安藤晃一郎弁護士|有効な経費削減策「家賃減額」について
有効な経費削減策「家賃減額」について
◆文:安藤晃一郎(弁護士・不動産鑑定士試験合格者)中島・彦坂・久保内法律事務所
一定の条件を満たせば、家賃の減額が可能に。
オフィスや店舗を借りている場合、家賃は毎月の固定費として大きな支出となっています。家賃を安く抑えられれば、従業員の負担や環境を変えずにできるコスト削減に繋がります。しかし、賃貸借契約期間内に家賃を変更(減額)することはできないと思っていないでしょうか。
「借地借家法」という法律に沿って、家賃の減額を考察してみると以下のような可能性が見えてきます。
1 家賃減額とは
毎月支払っている事務所や店舗の家賃は、適正な金額まで減額することができます。賃貸人(貸主・大家)と賃借人(借主・テナント)との間の賃貸借契約で家賃の合意をしたにもかかわらず、賃借人から家賃を減額できるというのは不思議なかんじもしますが、借地借家法という法律(借地借家法32条1項)に家賃を減額することができるという規定があり、この規定によって、賃貸人と賃借人との間で家賃を減額するという合意ができなくても、家賃を減額することができます。
2 どのような場合に家賃を減額できるのか
どのようなケースでも家賃を減額することができるわけではなく、法律で定められた一定の条件を満たすことが必要となります。リーマンショック以降の家賃市場の動向や、都心では再開発が進み、賃貸用不動産の供給が過剰になっている賃貸市場の状況からしますと、かなり多くのケースで家賃の減額をすることができる状況にあります。
家賃減額ができる条件はいくつかありますが、現行の家賃が適正妥当と考えられる相当家賃と比較して「不相当」となっていることが最も重要な条件です。
この「不相当」性は、様々な事情が考慮されますが、主な要素としては、
①土地・建物に対する税金(固定資産税・都市計画税など)が契約締結時と比較して上がっているか下がっているか、
②土地・建物価格が契約締結時を比較して上がっているか下がっているか、
③近隣の同種の建物の家賃と比較して高いか安いか、
といった経済的要因のほか、
④現行の家賃が決定された際に重視した事情(例えば、建物の修繕を賃借人が行う代わりに家賃を安くという取り決めをしたかなど)
も不相当性の判断に当たっては考慮されます。
ここ数年の家賃動向からしますと、いわゆるリーマンショックまでは家賃も上昇傾向にありましたが、リーマンショック以降は下落傾向にあり、リーマンショック(平成20年9月ころ)より以前に入居している物件については大幅に家賃を減額することができる可能性が高いです。
3 家賃減額の手順
では、どのような手順で家賃減額を行っていくのでしょうか。
まずは賃貸人に対して「家賃(賃料)減額請求書」という書面を発送する必要があります。この書面に記載する内容や方法は、賃貸借契約の内容に応じて記載内容が異なる複雑なもので、かつ作成や送付に当たってもいくつかの専門的なルールがあります。弁護士などの専門家に依頼や相談することをお勧めします。
その後は、賃貸人と家賃をいくらにするか話し合うことになりますが、話合いでまとまらない場合には、簡易裁判所に民事調停を申し立てることができます。この民事調停は、裁判として一般的にイメージされるような訴訟とは異なり、裁判所が中立的な立場に入って賃貸人と話合いを行うというものです。
4 家賃減額を依頼する際に気をつけること
賃借人としては、家賃の減額を求めることによって、賃貸人との関係が悪くならないか気になるところですが、この点についてはほとんど心配入りません。なぜなら、現在の賃貸市場の状況からしますと、立地条件が良くなく、築年数がかなり経過している物件は供給過剰の状況にあり、賃貸人としては賃借人にはできるだけ長い間入居していて欲しいというケースが多く、賃借人の立場が強くなっています。
また、賃借人は、借地借家法という法律で保護されており、賃貸借契約の期間が満了し賃貸借契約の更新の合意ができなくても、自動的に契約が更新されます(法定更新)。賃貸人から立ち退きを求められても、正当な理由がない限り退去する必要がないので、賃借人が物件を使用し続けることができます。
交渉したことがない方やうまく交渉できるかご不安な方は、家賃減額請求書の作成・送付と同様に弁護士にご相談ください。
なお、家賃減額の交渉は、弁護士しか賃借人の代理人として賃貸人と交渉をすることができないと考えられています。これは、弁護士以外の第三者が代理人として交渉することは弁護士法72条に違反する可能性が高いためです。そのため、弁護士資格を有しない者が交渉を行うコンサルタント会社などに家賃減額の交渉を依頼することは避けた方が望ましいでしょう。
5 最後に
家賃減額請求は、賃貸人との関係も良好なまま、家賃を減額できる手段です。コスト削減に極めて大きな効果をもたらしますので、一度ご検討されてみてはいかがでしょうか。
参考条文 借地借家法32条(借賃増減請求権)
第32条 建物の借賃が、①土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、②土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は③近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったときは、契約の条件にかかわらず、当事者は、将来に向かって建物の借賃の額の増減を請求することができる。
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