ブランドで勝って収益で泣くIt’s a SONY.
イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ!9
ブランドで勝って収益で泣く
It’s a SONY.
◆文:佐藤さとる(本誌 副編集長)
ソニーという会社は、イマドキの若者にはどう映っているのだろう。気になるので手許の辞書を引いてみる。
【ソニー(英文表記:SONY)】 世界的に事業を展開している家電AVメーカーの一つ。2000年以降、業績はすこぶるぱっとせず、リストラが続く。これからも…たぶん。
もちろんそんな辞書はない。でも大方の日本人は納得すると思う。
そんなソニーがあのリンゴのマークの会社を買収しようとしていたと言ったらのけぞる若者もいると思う。
でもオジさんは言うぞ。昔のソニーは凄かったんだぞと。我が家に来たカラーテレビはソニーだったし、ラジカセもソニー。CDプレーヤーもソニーだったぞ(なんか投資額小さいけど)。でもバイオとかプレミアムなPCもつくったし、アイボという未来ロボット犬もつくったりした。最先端なものは何でもソニーだった。米国企業の派手な買収も手がけた。世界のソニー、まさに「It’s a SONY」だった。
だが世紀をまたいで世界を席巻しだしたのが、サムスンであることは、ご承知の通りだ。何かとギクシャクしているこの時期にお隣の大メーカーを引き合いに出すのは気が引けるが、何がソニーを凋落させ、サムスンを躍進させたかの芯は突いておきたい。
ソニーの2013年度の売上高は7兆7000億。営業利益が約364億円で、営業利益率は約0・3%。前期は670億の赤字であることを考えるとよく頑張ったと言えるのかもしれない。対してサムスンの売上高は約22兆3000億円。営業利益は約3兆6000億円。営業利益率は実に16%。完全に勝負はあった。国内他メーカーも同様だ。黒字を確保している家電AVメーカーで5%の営業利益率を超えた企業はない。
なぜサムスンはこれほどの収益力を持つに至ったのか。かつて韓国製と言えば、品質的に日本製に劣ると言われてきた。それが90年代に技術開発に積極的な投資を図ることで、質的な向上を遂げた。もちろん躍進の秘鑰はそれだけではない。
実はサムスンは90年代半ばより、経営資源としてのデザインに着目したのだ。「技術や機能が同じなら、最後に差がつくのはデザイン」とし、「デザイン革命」を96年に発動する。内外優秀なデザイナーの確保に乗り出すと同時にダイナミックで緻密なデザイン戦略を打つ。
ソウルを拠点とし、アジア(東京・上海)、ヨーロッパ(ロンドン・ミラノ)、北米(ロサンゼルス・サンフランシスコ)などの主要マーケット6カ所にデザインセンターを設置、地元の優れたデザイナーを登用し、マーケットに合ったデザインを徹底して追求した。そして数年をかけて地元の権威あるデザイン賞の獲得を目指し(日本で言えば、グッドデザイン賞みたいな)、それを達成するとそれをサミットや国際イベントの機会を捉えてメディアに露出させ、デザインの優位性をアピールしたのだ。いつしかヨーロッパでサムスンは「クールなブランド」と認知されるに至る。
知人の工業デザイナーはサムスンの成功について、「世界ブランドとして確立していなかったからこそできたこと」と語っていた。
つまりすでに世界ブランドを確立していたソニーは、地域に応じたこまやかなデザイン戦略の必要を感じなかったから失敗したのだと。なにせ世界の誰もが認知する「SONY」だもの、受け入れないのは「お客の目がないだけだ」と。
実はこの発想は日本のメーカーに共通した宿痾と言ってもいい。品質の高い日本のブランドメーカー様がつくったのだ、売れないのは、質を理解できない客が悪いのだ、と。でもいくら質が良くても、ダサかったら売れないでしょ? そもそも質の善し悪し、商品の価値は客が決めるものだ。売り手がいかに素晴らしい商品だと力説しても、お客の頭のなかで「買うに値するブランド」が形成されなければ、商品価値はゼロだ。
世界的ブランドコンサル会社、インターブランド社が毎年発表しているブランド価値ランキングによると、2012年のソニーの順位は46位。対するサムスン(サムスン電子)は8位である。──It’s a SONY.
イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。