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能力を引き出す能力

有限会社エムジェイゴルフ

◆文:大高 正以知

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ヒトとモノの主従?関係

GW中のとある朝、顔を洗って洗面所から出ると、衣替えとやらで愚妻から夏モノのスーツを手渡された。これがことの始まりである。左右の袖を通したまではいいが、お腹がキツくてボタンが掛からないのだ。そこで、

「ダメだこりゃ。昨日のジャケットをくれ」

ここで「あいよ」と普通にジャケットを出してくれれば何の問題もなかったが、その辺りが愚妻の愚妻たる所以である。なんと、

「身体に洋服を合わせるんじゃなく、洋服に身体を合わせなさいよ」

ときた。冗談ではない。小欄と洋服を主従関係に例えれば、間違いなく小欄が主である。何が悲しくて従に合わせなければならないのだ。とまれ以来、今日までずっと朝昼晩とも外食続きである。

 

 

高いクラブには高いクラブなりの性能がある

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その外食を摂った先(取材先で美味いと聞かされたゴルフ練習場のレストラン)で、何とも素晴らしい職人さんに出会った。名前は保田仁さん。従たるゴルフクラブを、主たるプレーヤーの体型やヘッドスピード、スイングプレーンに合わせて、曲げたり切ったり、シャフトを取っ変えたりしてくれるという、実にもって人の道を心得た、人間味溢れるそれも教養人である。

おまけによほど腕が立つのだろう。見ると平日の昼間だというのに、予約していたと思しきお客の足が、一向に途切れないのだ。了解を得て工房に入り、しばしの間、その作業風景にジッと目を凝らしてみた。ひと言でいうと、恐ろしく神経の磨り減る、実に細かい仕事である。

 

例えばライ角(クラブを構えたときにできるシャフトと地面の角度)の調整だ。ライ角は僅か0.5度大きいか小さいかで、インパクト時のフェイス面が、5度も10度も右を向いたり左を向いたりする。もちろん真っ直ぐ飛ぶわけがない。調整に当たっては、様々な角度から念入りに計測して機械に掛けるが、最終的にモノを言うのはやはり、

「経験値と集中力。これしかありません」

そんな保田さんが独立してこの仕事を始めたのは、今から15年ほど前である。その9年前に入社した会社がたまたまゴルフショップを経営しており、そのショップに配属されたのを機に、ゴルフギアの奥深さに魅入られ、独学で技術を習得したという。

 

「ショップの仕事をしているうちに分かりましたが、多くのアマチュアゴルファーは、自分に合わないクラブを何も知らずに使っているケースがほとんどなんですよ。中には5万円も10万円もするクラブもあるのに。本来、高いクラブには高いクラブなりの性能が備わっているんです。もったいないですよね。そこでその性能を、何とか引き出せないかと思ってこの仕事を始めたんです」

でもおそらく、中にはいるでしょうね。その前にもう少し練習してからくれば?と言いたくなる小欄みたいなお客も。

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【取材協力】

有限会社エムジェイゴルフ

MJゴルフ工房 東京・墨田店(ゴルフクラブイースタン内)他3店舗

http://www.mjgolf.jp

 

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