株式会社アトムストーリー – パラパラ漫画で感動演出! ビジョンを共有することを軸に、思い合える世界を目指す
【ヒューマンドキュメント】
パラパラ漫画で感動演出!
ビジョンを共有することを軸に、思い合える世界を目指す
株式会社アトムストーリー/代表取締役 村上賢太氏
◆取材:綿抜幹夫
昨日までの他人同士を結びつけるには感動というビジョンを明確化し共有すること。人間関係を構築し思い合える世界を目指して、『感動』をキーワードにしたビジネスを展開する経営者がいる。起業家シェアハウス、SNSの利用など、従来では考えられない方法で、株式会社アトムストーリーを起業した村上賢太氏だ。主にパラパラ漫画を通して感動演出のサービスを提供する若き経営者が、今の事業に至るまでの志の源とは何なのか、さらには目指す将来像までも探った。
自分のためにしているからこそ、他人のためにできる
もともとMTV(CS放送局)やテレビ東京でドキュメンタリー番組のディレクターとして、10年以上の映像制作キャリアを持っていた村上賢太氏。知り合いと2人で映像制作会社を立ち上げてみたが上手く行かずに、フリーランスとして結婚式の映像に着手。だが食べていけるほど世の中は甘くなかった。それでも起業の夢は諦められなかった。母子家庭で育ち兄弟もなく、愛情に飢えていた。生活も安定せず貧乏で、自分の人生を生きている気がしなかった。村上氏にとっての起業は、〝自分の人生を変えたい〟というハングリー精神と〝自分にできることは何か、幸せになることは何か〟を探した結果、辿り着いた道の端緒だった。
起業家シェアハウスに入居した村上氏は、一度は生活のためにアパレルのウェブディレクターとして就職したが、起業家シェアハウスの主催するビジネスプランコンテストに参加したことをきっかけに、企業の福利厚生に携わる株式会社リロクラブから提携を薦められる。
シェアハウスとはここ数年で20代、30代の社会人中心に利用者が増えている居住スタイル。各自の個室とは別に、住人が共同で使うラウンジやキッチン、浴室、トイレなどが設けられ、共同スペースでの住人同士の交流が図れることが最大の特徴となっている。そのコミュニティーに注目し共通の趣味を持つ入居者を集めたシェアハウス、就活生支援シェアハウスなど、特徴を持った物件も増えていて、なかには村上氏が入居した起業家支援を目的にするシェアハウスもある。
「それが4年前です。当時は何でも良いから起業したいというモチベーションでした。何の事業を起こすかというよりは、儲かる市場を目指していました。ただ動画はやらない、すでにYouTubeなどでは無料で動画を見られる時代になっていたので、動画は儲からないと決めつけていました」(村上氏、以下同)
あわよくばと考えていた結婚式の映像制作依頼も全くなく、自分のコネクションで仕事をとってきても、最初の半年間は自分の給料も支払えないような情けない状況だった。
パラパラ漫画との出会いが、感動ストーリーのはじまり
そんな思いに沈んでいた村上氏だが、シェアハウス内でその後の行く末を左右する2つの出来事に出会った。ひとつはシェアハウスの住人のうち2人が結婚することになったこと。
「お祝いとして僕が担当になって結婚式の様子を映像化しました、もちろん無償で。共同スペースで僕がつくった映像を見ながら、主役の2人だけでなく40人住んでいたシェアハウスの全員が幸せの感動に包まれて1つになったのです。まるで接点がない人たちなのに、僕が感動を作ったことによって人と人とがつながる。その時はじめて自分が本当にやりたいことは『人に喜んでもらうこと』だと強く思いました」
実はパラパラ漫画が世の中にどれだけニーズがあるか半信半疑だった村上氏。そこで問い合わせてくれた人の話をよく聞いたら、結婚式でプロフィール映像を流してゲストに新郎の人となりを伝えたいが、新郎の写真がない。パラパラ漫画ならできると考え、YouTubeで探していたところ、村上氏たちが作成した作品に出会ったという。
「もともと結婚式の映像も作っていたので、僕の感動のコンセプトはここで生きると思いました」
すべての基準は「人を感動させたい」というビジョンの共有
