復活した特許異議申立て制度と無効審判制度
復活した特許異議申立て制度と無効審判制度
◆文:西郷義美(西郷国際特許事務所所長・元弁理士会副会長・国際活動部門総監)
競合会社が、どうも我が社と同じような内容の特許を特許庁に出したようだ。後から出しているので、とても許せない。しかも、どうも特許になるような気配であり、落ち着かない。特許庁の審査官も、我々が実施していることを知らないようで、権利化を許す気配である。どうしたらよいだろう。
今までは、特許になってから無効審判でつぶしていた。しかし、これでは大げさすぎて大変問題である。 審査官に一方的に、こんな先行技術がありますよ、と通報し知らせる情報提供制度があった。これもいろいろ問題があり使いにくい。 そんなこんなで、困っていた。昔あった異議申立て制度が懐かしい。
そんなことを考えていたら、どうもこの頃、その異議申立て制度が復活した。今回はそれについて述べることにする。
復活と言っても、昔の制度とは違う部分がある。改良されてのデビューである。
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改正の目的は、特許権の早期安定化を可能とするため、簡易な手続でかつ迅速な審理が可能な特許異議の申立て制度を創設すること。異議申立て制度と関連する特許無効審判制度については、請求者を利害関係人のみに限ることとした。
◉具体的な改正内容は、
何人も、特許掲載公報の発行の日から6月以内に限り、特許異議の申立てをすることができるものとする。
審理は書面審理によるとする。また、審判長は、特許の取消決定をしようとするときは、特許権者及び参加人に対し意見書を提出する機会を与えることとする。また、特許権者から特許請求の範囲等の訂正の請求があったときは、特許異議申立人に対し意見書を提出する機会を与えることとする。
特許無効審判については、利害関係人のみが請求できる。
なぜ、特許異議を復活させたか、それは、特許無効審判は厳格な審理で、信頼性が高いが、一方、手続に係る負担が大きい。その為、近年は利用件数が伸び悩んでいた。
企業は国際出願件数を年々増加させており、海外展開の上で、その基礎となる国内の特許権を早期に安定化することの重要性はますます高まっている。
こうした状況を背景に、強く安定した特許権の早期設定の実現のため、第三者の知見の更なる活用、つまりウォッチングの必要性が高まっている。そこで、特許異議の申立てを復活というか創設した。
◉新制度のメリットは、
無効審判に比べて申立期間が限られるため、早期の権利見直しが見込まれる。
申立人による手続負担を軽減させつつ、意見を提供する機会を拡充することにより、強く安定した権利の早期設定が可能となる。
◉さて、その新制度の骨子は、
①特許後の一定期間(6か月間)に限り、何人も申立てができる。
②申立理由は公益的事由(新規性、進歩性、記載要件、補正要件等)のみである。
③書面審理とする。
④申立書の理由及び証拠の要旨変更が可能な期間を、申立期間が満了する時又は取消理由が通知される時の何れか早い時までに制限した。
⑤複数の申立てがなされた場合、審判合議体が全ての申立理由を整理し、まとめて審理することを原則とする。また、特許権者が希望すれば、申立期間の経過を待つことなく速やかに審理を開始する。
⑥申立ての内容について、審判合議体で審理し、特許の取消理由があると判断した場合にのみ、特許権者に取消理由を通知し、意見の提出及び訂正の機会を与える。
⑦手続の中で特許の訂正がなされた際に、申立人が意見を提出できるようにする。
⑧特許の取消しを受けた権利者のみ、不服の場合に東京高等裁判所(知的財産高等裁判所、以下「知財高裁」という)に出訴が可能である。
◉無効審判・訂正審判との関係は、
①特許異議の新制度創設に併せて、無効審判の請求人を利害関係人に限定した。
②無効審判と同様に特許異議申立てが特許庁に係属した時から決定が確定するまでは、訂正審判の請求を制限する。
旧制度を特許無効審判に一本化した経緯を踏まえ、この新制度に以下の改良を行っている。
◉旧制度からの改善点は、
1.特許異議申立人への意見提出機会の付与。
特許権者による訂正請求があった場合には、申立人にもこれに対する意見提出を認める。旧制度では、申立人に意見提出が認められておらず、申立人が審理結果に不満を持ち、改めて特許無効審判を請求するケースが見られた。
2.全件書面審理
旧制度では、口頭審理もあり得たのに対し、書面審理のみとする。申立人、権利者双方の負担を軽減するためである。
◉特に注意する点は、
1.匿名での特許異議の申立てはできない。
2.申立てについて要旨を変更する補正は原則認められない。
3.不服申立ての制限がある。つまり、維持決定(取り消しにならない場合)については、不服申立てをすることができない。一方、取消決定については、知財高裁に訴えの提起が可能である。
4.特許異議の申立てと、特許無効審判との間に、一事不再理の規程はない。つまり、特許異議の申立てと同じ理由、同一証拠による無効審判の請求が可能である。
◉その適用事件は、
1.施行日以降に、特許掲載公報が発行された特許が対象。
2.施行日以降に、請求された特許無効審判について適用される。
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この新制度は、平成27年4月1日から施行されている。
西郷義美(さいごう・よしみ)…1969 年 大同大学工学部機械工学科卒業。1969 年-1975 年 Omark Japan Inc.(米国日本支社)。1975 年-1977 年 祐川国際特許事務所。1976 年 10 月 西郷国際特許事務所を創設、現在に至る。
《公職》2008 年 04 月-2009 年 03 月 弁理士会副会長、(国際活動部門総監)
《資格》1975 年 弁理士国家試験合格(登録第8005号)・2003 年 特定侵害訴訟代理試験合格、訴訟代理資格登録。
《著作》『サービスマーク入門』。商標関連書籍。発明協会刊 / 『知財 IQ」をみがけ』。特許関連書籍。日刊工業新聞社刊
西郷国際特許事務所
〒101-0052 東京都千代田区神田小川町2丁目8番地 西郷特許ビル
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