株式会社スリーエー・コーポレーション ‐ 「自立共生」のプロフェッショナルが不動産業界にメスを入れる!
◆取材:綿抜幹夫 /撮影:高永三津子 /文:渡辺友樹
萩原大巳 株式会社スリーエー・コーポレーション 代表取締役社長
オフィス移転費用を大幅削減
オフィス移転時の原状回復工事やB工事の費用を査定・コンサルティングする「株式会社スリーエー・コーポレーション」。唯一無二のビジネスモデルからは、しがらみや規制のはびこる業界事情や、これからの時代を生き抜く「働き方」のヒントが浮かび上がる。「自立共生」をテーマに掲げる萩原大巳社長に聞いた。
◎オフィス移転時の原状回復費用を削減
原状回復工事を査定する
オフィス移転の際に必ず行われるのが、退居物件の原状回復工事。怠れば多額の敷金が返ってこない上に、6カ月前に定めた退居日までに原状回復義務を果たさなければ、契約書によって家賃の倍額の損害金が発生する。
この原状回復工事は、ビルオーナーが指定するメンテナンス業者が施工することと定められており、競争が働かないため市場価格の倍以上の高額な工事が当たり前になっているという。
その仕組みにメスを入れ、原状回復工事の費用を査定・コンサルティングするのが、同社の事業だ。あわせて、「B工事」と呼ばれる移転先の電気設備工事の査定・コンサルティングも手がけている。入居者の代理という立場でコンサルティングを行う業者は同社のみ。唯一無二のビジネスモデルだ。
競争原理が働かず、岩盤規制が横行
物件の退去時に原状回復が義務付けられているのは、先進国では日本のみだ。入居後、物件に手を入れ、自分たちのビジネスをしやすい環境を整えるのは当然のこと。次の入居者も、できるだけそれを活かせば無駄がない。入居時の状態に戻すということは、場合によっては数十年前の状態に戻すということ。
入居時から現在までに、社会経済は変化し、ビジネスやオフィスというものの有り様も変わっている。問答無用で原状回復が義務付けられていること自体が非合理であり、しわ寄せが行くのは入居者だ。
高額な工事費用を提示されても、物件が金融機関からの紹介であったり、ビルオーナーが財閥系グループの大手であったりすれば、今後の関係を悪化させたくないあまり、言い値を受け入れることとなる。
また、業界には岩盤規制も存在する。オフィス内装を例にとれば、まず入居時に、消防法に基づいてスプリンクラーや電気といった設備工事を行うが、これはビルオーナーの側で「やっておきますよ」というケースが多い。そして、退居時にも同じように消防署に届けて原状回復工事を行う。
どちらの場合も、施工するのはビルオーナー側。ビルオーナーの元にストックが入ってくる仕組みができあがっているのだ。これが、国交省、消防庁、デベロッパー、大手建設会社の間の岩盤規制だ。
同じ内装の支店間で原状回復費用が10倍も違う例も
同氏が原状回復工事費用を査定するビジネスに着目し始めたのは、約10年前だ。消費者金融の過払い金に対して最高裁判決が下され、以降は金利が下がり、また過去の過払い金に関しても10年ほど遡って返済することが義務付けられた。
これにより、4000〜5000店舗ほど存在した金融業者の数は1割に激減した。閉めた店舗の数だけ、原状回復工事が発生したわけだが、同氏はこの費用が高いところで坪30万円、安ければ坪2万円と、金額に大きな差があることに注目した。
消費者金融の各支店は、どこも同じ内装なのに、コストがこれだけ異なる。建築・不動産の世界に、入居者のあずかり知らぬ利権や岩盤規制があるということだ。
◎規制を乗り越え、唯一無二のビジネスモデルを構築
遅れている日本の敷金制度
たとえば、リーマンショックで苦しんだ人材派遣業。規模を縮小したいが、移転する費用すらなくなってしまった。何億円と積んである敷金を移転資金に充てようと考えるが、高額な原状回復やB工事によって、その敷金も返ってこなくなってしまう。
本来であれば、債務不履行を防ぐための預託金であるところの敷金を積む・積まないという判断は、入居者ごとの信用度で決めるべきだ。日本のように、一律で10カ月〜12カ月分も敷金を積まなければならない国は、ほかにない。
実は、日本でも、外資系の優良企業は預託金を積んでいない。企業に信用があれば、「預託金は積みません、それで良ければ借ります」という交渉ができるのだ。
同社の顧客でも、たとえばIBMやBBC英国放送がそうだ。しかし、信用のない中小零細企業にはそうした強気な交渉はできないため、保証会社を付けるか、敷金を積むかということになる。
先進国の中でも、旧来の商慣習が今なお色濃く残り、自由な企業活動ができない状況にある日本。結果的に、海外にオフィスを構える企業が増えている。規制緩和を強く訴える同氏は、「最低限でも、選択肢が多く存在し、それらを見える化することが必要」と語る。
苦労した「弁護士法72条」