当初は〝感動スタジオ〟という名で、結婚披露宴用のプロフィール映像をオリジナルのパラパラ漫画として作成し提供していた。従来の結婚式のプロフィール映像はそのほとんどが記念写真を羅列しただけのスライド映像だ。パラパラ漫画の強みは、2人の馴れ初めや親の苦労に対して感謝する子の思いなど、伝えたいけれど写真には残っていない場面を再現できることだ。ストーリーのあるパラパラ漫画にすると、列席者に新郎や新婦のことをより深く知ってもらえて、より一層の感動をもたらすことができる。まさに村上社長がいう「感動で人と人とをつなげたい」を形にしたビジネスになった。
その後、結婚式だけではなく法人向けにもパラパラ漫画を提供する方向へシフトする。社名もアトムストーリーに変更した。「アトム」はギリシャ語で「原子コア」という意味だ。
「感動というのは、例えば、料理人でも営業マンでも周囲の期待を上回るなど、やり方によって心を動かすことができる。多様な手段がある中で、コアとなる思いの起点をストーリーとして運んで伝える。だから『アトムストーリー』なのです」
法人向けのパラパラ漫画のニーズはどんなところだろう。
「経営者様の伝達力を上げる、例えば経営理念やコンプライアンスの浸透などですね。周年イベントなど従業員の方が集まる場所で、採用説明会やウェブの会社紹介、会社のビジョンを表す場においても利用していただいています」
物があふれている世の中で、消費者は何を基準にセレクトしているかというと、会社の思いや開発エピソード、お客様の感動エピソードなど、ストーリーや共感することに重きが置かれている。どんなストーリーをどんな切り口で伝えるかは、かなり重要だ。
「経営理念の浸透というと抽象的ですが、あるLEDメーカーさんでは、『光で未来を変えてゆく』というビジョンがある。でも従業員には、なかなかビジュアルとしてイメージができない。だからパラパラ漫画で自分たちのつくった製品が世の中にどういう形で貢献していくか具体的な未来を見せる。例えば『自分たちが作った光の強度によって、細胞が見つかって薬ができて病気が治る』というようなことは、言葉で伝えるより、ビジュアル化した方がすんなりイメージできて、共有もできるんです」
目指すは、思い合いのある世界
経営者の思いを伝える方法には沢山の選択肢がある。アトムストーリーではそれをパラパラ漫画で具体的にビジュアル化して再現し、まずは従業員に届ける。次に従業員がその理念をお客様に届ける。
「ですから、まず大事なのはビジョンの共有。これが重要課題だと思っています。今のウチのスタッフは漫画家をはじめプランナーもまだまだ進行形。漫画表現やディレクションなどももっと力をつけて、もっと実績をつくることが大事だと思っています」
これまで大手企業を中心に約50社に対してパラパラ漫画を制作し提供してきた。スタッフは8名と少数精鋭だが、すべてSNSなどネットを通して採用した。業績も右肩上がりだ。
「僕は、世の中に貢献したい経営者、未来をきちんと描けていて世の中を変えたい人をサポートしたい。パラパラ漫画だけでなく将来的にはアトムストーリーがないと困るくらいの存在になりたいですね。それをもっと大きな視点でみれば『思い合う世界』をつくりたいということ。経営者も従業員に歩みよって自分の思いを伝える。そのツールとしてアトムストーリーを使っていただきたい」
時代を背景にどういう感性がマッチしていくか、そこにストーリーを供給できれば、感動が生まれる。アトムストーリーが紡ぎ出す感動は共感する仕組みを生み出し、さらには他者に対する思いやりやクッションになる世界を構築することになるのだろう。インタビュー中に感じた発想力、行動力の凄さは伊達ではない。この若き経営者が目指す世界が実現するまで、その動向を見守っていきたい。
●村上賢太(むらかみ・けんた)氏…
1982年9月25日鹿児島県奄美大島生まれ、愛媛県今治市出身。東放学園専門学校放送芸術科卒業後MTV(CS放送局)入社。3年のAD経験後にディレクターとして制作会社に転職。テレビ東京などの番組ディレクターとしてドキュメンタリー番組をメインに、映像制作歴は10年以上。2012年に結婚式のサプライズ演出のパラパラ漫画を提供する感動スタジオを起業。後に株式会社アトムストーリーに改名し、法人向けにパラパラ漫画ムービーを使ったアニメーション動画の制作など、様々なコンテンツを提供。
●株式会社アトムストーリー
〒160-0022 東京都新宿区新宿6-7-22 エルプリメント新宿4階
TEL 03-5357-7160
◆2016年5月号の記事より◆