オビ 特集

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学校と企業を行き来しながら、座学と実務訓練を長期に行う、ドイツ生まれの「デュアルシステム」が日本の専門高校に導入されてから12年。

もともと高卒者の就職率向上と、中小企業の人材不足を解消する目的で始まったが、いまやその効果も活用法も多様化し、地域全体を巻き込んだまちおこしにも活用されている。

そこで各地で定着しはじめた、デュアルシステムの活用の実際とポイントについて実例を挙げながら紹介していく。

 

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これからの自動車業界を支える職人&メカニックを「デュアルシステム」で育成!

◎都立葛西工業高等学校編/有限会社シミズオート

 

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デュアルシステム参加理由は、業界全体の活性化のため

PENTAX DIGITAL CAMERA東京・江戸川区の自動車修理・整備サービス企業、有限会社シミズオートは、東京都立葛西工業高等学校が実施するデュアルシステムに参加し、毎年、実習生を受け入れている。現在は、同社工場にて本年度5月から、3年生1名が木曜日に実習をしている。

同社代表取締役、清水秀雄氏は、「これからの自動車業界を支える鈑金塗装職人や自動車メカニックの育成を通して、業界全体の活性化に貢献できれば……という想いで実習生を受け入れ始め、もう5年近くになります」と語る。

その清水氏に、実習生の受け入れを通して変わったことや、現状のデュアルシステムの仕組みについて思うところをうかがった。

 

 

学ぶのは、鈑金塗装や自動車整備の仕事

DS_shimizu_auto_bankin板金工場

同社のサービス内容は、「車体のキズ・ヘコミなどの修理や、それに伴う鈑金塗装と、車検に対応した自動車整備が中心です。また、お客さま個別のご要望に応じて、部品・オイル交換、出張見積り、無料代車サービスなども行っています。その他にも、新・中古車の販売や、損害・生命保険の代理店業務なども手掛けています」

同社のサービスの流れについては、自動車修理の場合、まず、依頼者立ち合いのもと見積りを行う。車検対応の場合は、まず、受付スタッフが、予約客と、スケジュールや、代車について打合せをする。その後、自社工場で鈑金塗装職人たちや、自動車メカニックたちが、自動車の修理・整備・点検を行う。

同社は、その職人・メカニックたちの見習いとして、デュアルシステムの実習生を受け入れている。

 

 

実習生の受入れが、マニュアル作成のきっかけに

「実習生の受入れにあたり、業務マニュアルの作成に取り組み始めました。このケースは、この工具で、こういう作業をして、その次はこういう工程で……という具合です。

私たちの仕事は、マニュアルだけを覚えて一人前になれるわけではありませんが、次世代を担う人材を確保・育成するには、若い人が仕事を覚えやすいように、私たちも努力する必要があると思います」

 

そして、こう続ける。

 

「それまでの当社は、私を含む職人・メカニックたちの経験や勘に頼って仕事をしてきました。ですが、マニュアル作成をきっかけに、会社全体として、これからは業務効率化にも積極的に取り組みたいと思います」

 

DS_shimizu_auto_boothclean塗装ブース清掃中

経験や勘に頼って仕事が行なわれるようになると、その仕事が属人化される恐れがある。そうなると、人材の入替りや、世代交代のたびに、仕事の引継ぎに時間を要し、その間、仕事のパフォーマンスが落ちる。

また、その場合、仕事のパフォーマンスが落ちるのを防ぐには、その後任者や新人へのフォローが必要になり、それだけ、周囲の負担が増えることになる。そして、その後任者や新人が一人前になるまで、仕事のパフォーマンスはもとに戻らない。

しかし、業務マニュアルを作成して仕事を定型化し、見える化を図れば、その引継ぎがスムーズになり、人材育成にかかる時間や手間を抑えることができる。

また、どんな業界・業種の仕事も、一人前に近づくにつれて、その本当の面白さや、やりがいが分かってくることを考えると、マニュアル作成により、若者が鈑金塗装や自動車整備の仕事を覚えやすくなれば、同時に、その面白さや、やりがいも感じやすくなるはずだ。