海外で活躍するスポーツ選手の年棒交渉に代理人が入るように、パワー・オブ・アトニーといわれる代理人ビジネスは海外では一般的だ。ところが、日本には代理人ビジネスがなく、法律事務に関して代理人業務を行えるのは弁護士に限られている。
これが、同社のビジネスモデルを構築する上で同氏が「いちばん苦労した」と語る「弁護士法72条」だ。同社がいくら指定業者より安い査定を出しても、ビルオーナー側から「弁護士法72条に違反するのでは」と主張された場合、それ以上協議を進めることができなくなってしまう。
対応に悩まされた同社だったが、東京山手法律事務所の野間啓弁護士らのチームを仲間に加え、「弁護士が同行・同席・助言している」という形を作ることでクリアし、問題なく業務を行える体制を整えた。
営業せずとも利益が上がるように
「立ち上げから5年は苦労した」と語る同氏。大手企業は専門家を抱えており、実績を重ねるまでは「自分たちに削減できないものを削減できるわけがない」と信じてもらえなかった。コツコツと実績を重ねた現在は、営業活動をしなくても毎日のように一流企業から相談が寄せられる。
たとえば、ある有名な国際企業は、名古屋支店を閉じる際の原状回復工事費用としてビルオーナーの指定業者から「100坪・1500万円」を提示されたという。このコストの削減を模索した末に同社に行き着き、相談を寄せた。
同氏によれば、この案件の削減額は800万円ほどになるという。着手金30万円と実費を支払い、さらに削減額から成果報酬が35%。しかし、800万円の削減であれば、クライアントも喜んで契約する。それだけ、高額な相場が横行しているということだ。
◎「自立共生」で働く社会へ
時代に即した組織体系
一級建築士の資格を取るまでには、インターン経験を5〜7年ほど積む必要がある。およそ1万時間の現場経験だ。つまり、一級建築士であれば、みな確かなノウハウや能力を有しているのだ。弱点となっているのが、営業力だ。アメリカやヨーロッパでは、設計や建築を請けるのは企業ではなく、建築士ら関係する士業が個人で結びついたチームだという。
「大会社に設計施工をすべて『おまかせ』するスタイルは終わりつつある」と語る同氏。現在、一級建築士の数はおよそ25万人。バブル崩壊の引き金を引いた業界だけあり、1997年頃からゼネコンは軒並み大規模なリストラを実施したため、個人で営業する建築士は非常に多いという。
彼らはみな確かな教育を受け、現場力も有している。そうした個々人が、自分の得意分野で貢献するチームを組めば、あらゆる建物を設計できる集団となることが可能なのだ。
雇用されない働き方
中小企業の赤字の原因は、従業員が自身の給料分を稼げないことと、経営者が稼げるビジネスモデルと差別化を提供できないことだ。これができない企業が淘汰されていき、法人の数はどんどん減っている。
この流れの中で生き残るためのキーワードとして、同氏は「自立共生」を掲げる。自立共生するためには、自分の食い扶持を自分で稼ぐこと。そのためには、何かしらのプロフェッショナルであることが必要だ。逆に、プロフェッショナルといえる能力さえ持っていれば、個人と個人がアライアンスを組むことで、強力なチームを組んで仕事ができる。企業に雇用される必要がなくなるのだ。
従業員のいない「自立共生」集団
実は、同社はまさにこれを体現している。というのも、同氏と事務員を除けば厳密な意味での「従業員」はいないのだ。現在、16名のチームである同社。それぞれがそれぞれの得意分野に力を発揮する。
同じ建築士という肩書きでも、意匠設計が得意であったり、設備設計が得意であったりと、得意分野が違う。建築士に限らず、法律をカバーする弁護士もいる。このほか、宅地建物取引士、店舗・経営コンサルタント、ITコンサルタント、電気工事士、公認会計士など、さまざまなプロフェッショナルが名を連ね、各々が同社の名刺を持って動くが、従業員ではないためコストはかからず、成功報酬のみの関係で成り立っている。
いずれは、16人が20人、20人が100人、200人と広がり、自立共生できるプロフェッショナル集団として大きくなることが目標だ。
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不動産や建築は、特に古くからの規制や商慣習がはびこる業界。これらを回避するため、海外にオフィスを構える企業も増えている。同社の顧客も、規制やしがらみを嫌うIT系や外資系が多いという。「自立共生」のプロフェッショナルたちが、業界に風穴を開ける。
萩原大巳(はぎわら・ひろみ)氏…宅地建物取引主任者、一級建築施工管理技士。
1957年、静岡県生まれ。日本大学卒業。
2004年、株式会社スリーエー・コーポレーション設立。
株式会社スリーエー・コーポレーション
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