会社内で完成した発明(職務発明)は誰のものか? ‐ 西郷国際特許事務所
会社内で完成した発明(職務発明)は誰のものか?
◆文:西郷義美(西郷国際特許事務所所長・元弁理士会副会長・国際活動部門総監)
発明は自然人(法人の対立概念)のみが生みうる。血の通った人間でなければ、あーでもない、こーでもないと、試行錯誤し考えて、ついに発明を完成することはできない。その通りである。
会社は、法律が作った(想像上の)人格であり(だから、法人)、所有者となり得ても、創意工夫ができず、作り手である発明者とはなり得ない。
そこで、発明の本来的な持ち主(原始的帰属者という)は、その自然人である発明者である、とするのが日本の特許法である。
いわゆる、会社内で完成した発明(職務発明)は、誰のものか?という問題の答えである。
そして、発明者は特許権者となることができ、会社はそれを使わせて頂く者(法律では、当然に使える、との書き方であるが)、という構図ができあがる。いわゆる、職務発明による通常実施権の発生である。
ここで、職務発明の考え方として、一般に発明の概念を3つほどに場合分けするのが普通だが、分かりにくい。2つに分ける。会社が我々のものだといえる余地のある「職務発明」と、会社介入の余地のない「自由発明」(従業員が会社と無関係に完成した発明)の2つである。
この職務発明の帰属に関し、いろいろな混乱が生じた。
会社としては、発明すべき立場の従業員が、会社において発明したのであるから、会社が持ち主になっても当然ではないかと考える。そして、一律に譲渡させ、会社が特許権者となるのがほぼ一般的である。
そして、発明が生まれるまでの強力な支援は元より、この発明を育て、製品とし世に出したのは会社である。それまでには、大変な労力と創意工夫が必要であった。決して、あなただけの力ではここまで来なかった、と。
しかし、会社が莫大な利益を上げると、職務発明の発明者も納得がいかない。この発明の原始的帰属者は私だ、もっと貰う権利があると考える。
私がいなかったらこの大発明はなかった。だから、その莫大な利益の成果の一部分は私が貰うべきだと。
この問題が顕在化したのが、例えば、オリンパス訴訟や青色ダイオード訴訟である。青色ダイオードは未開発だった青の生成に成功した。これで光の三原色である赤緑青の全てが完成し、これによりこの世に存在するほとんど全ての色を作り出せることになった。
これほどの成果にもかかわらず、当初、中村修二氏(2014年ノーベル物理学賞受賞、カリフォルニア大教授)は、日亜から2万円の「相当な対価」だけを受け取っただけだった。このことで、アメリカの友人研究者から「スレイブ(奴隷)ナカムラ」とからかわれるほどであった。
そして、中村修二氏と日亜化学工業の特許訴訟に発展していく。東京地裁は、日亜に200億円の支払い判決を下した。その後、結局は和解が成立し、8億円ほどとなった。
産業界側は考えた。これでは利益はなくなる。特許法を改正すべきだと。
そこで、会社と従業員が、特許権の譲渡に関して「相当の対価」の額の決定をした際、「それが、妥当な話し合いで決まった場合は、後で(退職後などに)、更に金を払えとの訴訟は出来ない」との法改正が成立した(1回目の法改正)。(H16年改正、H17年4月1日施行)。
なお、世界の主要国の現状はどうか。ザックリいうと、米国とドイツは発明者に原始帰属、一方、フランスと英国は使用者に原始帰属すると現行法は規定している。
しかし、この1回目の改正があっても、職務発明者による会社を相手とする訴訟はやまず、産業界は再度の法改正を願った。この法改正が、いわゆる2回目である。中村修二教授が一石を投じた問題にほぼ結論が出た。
特許庁が、職務発明の原始的帰属者を従来の社員から会社に変更する一方、発明した社員への報奨を義務づける双方の立場を尊重した方針を発表した。
結局、世界の趨勢は、「職務発明は会社のもの」になりつつあり、日本もそれにならった方向となった。ポイントは従業員に対する報奨をどう扱うかである。
余りに冷酷に過ぎると、頭脳の流出を招き、その組織のみならず、国としても不利益を被ることになる。いわく「和を以て貴しとなす」であろうか。
西郷義美(さいごう・よしみ)…1969 年 大同大学工学部機械工学科卒業。1969 年-1975 年 Omark Japan Inc.(米国日本支社)。1975 年-1977 年 祐川国際特許事務所。1976 年 10 月 西郷国際特許事務所を創設、現在に至る。
《公職》2008 年 04 月-2009 年 03 月 弁理士会副会長、(国際活動部門総監)
《資格》1975 年 弁理士国家試験合格(登録第8005号)・2003 年 特定侵害訴訟代理試験合格、訴訟代理資格登録。
《著作》『サービスマーク入門』。商標関連書籍。発明協会刊 / 『知財 IQ」をみがけ』。特許関連書籍。日刊工業新聞社刊
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