ホンダ・エンタープライズ株式会社 – 「困りごと解決のお手伝い」から生まれたトータルな起業支援
【Human document】
紹介で得た繋がりが何よりの宝
「困りごと解決のお手伝い」から生まれたトータルな起業支援
ホンダ・エンタープライズ株式会社 代表取締役 本田智史氏
◆取材:綿抜幹夫
起業支援やビジネスマッチングなど、会社の立ち上げ・継続に関するトータルサポートを手がける「ホンダ・エンタープライズ株式会社」。その創業者・本田智史社長は元事務機器の営業マンだ。2011年に札幌で最初の会社を作って独立したのは31歳の時。2015年には東京本社の同社を設立し、36歳になった現在は社員6人ながら全国に5拠点を構えるまでになっている。成長を可能にしたものは何だったのか?その歩みを聞いた。
起業の決め手は業界の普通への違和感
ホンダ・エンタープライズ株式会社 代表取締役 本田智史氏
サラリーマン時代の本田氏はOA機器の営業マン。企業を回り、パソコンやコピー機、FAX機などの大型事務機器を販売するのが仕事だった。会社の一員である以上、顧客との関わり方などは当然会社のやり方に従わなければならず、自由にできるものではない。だが、もっと顧客にフォーカスしたサービスができないものか? 本田氏の起業の物語はそんな素朴な思いから始まっている。
それというのも、大型事務機器は1度売れれば5年、10年は買い替えの見込みが少ないのが特徴だ。だから販売会社としては、過去に販売した顧客のアフターフォローはさておき新規顧客の開拓を重視する傾向にある。だがそれは、営業マンからすればせっかく信頼して契約してくれた顧客の元にその後顔も出せず、その時間があればせっせと新規獲得に励まなくてはいけないということだ。「この仕組みはそもそも違和感があるなとずっと思っていた」という本田氏は、まず転職でこの違和感を解消しようと試みる。
しかし何社か同業他社を巡ってみて、どこへ行っても同じだと痛感。ならば違和感を解決する手段として自分でやってみようと2011年に31歳で独立し、同じ大型事務機器の販売を、サラリーマンではなく経営者として行うことにしたのだ。
セールスマン時代の実績と信頼があるから、メーカーやリース会社との取引には問題がない。
「営業マンから企業の代表者になったことで、仕事で接触する相手の反応も以前とは違ってきました。その中で、いろいろな会に誘っていただいたり参加したりを通じて経営者仲間が増えて。そこからのご紹介で仕事が派生して、無理な営業をしなくても信頼関係だけで業績を伸ばすことができたんです」というまとめだけを聞くと、何の苦労もなく成功したように思えるが、もちろんそんなことはあり得ない。現在は起業支援、経営支援、ビジネスマッチングなどを幅広く手がけ、創業からたった5年で北海道、東京、大阪、福岡、沖縄の5拠点を構えるまでに成長した裏には、やはりそれ相応の信念と工夫がある。
口コミ紹介を呼ぶ「おまけスタイル」
起業の際、「大きな志があったわけではない」としながらも、本田氏がまずこだわったのは「違和感」を解消すること。すなわち「販売するだけではなく、もっとお客さんにフォーカスした形のサービスができないか」を突き詰めることだ。事務機器の営業といえば、企業のオフィスを回り、コストの削減や利便性の向上を提案して今使っているコピー機と入れ替えてもらうのが一般的だ。しかし本田氏は、サラリーマン時代からちょっと違ったスタイルを行ってきたという。
「車の免許をもっていないので、車で回ることができなかったんです。だからお客さんにわざわざ判子を持ってオフィスに来てもらえるだけの何かが必要でした」という背景から出てきたそれは、「おまけスタイル」とでも言うべきもの。例えばコピー機1台の契約が取れたら、それによる利益の一部を使って、その会社が必要としているパソコンやデジタルカメラなども格安又は無料のサービスで揃えるというものだ。「コピー機が売れたら終わり」の営業とは一線を画すこのスタイルは現在も続行中。「コピー機だけじゃなく全部揃えてもらった」という口コミの評判が、紹介の輪を広げる原動力になった。
人との繋がりが事業の要
そうやってもたらされた紹介での依頼で増えたのは、顧客の数ばかりではない。というのも、紹介中でも特に多かったのは「今度社員が独立するので手伝ってほしい」や「友人が店を出すので相談にのってほしい」などの新規立ち上げのケース。つまり、競合がいない案件が大部分を占めるようになったのだ。
会社の立ち上げにはコピー機やパソコンはもちろん、応接セットやホワイトボードからスリッパに至るまでハード面も重要だが、資金調達や人脈作り、経営のアドバイス・相談などソフト面で悩みを持つ新経営者は多い。そして専業コンサルタントや各分野の士業とは違って自らも経営者であり、豊富な人脈を持つ本田氏にはそれに応えるだけの十分な力があった。「おまけスタイル」の「おまけ」はここへ来て事務機器の範囲を飛び越え、広く起業支援全般へ。さらに新規立ち上げ以外の相談にも応える中で、ビジネスマッチングや経営支援へと拡大していく。
