不動産売買における土壌汚染に関する法的リスクと不動産鑑定評価
不動産売買における土壌汚染に関する法的リスクと不動産鑑定評価
◆文:弁護士・不動産鑑定士 安藤晃一郎 (中島・彦坂・久保内法律事務所)
1 土壌汚染と不動産売買
近年,都心部では広範なマンション用地の確保が困難になっているなどの事情を背景に,工場跡地などにマンションを建設する動きが広まっています。売買契約後に土壌汚染が発覚した場合,買主が売主に対して売買契約の解除や損害賠償を請求することができる場合があります(瑕疵担保責任・民法570条)。ただ、このような紛争に巻き込まれることは、解決までに膨大な時間と費用をかけることになりかねませんから,不動産の購入時にできるかぎり土壌汚染がないことを確認した方が好ましいのは明らかです。
2 土壌汚染の調査
土壌汚染の調査に当たっては,専門業者に依頼し,サンプリング調査や深度調査等の本格的な調査を行えば,より精度の高い調査報告をえることができますが,かなり高額な費用がかかります。
そのため,調査をする前から土壌汚染の疑いが高い物件ではない限り,購入を予定している物件すべてについて本格的な調査を行うのは現実的ではありません。そこで,当事者が簡易調査を行い,土壌に問題がある可能性があるかを調査します。調査は,土地の引渡しまでは売主が行うのが一般的ですので,買主はその調査がなされたかを確認することになります。なお,宅地建物取引業者の仲介を依頼する場合には,土壌汚染に関する情報の収集を仲介業者が行うことを媒介契約書に明記しておきましょう。
現地調査
購入予定者も購入を予定している不動産の現地調査を行うべきです。現地や周辺の状況を実際に確認することによって発見入手できる情報が数多くあるからです。現地調査を行う際には,周辺の居住者等から過去の土地利用の状況等について聞き取りを行うことも有用です。
そして,現地調査では,土壌が不自然な色をしていないか,草の生育が周囲と比較して不自然ではないか,隣地に金属製品製造工場などがないか,(工場等の建物が残存している場合には)PCBを使用している機器が保管されていないか,煙突や屋外焼却炉など物を燃やせる設備がないかなどを確認します。
地歴調査
購入を予定している不動産の地歴調査も行うべきです。過去地図,航空写真や登記簿謄本(閉鎖謄本も含む)などを収集し,対象地が過去にどのように利用されてきたのか,現在は工場として使用されていなくても過去に工場として使用されていないかなどを確認します。
また,役所でも土壌汚染対策法の規制対象となっていないか確認すべきです。役所調査の際には,有害物質を排出している施設として届出がなされている土地がないかや,②法律で浄化措置を採ることが求められている土地に指定されていないかといった事項を聴取します。
3 土壌汚染が発見された場合の不動産価格の減価について
土壌汚染があることが判明している土地の評価は,『土地汚染されている土地の評価額=①土壌汚染がないものとしての土地価格-②浄化措置費用-③阻害減価-④心理的嫌悪感等による減価』となります。
このうち,③の阻害減価とは,汚染除去作業やモニタリングを行っている期間は当該不動産を使用することができないことによって生ずる減価をいいます。モニタリングの期間は,汚染の程度によりますが,年単位の期間を要することもあります。
④心理的嫌悪感等による減価とは,「スティグマ」とも呼ばれ,対象地が,過去に土壌汚染されていたという事実が,需要者(住民等)にとって心理的な嫌悪感となり,汚染のない土地と比べれば減価の要因となることをいいます。土壌汚染を浄化し,土壌汚染は解消している土地でも過去に土壌汚染が存在した事実が需要者を遠ざけることになるため減価要因となります。
この心理的嫌悪感等による減価は,浄化直後の心理的嫌悪感が最も減価の程度が大きく,時間の経過に伴って減価の程度が逓減していきます。
4 土壌汚染が発見された土地の売買に当たって留意する事項
(1)土壌汚染が存する土地を購入する場合には,売主が汚染除去費用を負担するにしても,汚染の除去を,売主・買主のどちらが,いつまでに,どのような浄化措置を講じるのか協議をし,協議の結果を売買契約書に明記しておく必要があります。
(2)売主が汚染を除去した上で買主に引渡を行うことが多いですが,買主が汚染の除去を行う代わりに,汚染除去に要する費用分を売買代金から減額するという手法を採ることもあります。
そして,浄化の方法としては,複数ありますが,一般的には汚染された土壌を掘削除去する手法が採用されています。
(3)さらに,土壌が汚染されていることが後日判明することがありますので,その場合にも売主が責任をもって対処する旨の条項を入れておくことが肝要です。また,法律で浄化作業の実施主体は,例外的な場合を除いて,土地所有者であると規定されているので,土地所有権の移転時期を,浄化作業が完了した時点とするなどの特約を設ける必要があります。
5 最後に
土壌が汚染されている土地は,通常の土地にはない減額要因がありますので,価格的にはお買い得感はありますが,適切に対応しないと思わぬ費用負担となり,また,浄化作業が終了するまで土地を使用することができないなどの危険性もありますので,購入を検討する際には,弁護士や不動産鑑定士などの専門家に依頼した方が安全です。
弁護士・不動産鑑定士 安藤晃一郎
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自己紹介
私は,不動産鑑定士資格を有する弁護士として,家賃減額,建物明渡,借地権を巡る不動産取引など不動産案件を数多く取り扱っております。
不動産案件は,当事者間に不動産に関して保有している情報に格差があるためトラブルが起きやすく,また,個々の不動産で事情が異なるため,物件調査や契約書のチェックなど専門家の関与が必要不可欠です。不動産案件に関してご不安な点がありましたら当事務所までお気軽にご相談ください。
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◆2014年10月号の記事より◆
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