人材不足時代を乗り切るには「社内報」を使え
イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ!その15
人材不足時代を乗り切るには「社内報」を使え
◆文:佐藤さとる
最近近所のファストフード店がポツポツと消えている。「人気メニューがないのかなぁ」とか思っていたら、ソレ以上に人がいなくなったことが原因らしい。確かに人がいなくなった。真因は日本の人口が減っていることだが、それにしても急だ。
帝国データバンクが日本中の企業にアンケートして聞いたら、4割の企業が正社員の不足を感じているということがわかった。なかでも建設業界、IT業界の人手不足は際立っていて、6割の企業が正社員が足りないと思っているらしい。
実際は「思っているらしい」というような、生半可な感じではないようだ。今年3月に日本建設業連合会が発表した内容ではなんと「2020年代までに100万人が離職、技能労働者が現在の6割にまで落ち込む」と推計し、「業界の根幹を揺るがす本質的危機」とまで言わしめている。
建設業界までとはいかなくとも、人手不足が企業活動の手枷足枷になるのは必至だ。なりふりかまってなどいられない、早急に人口増加のためのあらゆる政策を行うべきだということは、たいがいの日本人は思っている。
無論即効性はない。効果が見えるまでには10年、20年の時間を要する。
じゃ、それまでどうすりゃいいのか?
現有の人財を活用するのだ。IT化とかロボット技術の活用はその1つだろう。ただそれだけの投資ができる企業は限られている。中小企業にはそこまでの体力はない。
成果主義の名の下に人事制度や給与体系を変えるという方法もある。できる社員により高い報酬を与え、それなりの社員にはそれなりの、“やっぱダメじゃん〟という社員には、従来より低い給与にする。それでも頑張れない社員にはお引き取り願う。かくして御社には優秀な精鋭部隊が残る……。
そんなことをしたら、全く逆効果なのは火を見るより明らかである。すでに歴史が証明している。社員を有名セミナーや研修に出すというのはどうか。セミナーや研修は、日が経つにつれてその効果曲線は下がっていく。だから定期的に参加しないといけない。結構お金と時間がかかる。そもそも人手不足の折に、社員を研修に通わせる余裕などないだろう。
妙案はないのか……。
ある。社内報を発行するのだ。それも紙で。ネット時代にそんなレトロスペクティブな媒体を持ち出す気がしれない……。良識的な経営者はそう嗤うだろう。でも効果はある。
もし社員100の人手不足の中小企業があって、1人新たに入れるつもりなら、その原資を社内報発行に使ったほうがいい。社内報で社員のパフォーマンスを1%上げれば、1%×100人で1人分の効果は現れる。もちろん「そんなの数字のお遊びだ」と断じてもらっても構わない。
「トランザクティブメモリ」という言葉をごぞんじだろうか。「組織の記憶力」と呼ばれるもので、組織のメンバーが「他のメンバーが何を知っているかを知っている」ことを意味する。ややこしい言い回しだが、「このことだったら、総務の山崎に聞きゃ、何とかなる」「コスプレ業界の案件だったら、仙台支店の田中に聞きゃ分かるだろ」ということが社員全員に共有されていることだ。
もちろんワタシが言っているのではなく、カーネギーメロン大学とかMITなどアメリカの経営学者たちが事例で証明しているのだ。問題はどうやって組織の記憶力を上げるか、である。
そこで社内報登場というわけだ。「田中がどんなことを知っているのか」は、田中と何度か飲みに行けばわかるかもしれない。しかしそのための時間とコストを考えたら、俄然社内報が有利だ。というのも社内報は「社内の遠い人を結びつけるコストパフォーマンスの高いメディア」だからだ。ここでいう「遠い人」とは、社長と新入社員のように「立場が遠い人」、営業と生産など「意識が遠い人」、本社と海外工場など「距離が遠い人」たちのことだ。こうした遠い人といちいち“飲ミュニケーション”は取れない。
社内報で「ここにこんなスキルを持っている」「こんな人脈を持っている」社員がいることを知らせれば、距離はぐんと縮まり、会社のパフォーマンスは、ぐんと上がる。
嘘だと思うなら、発行してみればいい――なんかどっかの袋麺のCMみたいだが、本当だ。最も、コツはある。それは……次回にでも。
イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。