芦葉工藝舎(株式会社芦葉建設)- 伝統工法による木造建築の魅力や価値を継承し、次代へ繋げる工務店
モノづくりの精神と職人の人間力が生み出す美しい「木の家」たち
伝統工法による木造建築の魅力や価値を継承し、次代へ繋げる工務店
芦葉工藝舎(株式会社芦葉建設)代表取締役・一級建築士 芦葉武尊氏
その昔、山に生える木を使い、土地の気候・風土に合わせた家を建てるというのは当たり前のことだった。
住宅の合理化・工業製品化が進む中、忘れられつつあったその「当たり前」が、ある工務店では脈々と受け継がれ、今再び注目を集めている。
その工務店とは、埼玉県幸手市にある芦葉工藝舎。
1971年の創立以来、伝統工法を継承し国産の天然素材を使った職人による「木の家」をつくり続けてきた同社から、
伝統建築と現代の生活を掛け合わせた、新しく美しい「新日本建築」が次々と生まれているのだ。
2013年に就任した2代目社長・芦葉武尊氏にお話を伺った。
伝統的な建築技術を守ることの価値
芦葉工藝舎は法人名を芦葉建設といい、もともと芦葉氏の父である先代社長が開いた工務店。
創業以来、古来から受け継がれてきた伝統工法を継承し国産の自然素材を使って、日本の風土に合った「木の家」をつくる仕事を続けてきた。
しかし芦葉氏は最初は先代の仕事を尊敬こそすれ、その仕事の価値まではわからなかったという。
その認識が変わったのは、建築学を学んでいた大学3年生の時。父の仕事を教授に話したのがきっかけだった。
「〝それはすばらしい。これから日本の住宅産業がどう変わるかはわからないが、守っていかなければいけないものは必ずある。お父様はたぶんそれを守られている〟と言われて。
建築は進歩するだけではなく、守っていかないといけないんだと気づきました。その時初めて、父の仕事はすごいなと実感したんです」
日本の伝統的な建築技術と現代の暮らしに調和したデザインを掛け合わせ、「工藝」と言われるのに相応しい美しい木造住宅をつくる。
そんな意味を込めて2014年に設立された「芦葉工藝舎」の歩みは、ここから始まっている。
「粋」な工務店を目指して
もともと豊かな森林資源に恵まれた日本は、古来より木造建築の技術・文化が発展してきた土地だ。それは神社仏閣のみならず、住宅建設に関しても同じで、昔は家と言えば地域の大工が建てるのが一般的だった。
ところが戦後の高度経済成長期に入り、住宅需要が急増した辺りから徐々に風向きが変化。
安価な住宅を大量供給するため、地元の大工による伝統工法を用いた家づくりに代わり、モルタルや合板、ボルトなどの石油化学製品を使い、経済性・合理性を重視した家づくりが主流となっていく。
国産木材の枯渇による木材の輸入自由化も進み、地域の工務店に代わってハウスメーカーによる施工も珍しいことではなくなった。
「モノづくりの精神は絶対に忘れてはいけないもの」と語る芦葉氏
大学2年から設計事務所で働き、在学中から契約社員として現場の勉強を積む中で芦葉氏がまず体験したのも、先代社長の取り組みとはかけ離れた、そんな建築界の現実だった。
現在もこの傾向は変わらず、さらに近年では大手ハウスメーカーに代表される「高価だが高性能なこだわりの家」と「ローコスト住宅」の二極化が進行。
地域での住宅受注が主力の同社にとっては、不利な状況が続いているようにも思える。
しかし芦葉氏は「それでもやっぱり日本には木があり、すばらしい木造建築が多くあり、自然の家に住みたいと求める人はたくさんいる。
海外にもファンがいるし、未来の日本でもやっぱり伝統的な木造建築技術・文化は求められているはずです」と、力強く話す。
「うちがやっているのは、単なる箱ではなく〝工藝〟だと言われる住宅をつくり、地域に残し、そこにお客さんの幸せを入れていくこと。そういう昔ながらの粋な工務店は絶対に必要だし、かっこいいと思います。
そんな文化を大事にする技術を伝えていくことを我々の世界では口伝といいますが、日本の建築文化はそうやって何百年も伝わってきました。
小さな工務店だけれどそこをピリッとやっていけたら、我々の仕事はもちろん、日本の建築全体にも力になるんじゃないかと思うんです」
建築の原点はモノづくりの精神
ただの家ではなく〝工藝〟と言われる住宅をつくる。それは、儲けよりもまず第一によいモノをつくろうとする、モノづくりの原点を忘れないということでもある。
芦葉氏はそれこそ日本の伝統建築が代々受け継いできたものでもあるという。
社屋外観
「例えは極端ですが、法隆寺を建てようとした棟梁は儲けようとは微塵も考えず、身をささげようという思いだけだったでしょう。
東京スカイツリーをつくった人たちも、自身の儲けより、日本に美しいものをつくろうという思いや責任の方が大きかったのではないでしょうか。
日本建築の根本にあるのは、そういう商売を超えたところにある、面倒でもいいモノをつくるために工夫しようという気持ちです。
