嗚呼、あの〝報徳思想〟はどこへ消えた?
嗚呼、あの〝報徳思想〟はどこへ消えた
◆文:大高 正以知
小僧「ちょっ、ちょっとーっ。危ないじゃないか金ちゃん、本なんか読みながら歩いてたら」
尊徳「おっといけない。そうだよね。でもほら、ウチは君んちみたいに裕福じゃないから、帰ったら仕事仕事で勉強をする時間がなかなかとれないんだ。それにここは通い慣れた道だから大丈夫だよ。それにしても心配してくれてありがとう」
小僧「なんのなんの。でもどうしてそんなに勉強するのさ。金ちゃんなんか頭がいいから、黙ってても学年で2番か3番にはなれるじゃないか。それとも2番じゃいけないの?」
尊徳「いけないよ。というより、2番でいいなんて思ってたら、2番どころか3番にも4番にもなれっこないんだよ」
小僧「へぇ、そんなものなの?」
尊徳「そうさ。それを偉い人たちがどう履き違えたか、ゆとり教育なんて言ったものだからこの国の子供たちの学力が見る見る落っこったんだよ。OECDの調査では、読解力が世界8位で数学力が9位だよ。そんなんじゃあ将来、技術立国ニッポンなんて言えなくなるじゃないか」
小僧「そうか。それは困るね。ああああーっ。ボクの手に掴まって。ね、やっぱり危ないよ金ちゃん。ほら、薪を半分ボクに寄越しなよ。一緒に持ってって上げるから」
尊徳「ふぅ。ありがとう。それにしても君はホントにやさしいね」
小僧「何を言ってるんだ。困ってるときはお互いさま。助け合うのが当たり前じゃないか」
尊徳「いつもそうだけど、君には教えられることばかりだ。それはそうと、今日はどうしてそんな格好をしているんだい?」
小僧「なんだ。忘れたの?今(3月1日~7日)はほら、春の全国火災予防運動週間じゃないか。こうして村を見回りながら、火の着いたタバコなんかがあると、オシッコで消してるんだよ。そんなこんなで忙しくてさ、ボクも勉強する時間がないよ」
尊徳「そうか。そうだったね。じゃあボクも一緒にやるよ。防護服はどこ?」
小僧「ハハハ。消防団の倉庫だよ。でも平気?それでなくても勉強する時間がないんだろ?」
尊徳「平気さ。それはそれ、これはこれ。勉強も一番を目指すけど、道徳でも一番になりたいんだ」
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監督「カーット!よし、今日はここまで!2人とも良かったぞ。それにしてもこんな映画を見せたところで教育の何たるかが分かるのかね。退職金の減額を惜しんで職場を放棄した先生とか、後先考えずに国の言いなりになった自治体のお偉方に」