FCEトレーニング・カンパニー代表安河内亮が注目企業に切り込む! 伸びる会社の人材育成術 第1回:株式会社三鮮商事
FCEトレーニング・カンパニー代表安河内亮が注目企業に切り込む!
伸びる会社の人材育成術
第1回:株式会社三鮮商事
株式会社三鮮商事 関野裕治氏
〈DATA〉
株式会社三鮮商事(社員数270名)
本部:静岡県沼津市春日町33-3
TEL:055-952-3655 FAX:055-952-3657
URL:http://www.sansen.jp/index.html
「伸びている企業の秘密は人材育成にあった!」
成長を遂げている企業の経営陣は、どのようにして人材育成を行っているのだろうか。
これまでに4,500社を超える企業の研修・教育を行ってきたFCEトレーニング・カンパニー代表、安河内亮が伸びている成長企業を取材し、人材育成のポイントを探る。
鮮魚事業を中心に、「心とカラダの『健康』を生み出すサポーター」という理念を掲げ、フィットネスや教育、飲食事業に至るまで様々な事業展開を行う株式会社三鮮商事。異なる業種業態を抱えながらも、全社一丸となり成長し、管理職層が活き活きと働く「職場作り」「人材育成」のポイントはどこにあるのか? 人材育成の責任者でもある関野裕治常務取締役にその秘訣を聞いた。
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─まずは事業内容について教えていただけますか?
株式会社三鮮商事は、18年前にスーパーの小売事業をやっていたメンバーを中心に立ち上げた会社です。最初は、鮮魚ビジネスから始めたのですが、いまは「食と健康」をキーワードとし、静岡県と神奈川県を中心に、女性限定の30分フィットネス『Curves(カーブス)』、惣菜販売、宅配寿司、健康食品販売、介護サービスの『茶話本舗』、個別指導塾の『ITTO個別指導学院』という幅広い事業を展開しています。最近では居酒屋事業がスタートし、フィットネス事業では海外進出を果たしました。
─人材育成はどのように行っているのですか?
人材育成は、社内で行うこともありますが、主要な部分は外部の研修を活用しています。その中でも、特に重視しているのはセカンドのポジショニングにある人間の育成です。新人のマナー研修や基本的な業務知識の研修と違い、どうやって次期幹部や店長に引き上げるか、といった部分は社内で教育しづらい部分だと思っています。
例えば、「管理職としての視点を持つ」「部下を指導する為に必要なポイントは何か?」という部分ですね。要職であればあるほど、言われたことやマニュアルだけでは判断できないことが増えてきて、個人の力量や才覚が必要になってくるんですよね。
だからこそ、その部分はプロに任せようと決めました。チームでの「No.2」=「次期リーダー」がもっと育っていけば、事業の可能性もどんどん広がると思うからこそ、ですね。
─社員が参加した研修の効果を継続させるために、何か意識しているポイントは何かありますか?
ポイントは3つあります。1つ目は「メンバーを選抜して参加させる」こと。2つ目は「研修受講レポート」の義務化。3つ目が「レポートの共有」と、横の関係の「フィードバック」です。
まず、1つ目についてですが、弊社では、どの社員がどの研修を受けるかということについては上司が選定・選抜をしています。会社の「代表」として研修を受けてもらうということを明確にしたうえで参加してもらっています。ポイントは「直属の上長から参加の後押しがある」という点です。「自分が選ばれた」という意識が前向きな受講姿勢の醸成にもつながります。
2つ目の「研修受講レポート」では、研修を受講した後には、必ず全員A4用紙1枚にまとめる形で報告レポートを提出してもらっています。社員にもそれぞれの個性があります。でも、基本的なポテンシャル・潜在能力はあるのに、当人が発揮していないという状況はとても残念。それを本人が気づかないこともあるし、周りがそれを指摘するのが難しいケースもありますよね。
根本的な課題であればあるほど直接は指摘しづらかったり、伝え方を間違えると人間関係がこじれ、業務に支障をきたすことすらある。そういう時に、上司が研修を選び、参加してもらって「自分で気づいてもらう」ということができると、人に言われるより何倍も本人の行動が変わるんです。
そう考えて選抜し、参加させている研修だからこそ、実際に提出されるレポートでは、「自分はこういうことを上司から求められているんだ」と気付いた、という話や「自分はこういうことを勉強したほうがいいんだな」と自問自答してくれている様子がよく伝わってくるんです。レポートを書くことで、自分で課題を発見している。だから、身に付くスピードが速くなっていることを感じます。
ただ、このレポートを書くと言うのも形骸化しやすい。そこで弊社では、3つ目のポイントでもある「レポートの共有と横の関係からのフィードバック」を大事にしています。研修後に書いたレポートを、自分の事業部全体に共有してもらっています。そして、共有されたレポートに対して、上司だけでなくメンバー同士でコメントし合う。レポートを出した人間が「見られている」と思うからこそしっかり書きますし、フィードバックがあることで「よりみんなの為になるレポートを書こう」というプラスの意識が生まれていることも感じています。
お互いの〝学び〟に興味を持ってコメントし合うと、普段は離れて仕事をしている者同士の繋がりも生まれてきますし、学び合う土壌ができる。それに、他の人がいいフィードバックをもらっていたら「自分も頑張ろう」という動機づけになる部分もあると思います。
─それらは社員の自主性を引き出すための方法でしょうか?
