オビ コラム

特許審査はハイウエイを走る如く!

◆文:西郷義美(西郷国際特許事務所所長・元弁理士会副会長・国際活動部門総監)

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むかし、娘が小さかった頃、娘から「おとうさん、いま、夏だけど、あと夏は何回あるの?」と聞かれた。「やっぱり子供だな。」と思い、「季節は4つを順々に繰り返し、いつまでも……」と答えようとして、「はっ!」となった。無限に繰り返す。その通りであろうが、その無限の移ろいを、確かに見て楽しめるのか。それは可能なのか。人によっては、これが最後の夏かもしれない。それとなく娘の横顔を見た。心なしか、こちらを「それみたことか」とチラッと見すえたように思えた。

もし、この質問を禅のお坊さんが言ったのなら、まさに無情を識る言葉となる。つまり、質問の内容は、そのフェーズの高低を感得して理解しなければ、その真意を把握することは難しい。

 

特許の世界でもこの行き違いは多い。特に特許庁とのやりとりは書類審理がメインであるので、齟齬が生じやすい。審査遅延の一因は、このやりとりのミスにもあるだろう。

 

また、今日市場のグローバル化に伴い、複数の国・地域へ特許出願をする必要性が増大し、世界の特許出願総数は増加の一途である。

そのため、各国特許庁におけるワークロードが増大し、審査の順番待ち期間が長期化しているのである。そして、各国の出願の約40%は外国からの出願である。

しかし、その審査内容を分析してみると、各特許庁において他国との重複審査が増大していることが分かった。

 

してみれば、ワークシェアリングにより、このダブルチェックのムダを排除できることが分かった。 先に審査をした特許庁のサーチ・審査結果を利用しワークシェアリングを行えば良いのである。

 

先行技術の調査など、他国の審査資料を活用できるものは活用すべきである。日本国特許庁はこの状況に着目し、世界に向けてその協力体制構築に動いている。

 

車がハイウェイを快適に走るように、特許審査も快適なスピードでと名付けた、「特許審査ハイウェイ(PPH:Patent Prosecution Highway)」がそれである。
つまり、特許審査ハイウェイは、出願人の海外での早期権利化を容易とする。また外国の各特許庁(例えば米国特許商標庁)にとっては、第1庁(先行庁:例えば日本国特許庁)の先行技術調査と審査結果の利用性を向上し、審査の負担を軽減し質の向上を図ることを目的としている。
特許審査ハイウェイ(PPH)は、各特許庁間の取り決めに基づき、第1庁(先行庁)で特許可能と判断された発明を有する出願について、出願人の申請により、外国の第2庁(後続庁:例えば米国特許商標庁)において簡易な手続で早期審査が受けられるようにする枠組みである。

 

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つまり特許審査ハイウェイ(PPH)とは、先行審査庁において特許可能と判断された発明を有する出願について、後続審査庁において早期審査を受けられるようにする特許庁間の枠組みである。

2006年7月からアメリカと試験的な実施を開始した。そして、日本、アメリカ、EPO、中国、韓国の5大特許庁間で活用できる。更に近年、いろいろな国とこれらの特許審査ハイウェイ(PPH)が行われ、極めて使い勝手が良くなってきた。そして、日本からの外国出願の9割以上で特許審査ハイウェイ(PPH)が利用可能である。

この特許審査ハイウェイ(PPH)は、日本国特許庁が各国に働きかけて実現したものである。

 

メリットのいろいろ

メリット1:早期審査の手続きが簡素化できる、又は、通常の早期審査制度を有していない特許庁において早期審査を受けることができる。

メリット2:オフィスアクション回数の減少による審査期間を短縮できる。つまり、特許審査ハイウェイ(PPH)は、既に第1庁(先行庁)で特許可能と示された請求項を対象とするため、オフィスアクション回数が減ることが期待され、早期の権利取得が期待される。

メリット3:また、同様の理由で、応答コストを軽減できる。

メリット4:特許率を向上できる。特許審査ハイウェイ(PPH)は、既に第1庁(先行庁)で特許可能と示された請求項を対象とするため、特許率の向上が期待される。

 

つまり、まとめればそのメリットは以下のように言える。

(1)「早い」。
簡単な申請で早期審査が可能で、特許までの期間も大幅に短縮される。

(2)「安い」。
中間処理コストが減少し、特許審査ハイウェイ(PPH)申請自体も多くは無料で簡単である。

(3)「うれしい」。
先行審査庁で特許になったものは、後続審査庁で特許となる可能性が高く、特許率が向上する。
同じ発明に対し、先行審査庁と後続審査庁とでダブル審査を行うため、より安定した権利が得られる。

なお、日本において、この早期審査の対象になる出願とは、実施関連出願、外国関連出願、中小企業・個人・大学・公的研究機関等の出願、グリーン関連出願、震災復興支援関連出願、などがある。

この特許審査ハイウェイ(PPH)を利用した早期審査は、使用可能な国々も増加し、PCT出願が絡んだ「PCT-PPH」申請においても急増中であると、日本国特許庁は我が意を得たりとばかり公表している。

 

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西郷義美 西郷国際特許事務所 (2)

西郷義美(さいごう・よしみ)…1969 年 大同大学工学部機械工学科卒業。1969 年-1975 年 Omark Japan Inc.(米国日本支社)。1975 年-1977 年 祐川国際特許事務所。1976 年 10 月 西郷国際特許事務所を創設、現在に至る。

《公職》2008 年 04 月-2009 年 03 月 弁理士会副会長、(国際活動部門総監)

《資格》1975 年 弁理士国家試験合格(登録第8005号)・2003 年 特定侵害訴訟代理試験合格、訴訟代理資格登録。

《著作》『サービスマーク入門』。商標関連書籍。発明協会刊 / 『知財 IQ」をみがけ』。特許関連書籍。日刊工業新聞社刊

西郷国際特許事務所

〒101-0052 東京都千代田区神田小川町2丁目8番地 西郷特許ビル

TEL : (03)3292-4411(代表) ・FAX : (03)3292-4414

Eメール : saipat@da2.so-net.ne.jp
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