 

 

一人前になるには、長い年月が必要

デュアルシステムの狙いは、即戦力人材の育成だ。しかし、「この業界で一人前の仕事ができるようになるには、それなりの年月が必要です。だから、実習生が就職したらすぐに大活躍……ということは難しいです」という。

 

「特に塗装作業は、長年の経験の中でしか養えない、感覚的な技術が求められます。車輌カラーは、本当に様々で、例えば、レッドやホワイトと一口に言っても、いろんな種類があったり、キャンディのような色合いのキャンディカラーなど、複雑な色も多いです。その多種多様な色を出すために、塗料を調合する必要があります。

しかし、塗料メーカー毎に色の設定が微妙に違うため、メーカー各社の色のラインナップと、その微妙な違いを色の感覚として把握できていないと、うまく色を出すことはできません」

 

さらに、こう続ける。

 

PENTAX DIGITAL CAMERA清水社長

「そういう業界なので、当社は、今までキャリア採用のみ行ってきました。具体的には、ハローワークを利用することもありますが、取引先や業者から腕のよい職人やメカニックを紹介してもらうことも多いです。

ただ、実習生を受け入れているように、これからは、自社で若い世代も育成したいと思っています」
人材不足に悩む中小企業は、大企業とは異なり、採用活動にあまりコストや手間をかけられないため、求人広告掲載や会社説明会などができず、求職者へのアピールが十分にできていないことが多い。

しかし、仕事に熟練の技が要求される中小ものづくり企業の場合、例え大企業のような採用活動ができたとしても、本当に戦力となる人材を集められるかどうかは、検証の必要がありそうだ。

 

 

みんな真面目で一生懸命!

中小企業にとって、デュアルシステムは、自社の業務に興味がある若者を無料で紹介してもらえる魅力的な制度だ。しかし、実習生の受入れ後にかかる費用は、企業側の負担になる。さらに、実習生が必ず自社に就職するわけではない。

この現状のデュアルシステムの仕組みについて、どのように考えているのだろうか。

 

「実習生の受入れ後にかかるコストや手間は、当社にとっては微々たるものですし、今まで実習生に対して悪い印象を持ったことはないです。もちろん、実習生の業務への貢献度は、一人前のレベルではありませんが、本当に、みんな真面目で一生懸命です。

ですから、もっともっと、この仕事に興味を抱いてくれれば……という気持ちで仕事を教えています」

 

また、葛西工業高校のデュアルシステムの実習ペース・期間は、3年次の場合、基本、週1日で、5月から11月までの半年間になる。これについては、

 

「実習日は、朝9時から休憩1時間を含め夕方5時まで丸一日がんばっていますが、例えば、3年生の場合、週2日など、1日の実習時間を短くしても、実習ペースをもっと密にした方が、現場により馴染めるようになると思います」

 

デュアルシステムは、企業での実習も学校の単位として認定される制度だ。そのため、実習先企業により実習時間に差が出ないよう配慮する必要があるのだろう。

しかし、同制度を通して即戦力人材を育成するには、個別の業界や企業に応じた最適な実習プログラムを細かく考える必要がありそうだ。

 

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◉プロフィール/清水秀雄(しみず・ひでお)氏

1962年生まれ。東京都出身。高校卒業後、鈑金塗装職人として働きつつ、自動車整備士の資格を取得。1987年、自動車修理・整備サービス「クラフトメン」を個人創業。1996年、同事業を法人化し、有限会社シミズオートを設立すると同時に、同代表取締役に就任。

 

◉有限会社シミズオート

〒134-0081 東京都江戸川区北葛西4-17-16

TEL 03-3869-4424

http://www.shimizu-auto.co.jp

 

 

 

 

◆2016年7月号の記事より◆

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