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イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ!

100点満点主義って、結局満点以上は出ないんじゃないか

◆文:佐藤さとる (本誌 副編集長)

 

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航空宇宙ファン垂涎の展示会「2014NASA・JAXAの挑戦」が9月23日まで千葉の幕張メッセで行われていた。航空宇宙ファンでなくとも堪らないはずだが、かく言うワタシは行かなかった。行ったらきっと泣いてしまうからだ。だってあの「はやぶさ」のレプリカと持ち帰った微粒子が展示されているのだ。

はやぶさはドラマが多すぎた。途中3年間も漆黒の宇宙空間でみなしご状態になるし、4基のエンジンはすべて止まってしまうしと、絶望と奇跡の連続だった。しかも最後は我が身を燃やして微粒子の入ったカプセルを帰還させたのだ。涙腺を抑え切る自信はない。

なにせプロジェクトリーダーの川口淳一郎さん本人が「信じられない結果」と発言しているくらいだから。

 

そんな川口さんのはやぶさプロジェクトの自己評価は100点満点でなんと500点だという。「ま、信じられない結果を残したんだから、確かにそのくらいのインパクトはあるかなぁ」と納得したら技術は革新しない。川口さんは最初から100点満点で500点を設定していたのだ。掲げた点数は次のようなものだった。

 

50点―電気推進エンジン稼働開始(3基同時は世界初)

100点―電気推進エンジン1000時間稼働

150点―地球スイングバイ※成功(電気エンジンによるスイングバイは世界初)

200点―イトカワとランデブー成功

250点―イトカワの科学観測成功

275点―イトカワにタッチダウンしてサンプル採取成功

400点―カプセルが地球に帰還、大気圏に再突入して回収

500点―イトカワのサンプル入手

 

宇宙への挑戦というとハイリスク・ハイリターンな感じがするが、そうでもないらしい。技術的には最先端ではなく、手堅い確実なものを使う。研究室から出たばかりの技術では異次元空間の宇宙でたちまちオシャカになる可能性があるからだ。しかも川口さんによれば、NASAとJAXAでは、NASAのほうがリスクテイクしないらしい。アメリカは「納税者に対するアカウンタビリティーが厳しい」ため、成功した、あるいはニアリィ成功したという状況にならないと納得しないのだそう。なので〝そこそこのリスク〟を取る。

他方日本は税金に対する関心はなくはないが、宇宙開発については鷹揚なところがあった。失敗しても「もともと宇宙開発では出遅れてたんだし」と勝手に納得してきたフシがある。しかしいつまでもアメリカの後を追うようなことをしていては、宇宙技術はイノベートしない。「ここでひとつアメリカがやらないようなリスクを取ってやろうじゃないの、技術立国日本としてはさ」みたいな会話がジェントルな感じで交わされ、川口さんはそのムードを引っ張った(推定)。

で、持ち出されたのが、前代未聞の100点満点での500点制度である。

国への説明では「どこまでやったら100点満点とかは考えないでほしい。新しい試みや誰もやっていないことをたくさんやるのだから、達成できたことを積み上げて、評価は青天井であるべき」と川口さんは主張した。温和そうな顔をして、やる時は度胸を据えてやるのだ。

 

実は川口さんがこの500点制度導入にこだわった背景には、周囲で増殖する「勉強のプロ」への懸念があった。

いわく「勉強のプロになってはいけない―」。

勉強のプロとは、学業が優秀で、大学を出ても「学び足りない」と感じ大学院に進む。そしてそこでもまだ足りないと外国に留学する。で、留学を終えると「何を研究すればいいんだ」と途方にくれる人のことだ。

 

ひところ、財界の方を中心に帝王学とか、欧米にならった真のエリートづくりみたいなことが言われたが、結局「想定したモデルに近づく」域を出なかった。

川口さんは、どこかを手本にした100点を求めていなかった。「ありえない」500点、いや「独創の」マイナス500点を求めていたのだ。100点満点の技術に溺れてはいけない―。

イマドキのビジネスはだいたいそんな感じだ。

※スイングバイとは、地球や月などの引力を利用し、探査機を周回させて加速をつける方法

 

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