「正直に言うと深く考えてはいなくて、目の前の単純に困っていることを解決するという感覚でした」という本田氏だが、事業の要である自身の人脈の築き方は半端ではない。起業してから新たに会った人の数は年間5000人以上。そうやって知り合った人々の名前はもちろん、事業の内容、人柄についてもしっかり把握し、何か相談事を受けた時に地域や業種、内容、スタッフのレベル、社長の考え方などを含めて最適な会社を紹介できる「頭の中の辞書」があるというから驚きだ。札幌から出発した紹介の輪は全国に広がり、2015年には東京本社で主に起業支援を担当する同社を新たに設立。「個人を商品価値として出してみたいなという感覚になった」ことからホンダ・エンタープライズと命名し、同時にそれまで毎月出張で対応していた全国5カ所に拠点を設けることにした。本田氏の動きと連動するように、地域を越えたマッチングの輪もますます拡大している。
「おんぶに抱っこ」を越えて
現在同社では、会社の立ち上げ・店舗の出店などの起業支援と経営のアドバイスや、例えば新商品を出すに当たってのビジネスマッチングなど起業後のフォローを切り分けてそれぞれ提供している。順調に事業拡大を続けている同社だが、起業支援について反省点もあるという。
「僕を含めて周りにサポートしてくれる人はいても、経営者は自己責任。まずしっかりした自身の軸があって、それを補完するために周りの人が手伝ってくれるのであって、おんぶに抱っこで全部任せればいいというものではありません。ただこれまでは僕も〝全部任せてくれればいいよ〟というような気持ちで、きちんと伝えて来なかったなと。甘くすればいいというものではなく、起業は厳しいけれども僕らも手伝うから壁を越えられるんじゃないかという伝え方をしていかないと、結局起業する人にも悪い影響をもたらしてしまうんです」
「やりたいことがない」から本気で人を手伝える
それを踏まえた上で本田氏はどんな未来図を描いているのか。その出発点には「僕自身は事務機器の販売がすごくやりたいかというとそういうわけではなくて、流れでたまたま勤めた会社がそうだったというだけの話。僕自身は特にやりたいことがない」と言い切る本田氏。だからこそ、「100%人の手伝いをしよう」という思いになったのだという。
立ち上げの支援をする業種は飲食店に介護施設、レンタカー、広告代理店、歯科医院……と多種多様だ。「そこに現場ベースで関われるので変化があり、自分のモチベーションを落とさずに楽しくお手伝いができる」という本田氏の理想は、志があっても経験やノウハウがない、資金面ではちょっと欠けているけれど起業の意思と情熱はある、そんな起業家たちをしっかり支えてそれらの企業の業績が伸びていくこと。そうすると10年後、20年後には何千社という企業に携わり、自身の企業とのパイプも増えていくはず。そうなったビジネス同士を仲介することでさらに活性化させ、レベルが高く、質が良い、規模の大きな話をどんどん展開することができる。それが日本全国に広がって大きなファミリーになるのが夢だと語る口調は明るい。
大事なのは経営者マインド
具体的な所で、10年後のビジョンについて尋ねてみると、「今の延長線上で規模が大きくなるのも1つですし、ベンチャーキャピタルのように小額の資金を出してあげるような形で出資するとか。支援の仕方がちょっと変わってくることもあると思います」とするものの、はっきりとこれという姿は決めていないという本田氏。「目の前の困った人を助ける」ことを続けた結果、たどり着いたものであればいいと言う。
◇
起業の相談ではよく「今何のビジネスをやったら儲かるか?」と聞かれるという。だがそれに対する本田氏の答えはいつも決まっている。「ないですよ、そんなものは」だ。
「ラーメン屋で儲けている人はいっぱいいるし、損をしている人もいっぱいいます。儲かるビジネスを探そうという自体が間違いで、そういう話なら何をしてもきっと上手くいかないだろうと思ってしまいますね」
何の商売でも上手くいくかどうかは経営者次第。その意味する所を改めて考えさせられた。
●本田智史(ほんだ・ともふみ)氏…1980年2月生まれ、北海道名寄市出身。2002年に札幌大学経済学部経済学科卒業後、不動産業界に就職。1年半後に転職し、事務機器販売の営業職となる。31歳で独立し、株式会社シンキースを設立。2015年にホンダ・エンタープライズ株式会社を設立して代表取締役に就任。現職。
〈ホンダ・エンタープライズ株式会社〉
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◆2016年4月号の記事より◆