私どもの企業理念にもあるんですが、〝いいモノをつくる〟というモノづくりの精神は絶対に忘れてはいけないもの。その探究心を通して、人を幸せにすることで初めて意味が生まれます。
お客さんにとって、生涯1度の家づくりに、何十年も住める感動する住宅を提供する。
それを1棟、2棟、3棟…100棟と積み重ねていけば、一工務店の技量で必ず地域を良くすることができる。それが私の工務店としてのビジョンであり、目標なんです」
適正な価格で勝負する
芦葉工藝舎が手がけるのは、無垢の木材や和紙、土壁などほぼ国産の自然素材を使い、木造軸組工法を中心とする伝統工法を用いて組み上げる日本古来からの建築文化と、現代の生活に調和するモダンなデザインが組み合わさった、ハイセンスな木の家だ。
建築には原木を直接山から仕入れたり間伐材を床の下地に利用したりと工夫しながら日本の木を使い、木の香りとぬくもりを感じられる家は、多くの石油化学製品が使われる一般住宅とは一線を画している。
施工実例の一部
しかしどんなによい商品でも、もちろんそれだけで売れることはあり得ない。
二極化する住宅市場の中で、同社の住宅は「高価だが高性能なこだわりの家」グループに属しているが、他の工務店や大手ハウスメーカーと競争する上で、価格の高さはネックにはならないのだろうか。
意外なことに、「大手企業さんが坪単価90万円とか95万円とか、高い坪単価をしっかり出して、その単価を維持してくれていることは、私たちにとってもメリット」なのだと芦葉氏は言う。
同程度より少し安い価格になる木の家の商品価値を説明するチャンスが生まれるからだ。
同社ギャラリー
「これは松下幸之助さんの考えですが、しっかりつくったものには適正な価値があるわけで、それを〝ローコスト住宅グループ〟で販売することはあり得ません。
きちんと木の家の魅力をお伝えし、〝木の香りに囲まれた中で生活できますから、多少のコストアップになるけれど国産の木を使いましょう〟と提案すれば、〝じゃあ使いましょう〟という方が増えてきました。
重要なのは、住宅の魅力や木質をしっかりとお客さんに伝えられることです。
伝統工法による木造建築の魅力は、何といっても自然の中の木の力をそのまま家に取り込めること。
通常、家がどれぐらい持つのかは住んでみないと実感してもらえませんが、日本には実際に100年、200年、中には1000年と持っている木造建築がある、というものすごい実績が既にあるわけですから」
現在の同社の着工数は住宅・店舗を交えて年間10数軒ほど。2014年には同社の技術とデザインを実際に体感できる場としてギャラリー・工房をオープンし、木の家の魅力を発信している。
企業の要は技術力と人間力
そんな同社の戦略を可能にし、何より顧客満足度の高い住宅を提供し続ける要になっているのは、単なる技術力ではなく「技術を持っている職人の人間力」があるからだ。
だからこそ最大のテーマは常に人材育成であり、毎日取り組んでいることでもあると芦葉氏は語る。
「〝自分の会社を潰す方法〟をよく考えてみるんですが、もし私が他社に行って社長になったとして、潰せない方法が1つだけある。
それは〝中の人に技術力があり、人間力があって、社会のために尽くそうという自制心を持って働いていること〟だと思うんです。
その気持ちをちょっとずつ積み上げた山は絶対に崩れませんし、どんなに広告を打たれたとしても、〝あそこの職人は素晴らしい〟と支持をもらい続けることができるでしょう。
身につけるには時間がかかりますが、少しずつ少しずつ、今の若い子達に伝えているところです」
2年前からは〝芦葉工藝ネットワーク〟をつくり職人の勉強会も開催中だ。
「大事なのは、腕のいい地元の左官屋さん、壁紙屋さん、基礎屋さんをつくっていくだけではなく、芦葉工藝舎で働くことは、お客さんの求めに応えられ、適正な金額でやりがいがあると感じられるものであること」だという。
合理化・商業化が優先される住宅市場に一石を投じる、「粋」な工務店の次の作品から目が離せない。
●プロフィール
芦葉武尊(あしば・たける)氏…1973年11月8日生まれ。埼玉県幸手市出身。千葉工業大学卒業。大学2年生在籍時から設計事務所でアルバイトを始め、在学中より契約社員として経験を積む。バブル期に退職後、株式会社芦葉建設に入社。大工の下で約10年間現場経験を積み、2013年に代表取締役に就任。翌2014年、芦葉工藝舎設立。現職。2013年〜2015年 埼玉県商工会青年部連合会会長。現在は埼玉県商工会青年部連合会顧問。
●芦葉工藝舎(株式会社芦葉建設)
〒340-0124 埼玉県幸手市上宇和田227-2
TEL 0480-48-1959
◆2016年10月号の記事より◆
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