そうですね。 昔、わたし達が新人だった頃なんかは「言われたら何があってもやる」「できなかったら罰則」というようなことが少なからず動機となって、仕事をしていた部分があると思います。しかし、今はそれだけでは人は動きません。人のタイプにもよりますが「怒られる!」ということだけでは動機にならないケースの方が多いと考えています。
でも、上の人間から明確に指摘しなくても、自主的に自分で気づいてくれたらそれが一番いいです。万々歳ですよ。「言われたから」と動くよりも、自分で気づく方が、その後の変化も、2倍3倍と良い効果をもたらすと思っています。
外部の研修も、単なるインプットで終わらせずに、自分でも振り返る仕組みを作る。そしてそれを後押しする。すると、自分でしたアウトプット自体が、インプットになって学びが行動へと変化していく。そういういい循環ができているように思いますし、今後もこの循環を事業部間のシナジーが起こるきっかけとなるように、ブラッシュアップさせていきたいと考えています。
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関野常務、ありがとうございました!
FCEトレーニング・カンパニー代表・安河内亮の一言
株式会社三鮮商事の人材育成が成功しているポイントの中でも、特に注目すべきはこの2点です。
①よりよい未来をつくる鍵は人材育成であるというトップ陣の合意
②モチベーションを上げ続ける仕組み
企業がよりよい未来をつくりあげる上で、重要なことは「任せられる人」がたくさんいるかどうかだと思います。ただ、その「層の厚み」は一朝一夕にはでき上がりません。教育研修を考えるときに、つい「今、目の前で起きている問題」の解決を念頭に置くケースがありますが、この視点で教育をしていても、「任せられる人」は育ちません。
現リーダーはもちろん、リーダー候補(No.2)まで含めて、様々なケースを「疑似体験」させたり、トレーニングでできるようにする。また、教わったことを実践できる機会の提供を惜しまずにする。こうした繰り返しによって、任せられる人が育ち、自社の描ける絵が大きなものになるのだと感じました。
また、店舗ビジネスを行う多くの企業では、どうしても「時間が取れない」という壁にぶち当たり、教育の機会を後回しにしがちです。それでもなお、現場の方々が研修を受けに行く時間を積極的に取ろうと思える仕組みを作られていることが、素晴らしいと感じました。
研修受講者を「選抜」し、瞬間的にモチベーションを上げ、参加することへの背中を押す。社外の人と他流試合ができる研修制度を選択し、さらにそこでも刺激を得て、レポート提出、そしてフィードバックの機会を設ける。研修は「続かない」「定着しない」「飽きる」ということが起きがちなものですが、仕組みによって見事にそれらの問題を解決しながら、「積極的に自分の力を高める」という状態を作り上げている素晴らしい事例でした。
◉FCEトレーニング・カンパニー
代表/安河内 亮
東証一部上場企業にて、大手小売チェーン等の経営支援に携わり、その後、人財開発部門へ。就職人気企業ランキング日本50位へランクイン、「働きがいのある会社」ランキング入賞など実績を残す。その後FCEトレーニング・カンパニーを創業。自らも人財コンサルティング、社内大学構築等を実施。嘉悦大学非常勤講師。