都新宿区市谷砂土原町2-2 木原造林市谷ビル1階

TEL:03-6280-8541 FAX:03-6280-8542

 

 

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■ハビトゥス品川/〒108-0075東京都港区港南2-11-1品川シティビル2階

TEL:03-6433-3016 FAX:03-6433-3017

 

 

 

オビ ヒューマンドキュメント

●プロフィール

伊藤崇(いとう・たかし)氏…宮城県仙台市出身。東北大学大学院卒業後、入社した新日鉄関連のシステム会社でエンジニアとして勤務。大企業が体質に合わず、転職した先の障害者就労支援会社で、うつ病が発症する企業や社会への疑問と関心を高めていく。サラリーマン生活2年2カ月、福祉系ベンチャー4年半の経験後、2010年8月株式会社リヴァを設立、現在に至る。

 

●株式会社リヴァ

〒171-0033 東京都豊島区高田3-7-9 花輪ビル1F

TEL 03-5985-4423

http://liva.co.jp/

 

 

 

 

◆2017年1月号の記事より◆

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