世界に日本の木のぬくもりを 日本古来の木の伝統食器「折箱」
世界に日本の木のぬくもりを
日本古来の木の伝統食器「折箱」
◆取材:綿抜幹夫
住宅に家具、生活用具。仏像に漆器。法隆寺の五重塔に東大寺の大仏殿。これらはすべて、我々の先祖が木を使って作ってきたものたちだ。縄文・弥生時代から近代に至るまで、日本人の生活を支えたのはほとんどが木製の品々。日本の歴史と文化は常に木と共にあったと言っても過言ではない。
けれど時代は変わるもの。住環境の変化やプラスチックの登場などに押され、今や生活の中から木製品は減る一方だ。しかし、ちょっと待ってほしい。グローバル化が進む現代こそ、日本の原点「木の文化」をもう一度見直すことが必要なのではなかろうか……?
そんな思いの中で出会った、日本古来の木の伝統食器「折箱」が今回の主役である。
伝統技術が伝える日本人の良さとその思い
かつては『貴族の食器』として重宝されたという折箱。現在でも高級折詰め弁当や寿司などの容器として用いられ、日本の伝統的な文化を今に引き継いでいる
折箱とは、蝦夷松や赤松などの木を削って作る厚さ1ミリほどの木の板「厚経木」を張り合わせた合板を曲げて作る、使い切りの容器のことだ。
その歴史は西暦600年頃の聖徳太子の時代まで遡り、江戸時代には芝居の幕間に食べる弁当の入れ物として、明治には駅弁の容器として人々に親しまれてきた。
木の香りはもちろん、通気性、吸水力、保湿力、防湿力に優れ、木本来の抗菌作用も働くので、主に弁当をはじめとする食品のパッケージとして長く日本の食品容器の主力だった。
しかし、戦後発泡容器や紙箱、プラスチック製品が普及するにつれて折箱市場は縮小。店をたたむところも相次いだが、伝統を守ってきた店もある。創業約100年の歴史を誇る「折勝商店」もその1つだ。4代目社長石山勝規氏を訪ねて話を聞いた。
今回お話を伺った同社4代目社長、石山氏。
「折箱作りは単純なように見えて、その実製作にはさまざまな技術が必要です。
例えば合板の作業では、木目が詰まっている板と広い板では全く収縮率が違うので、それを丁度±0になるように組み合わせないと反ってしまう。それを瞬時に見極められるのが職人のスキルですし、その能力、目利きの技が承継されているというのがうちの強みでもあります」
ほかにも木のクセであるアテや折箱の形を決める折り目の溝を制御する技術など、美しい折箱を作るには熟練の技が不可欠だ。
そしてそうやって作られた折箱は、国内での消費に止まらず、石山社長の下で世界にも打って出ようとしている。
箱の側面用の溝切りの様子。本来は北海道で機械による溝切り加工を行い東京へ納品されるそうだが、今回は特別に手作業での様子を見せて頂いた
「伝統は大事ですが、同じものを続けていくだけでは後退でしかありません。
例えば海外に『和』のテイストを売り込みたい企業製品のパッケージとして海外進出に参戦するのが現在の戦略の1つ。奥ゆかしさや利他の心といった日本人のベースにある価値観と共に、日本伝統の木の文化〝折箱〟を海外の人に知ってもらい、そこから日本に興味を持ってもらえればと思っています」
海外で「ORIBAKO」が流行り、日本人が慌てて自身の文化を見直す。そんな未来が来る前に、少し自分の足元を振り返ってはみませんか。
折箱ができるまでの工程
工程01:上蓋の面部分の材料を揃える
工程02:揃えた材料を断裁
工程03:上蓋の側面部分の材料を揃える
工程04:上蓋の面部分の材料に糊付け
上蓋と箱を合わせて出荷準備を行う
一つずつ丁寧に箱を組み合わせていく。
様々な形状の折箱。オーダーメイドにも対応しており、近年では引出物の容器としても人気が高い。
株式会社折勝商店
(代表取締役社長:石山勝規)
〒113-0034 東京都文京区湯島2-7-4
TEL 03-3811-9760
◆2015年10月号の記事より◆