新しいタイプの商標の概要 ‐ 西郷義美
新しいタイプの商標の概要
◆文:西郷義美(西郷国際特許事務所所長・元弁理士会副会長・国際活動部門総監)
商売の極意は、人間の欲望を知り、それを満足させるものを作り、それを市場に投入することにある、と言う。その商品を拡販させるため、商標が使用される。顧客は、商標を頼りにその商品が確かなものかを判断する。商品を分かってもらう、知ってもらうための商品の顔でそのために商標は、重要な知的財産である。
近年、IT技術の発達を背景に、言葉の壁を越えたブランディング戦略として、テレビやインターネットなどでブランドイメージを伝えるケースが増えてきた。それに伴い、商標の概念も変化してきている。
そしていつもそうだが、ビジネスの世界では、法律よりも先に事物が先行する。音の商標などの出現がまさにそれである。
アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、オーストラリアなどでは、音や色彩を商標として保護している。が、日本は後れを取っていた。
それが、やっと出来ることになった。日本でも、今年(2015年)から保護されることになった。
従来、商標登録できるのは「文字」「図形」「記号」「立体的形状」などや「色彩」と組み合わせたものに限られていた。それらに加えて、今回導入される新しいタイプの商標としては、5タイプ「動き」、「ホログラム」、「色彩」、「音」、そして「位置」の商標である。
以下それぞれ説明する。
1、「動き」の商標
テレビやコンピューター画面等に映し出される変化する文字や図形などである。つまり、CMなどすでに多く見られますが、時間の経過に伴って、文字や図形などが時間の経過に伴って変化するものが保護の対象となる。
例えば、次の図のようなもの。
何と、ヒヨコが空を飛んでいる。
出願の注意事項としては、時間の経過に伴う標章の変化が特定できるよう1又は2以上の写真又は図で特定する。詳細説明には、動きの商標であること、かつ、その状況を説明する。
他法との関係としては、先行意匠権(動的意匠)と交錯するおそれある。
2,「ホログラム」の商標
ホログラム商標としては、文字や図形等が、ホログラフィーその他の方法により、見る角度によって変化して見えるものなどである。
出願は、ホログラフィーその他の方法による視覚効果により変化する標章の変化の状態が特定できる一又は二以上の図又は写真で特定する。また、詳細説明に、ホログラム商標であること、その状況を説明する。なお、先行する著作権(ホログラム(美術)の著作物)と交錯するおそれある。また、先行著作権者等への権利行使は困難である。
3、「色彩」の商標
従来から文字や図形に色がついているものは商標登録できたが、「色彩のみからなる」も商標登録できるようになった。例えば、商品の包装紙や広告用の看板に使用される色彩のようなものが挙げられる。
単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標、例えば、商品の包装紙や広告用の看板に使用される色彩などである。例えば、セブン-イレブンは、豪州で、白を背景にオレンジ色、緑色、赤色の三本の平行線の組み合わせでの色彩商標の登録を受けている(次図参照)。
登録例(オーストラリア特許庁)
使用例
また、単色だけでなく、色彩を組み合わせたものも「色彩のみからなる商標」の保護の対象となる。
その他、色彩のみからなる商標は、原則としては、識別力がない、しかし、使用をされた結果需要者が何人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるに至っているものについては識別力ありとしうる。当然に、出願時、色彩を表示した図又は写真と。商標の詳細な説明は必須である。
4、「音」の商標
「音」とはCMなどに使われるサウンドロゴやパソコンの起動音などです。音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標。
例えば、「windowsの起動音」もアメリカなどでは商標登録されています。
また、久光製薬「サウンドロゴ」、「ヒ・サ・ミ・ツ~♪」は以下である。
その他の参考「音」の商標
「音」の商標に関しその他の注意点としては、自然音は識別性が無いので、原則として登録されない。出願時には、商標は上記のように、五線譜(音符・音部記号・テンポ・拍子記号・言語的要素)、文字での記載により特定する。また、商標がピアノで弾いた音声商標であって、音声ファイルがギターによる音声ファイルである場合は、ピアノによる音声ファイルにする補正は要旨変更にならず、可能である。
他法との関係としては、先行する著作権(音楽の著作物)、著作隣接権(実演家/レコード製作者の権利)と交錯するおそれがあるし、先行著作権者等への権利行使は困難である。
5、「位置」の商標
「位置商標」とは、図形などが商品の特定の位置に付されているもののことをいう。例えば、非常に簡単な図形であっても、常に商品の同じ場所に付されていることで、消費者が特定の企業の商品であると認識するようなものがあげられる。
参考商標として以下のものがある。
1,包丁の柄の特定位置に
2,ゴルフバッグの下部位置に。
出願の注意事項としては、商標を実線、その他の部分を破線で描く等により、商品中の位置を特定できるようにした一又は異なる二以上の図又は写真を提出すること。
「継続的使用権」の発生について。(位置商標については、従来から保護が認められていた商標について、その商標を付す位置が特定されるにすぎないものであることから、継続的使用権は、発生しない。一方、施行日前から使用している残る4つの、新しいタイプの商標については、商標登録をしなくても、従来の業務範囲内で使い続けることができる。つまり、継続的使用権が発生する。
(この法律は、2015年4月1日施行された。)
西郷義美(さいごう・よしみ)…1969 年 大同大学工学部機械工学科卒業。1969 年-1975 年 Omark Japan Inc.(米国日本支社)。1975 年-1977 年 祐川国際特許事務所。1976 年 10 月 西郷国際特許事務所を創設、現在に至る。
《公職》2008 年 04 月-2009 年 03 月 弁理士会副会長、(国際活動部門総監)
《資格》1975 年 弁理士国家試験合格(登録第8005号)・2003 年 特定侵害訴訟代理試験合格、訴訟代理資格登録。
《著作》『サービスマーク入門』。商標関連書籍。発明協会刊 / 『知財 IQ」をみがけ』。特許関連書籍。日刊工業新聞社刊
西郷国際特許事務所
〒101-0052 東京都千代田区神田小川町2丁目8番地 西郷特許ビル
TEL : (03)3292-4411(代表) ・FAX : (03)3292-4414
Eメール : saipat@da2.so-net.ne.jp
Eメール : saigohpat@saigoh.com