超円高とグローバル化で正念場を迎えた日本の靴

◆文:大高 正以知(本誌)

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ほんの10年ほど前までは年間7,000万足から8,000万足も売られていた国産革靴が、今や2,000万足を下回っているという。代わって伸し上がってきたのが輸入革靴で、これが実に3,500万足も売れているのだ。言うまでもなくそのほとんどがアジア産である。

「かつて言われたアジアの靴は質が悪いという定説は、もうとっくに覆っています。欧米の有名ブランドが賃金の低いアジアでつくるようになってから、彼らもいい靴のつくり方を覚えたんですね。もはや国内産と比べてもほぼ遜色がありません。そこへもってきてこの超円高です。今後のグローバリゼーションを考えると、立て直すのはたいへんだと思いますよ」(流通アナリスト)─。

いよいよ正念場である。

 

もうひとつ上の付加価値を

そこで革靴のメッカ、花川戸(東京都台東区)から東浅草(同)までの一帯を歩いて、町の様子を探ってみた。余談ながら、筆者が高校入学に当たって初めて革靴を買ったのも、どの店だったかは忘れたが、花川戸辺りの紳士靴店である。確か平日の夕暮れどきだったと思うが、たいへんな賑わいだったと記憶している。しかし残念ながら、その面影は今やない。

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とまれ一軒の婦人靴店に、足を踏み入れてみた。30歳代と思しき白人女性が二人、それぞれ思い思いのパンプスを手に議論を闘わせ?ながら、品定めをしている光景が目に入ったからだ。聞くと二人とも年に2回ほど来日し、その都度、友人や家族に頼まれた分も含め、3足ほど買って帰るのだという。不調法にして喋っている英語の半分も理解できなかったが、「ワンダフル!」という言葉だけははっきりと聞き取れた。もちろんメイドインジャパンが、である。ちなみに「シャープでデザイン性が高いにもかかわらず、丈夫で履き易いとかなりの評判ですよ」。これは店主の補足だ。

 

そこでその靴をつくったメーカーの本社工場を訪ねてみた。

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1時間余り見学させてもらったが、はっきり言って驚くほかない。僅か24㎝、百ん十g程度の婦人靴の片方をつくるのに、設計から型抜き、裁断、縫い込み、起毛から貼り合わせ、圧着から踵の打ち込み、表皮の最終仕上げまで、なんと30近い工程(職人の手)を経てつくられているのだ。

「0・1㎜以下の誤差も許さない。それが俺たちのクオリティーなんですよ」(若い職人さん)。

あとはそれにプラスしてもうひとつ上の付加価値だと、関係者は言う。

「そのためには、決定的にいい素材を使い、効果的にPRすること。それがもう一段上のブランディングに必ず繋がります」。

メイドインジャパンの底力が、今、着実に芽を吹こうとしている。

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※2013年1月号:探訪の記事より再構成。

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