冨田和成 株式会社ZUU ‐ 中小企業の海外進出について 海外進出のパターンと最近のトレンド
◆文:冨田和成(株式会社ZUU代表取締役社長兼CEO)
2012年の安倍政権誕生以降の円安傾向への転換。想い返せば、2007年から昨年末まで日本は随分長いこと、円高傾向にありました。この間、多くの製造業が国外進出ニーズの高まりを受けて、海外に雄飛していきました。
当時野村證券で働いていた私もシンガポールとバンコクに赴任し、現地の富裕層(華僑系)向けのプライベートバンクビジネスや、リテール部門のアジア戦略を担当していました。やはり多くの企業様にとって海外進出は情報の非対称性が大きく、なかなか情報収集や信頼できる専門家の確保などに苦労されているとよく拝聴します。
ZUUでは、海外進出の専門家ネットワークを組織化し、海外進出や海外移住をサポートするためのプラットフォーム、▶海外進出online(http://kaigai.zuuonline.com)を立ち上げています。読者の皆さんも、もし宜しければ覘いてみてください。
私自身、ネットワークを組織する過程で、最近のトレンドが以前より深い深度で見えるようになりました。そこで、今回からシリーズで、アジアを中心とした進出国の選び方や地域ごとの特徴、海外進出の注意点、また海外進出のトレンドなどについてお伝えしていければと思います。
企業の海外進出目的の3パターン
はじめに、企業が海外進出を考える理由をおさらいしたいと思います。一般的に下記の3パターンに分けられます。
1・製造コストの低減
「日本国内での生産では価格競争で負ける」として、廉価な労働コストや原材料コストなどを求め、開発途上国などに製造拠点や原材料調達拠点を作る場合です。これらは、主に円高時に強く志向されます。
2・海外販売市場への参入
売上げ拡大を目指して、販売市場として有望な地域へ販売拠点・製造拠点の設立を図るものです。昔は、世界最大の販売市場である米国がその主立った候補地でした。しかし近年は成長著しいアジアの国々も販売市場先として有望視されています。これは、主に円安時に強く志向されますが、国内マーケットの成長性の良し悪しなども影響します。
3・取引先の、海外進出に伴う参入
1980年代における自動車業界の米国進出の際に、現地調達条件の充足などを背景とし、完成車メーカーからの進出要請に応ぜざるを得なかった「系列」部品メーカーは数多くありました。近年の中国進出ラッシュや、アジア各国へのシフトでも事情は変わりません。自社としては海外進出をする理由も計画も無く、やむを得ず進出を行うので、お困りになる企業がよく見受けられます。
ビジネス的視点からの海外進出・移住の背景
さて、前記を前提に、直近の企業の海外進出熱の高まりの背景を振り返ってみたいと思います。
2004年から2007年まで円安が続いておりましたが、そこからは円高が進み、経営者・企業は、この時期に海外進出・M&Aを進めました。円高は製造拠点などの海外進出を意識させ、同時に現地企業などに対するM&Aや資産購入にも有利に働きます。
その行先としては東南アジアで、特に、インドネシア・マレーシア・タイ・ベトナム・フィリピンなどが多かったと言えます。特に、消費材などを扱うメーカーやIT企業などの場合、シンガポール・香港を拠点として、東南アジア全体をカバーするという事例が多くありました。
それがアベノミクス以降、為替トレンドは急激に円安にシフトし、製造拠点の海外移転熱はおさまっています。ただ、消費地の近くでの生産志向や現地政府からの要望、優秀な人材確保などの目的から製造拠点の海外移転が無くなった訳ではありません。
また、最近の傾向である興味深い事例として、一度日本で成功し会社を売却したような起業家の、第2の挑戦の場としてもアジア各国は選ばれているようです。特にシンガポールや香港がそれに当たりますが、主な理由は、右肩上がりの成長市場が近隣に存在することと法人税や所得税などの低い税率です。法人税に関しては香港が16・5%、シンガポールは17%、マレーシアは25%、また所得税の最高税率はシンガポールが20%で、マレーシアは26%です。このように、日本に比べて割安な各国税制は、市場の成長性とともに魅力的に映るようです。
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今回は以上となります。2014年、更にグローバル化が加速すると思われる多くの企業様の参考になれば幸いでございます。本年も何卒宜しくお願い致します。
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【プロフィール】
冨田和成(とみた・かずまさ)…神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。
◆2014年2.3月合併号の記事より◆