海外進出の際に現地の会計・法制度に適応するために知っておきたいこと – 冨田和成 株式会社ZUU
◆文:冨田和成(株式会社ZUU代表取締役社長兼CEO)
今回は、海外進出の際に、現地の会計・法制度に適応する方法についてご紹介させて頂きます。
近年、様々なメディアで「グローバル化の必要性」が喧伝されて久しいですが、日本企業の海外進出はここ10年、確実に増加しています。日本企業による海外への新規進出件数を見ていくと、90年代から日本企業の海外進出は中国、アジアを中心に大きく増加を続けていることが分かります。
2013年のJETROの調べでは、円高修正や国内景気回復の流れにも関わらず、日本企業の海外事業展開に対する意欲は引き続き高い水準にあるとのこと。輸出の拡大に積極的な企業の割合が増加をみせている他、海外進出(新規投資、既存拠点の拡充)についても、依然として6割超の企業が拡大を志向しています。
また2012年より外務省、JICAにより「ODAを活用した中小企業等の海外支援」が開始され、日本政府による企業への海外進出サポートの取り組みも充実してきており、日本企業の海外進出は今後さらに活発になっていくと考えられます。
しかし、このような日本企業の進出の際に、大きな問題となるのが、進出先地域と日本との法律・制度の違いです。特に海外支店・子会社の設立に伴う、現地での決算および法人税申告に当たっては、十分に日本との会計・法制度面での違いを理解しておく必要があるでしょう。
まず、一般に決算及び法人税申告流れをおさらいしましょう。
- ・日次・月次で取引(売上・仕入れなど)内容を記録
- ・会計年度終了後、取引内容を集計し、残高試算表、損益計算書、貸借対照表などの決算書を作成
- ・財務諸表の監査及び取締役会、株主総会において承認
- ・決算報告書を作成し、税務署で確定申告および納付
このような決算・法人税申告の流れは海外でも基本的に同様です。ただ、海外において決算・法人税申告を行う場合には、以下の会計制度・法制度の違いに関して注意する必要があります。
会計制度の違い
まず会計制度の違いを理解しておく必要があるでしょう。現在、世界的に国際会計基準(IFRS)の導入が進んでいる一方、日本では未だに日本基準の会計制度が採用されていることが多いです。しかし、日本企業の進出先として大部分を占めるアジア諸国に関して見ていくと、EUでIFRSが上場企業に強制適用となった2005年以降、IFRSの自国基準への採用が進んでいます。
法制度の違い
【制度】 国により会計期間が異なる場合があることはよく知られています。例えば中国では、会計期間は1月1日~12月31日までとなっています。多くの日本企業では会計期間が4月1日~3月末日までとなっており、注意が必要でしょう。これに対して、ベトナムでは会計期間は原則1月1日~12月31日までとなっているものの、ベトナム財務省への通知があれば3・6・9月を決算月とすることもできるなど柔軟な対応が可能となっています。
【手続き】 また確定申告の期限についても、日本が「会計年度終了から2ヵ月以内」であるのに対し、インドネシアでは「会計年度終了から4ヵ月以内」、中国では「翌年5月末まで」となっています。そのため日本の場合より会計期間終了から確定申告期限までの期間が長くなっています。しかし、実際には中国では春節期間の休暇時期が、決算書監査の時期と重なることなどから、業務の完了時期に関して注意が必要でしょう。
中国で海外子会社を設立するとしたら
次に中国において海外子会社を設立した場合、決算及び法人税申告に際して、どのような手続きが必要となるかを見ていきたいと思います。
中国本土では、法人税は企業所得税と呼ばれており、中国の法制度にもとづき設立された法人について全世界の所得を対象として課税されます。この企業所得税納付は、日本と同様に会計年度終了に伴い、決算により対象年度における課税所得を計算します。監査を実施した後、確定申告を行い、税金を納付するという流れになります。
その具体的な実施項目を以下に示したいと思います。
1.決算
まず会計年度終了後、決算書を作成する必要があります。中国では2007年からIFRSに準拠した「企業会計準則」に従った決算書の作成が定められています。ただし「中国基準」と「IFRS」の間には一部の会計処理において異なる処理が規定されていることに注意が必要でしょう。
2.会計監査
決算書が作成できたら次に、決算書の監査を行います。中国における決算書の監査は監査証明資格が中国登録会計士に限定されており、日本の公認会計士では監査を実施することができないため、現地で信頼できる会計事務所を見つけることが重要となります。
3.確定申告
会計監査により、決算書の数値が確定した場合確定申告を行います。この確定申告に関してはインターネットを通じた方法と直接主管税務機関で行う方法があります。現在、中国では多くの地方でインターネットを通じて確定申告ができるサービスが提供されています。
例えば上海市では「上海財税ウェブサイト」のネット税金処理のページから企業所得税計算用のアプリをダウンロードして、「企業所得税年度納税申告表」と「居住納税人財務会計報告」のデータを入力後、電子申告企業端末ソフト「eTax@SH」を通じて主管税務機関へ転送することで、企業所得税年度納税申告を実施できるサービスを提供しています。
ただし納税企業の業務が「ハイテク技術」、「ソフトウェア」などに係る場合には、対象の技術に基づく製品・サービスの売上、研究開発費など追加入力が必要となる項目があります。また上記の入力に加え、申告内容によっては納税申告資料を提出する必要があるので、詳細を現地の会計事務所に確認し、十分に理解しておきたいところです。
今後の展望
現在、自国への企業誘致や財務の透明性確保の観点から、会計制度や法制度における国・地域間の差異は徐々に小さくなる傾向にあります。その一方で、各国独自の商習慣に基づく制度上の差異や手続き上の違いは、今後もなくなることはないでしょう。
そのため、上記のように日本企業が海外進出を検討する際、現地の専門機関と相談し、日本との会計・法制度の違いを十分に理解した上で、決算・法人税の申告を行うことは、トラブルを未然防止する上で非常に重要となるわけです。
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【プロフィール】
冨田和成(とみた・かずまさ)…神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。
◆2015年1月号の記事より◆
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