銀行・証券会社が語りたがらないNISAの落とし穴 – 冨田和成 株式会社ZUU
◆文:冨田和成(株式会社ZUU 代表取締役社長)
いよいよNISAがスタートしました。これだけ話題になっていることもあり、銀行や証券会社は、多くのNISA口座を獲得しようと積極的な営業やプロモーション活動を展開しています。しかし、その営業やプロモーション活動は、当然のことながらNISAのメリットが全面に押し出されたものであり、デメリットについてはあまり語られていません。今回は、銀行や証券会社が語りたがらないNISAの落とし穴についてご説明したいと思います。
そもそもNISAとは?
ここで簡単にNISAについておさらいしてみましょう。
NISAは、元々は英国のISA制度が発祥です(NIHON版ISA制度がNISAの由来)。英国内ではISA制度の認知度は高く、居住者であれば国籍に関係なくISAの口座を持つことができるため、幅広い人が利用しています。ISAを通じて英国の金融市場に流れたマネーは20兆円を超えており、市場の活性化に一役かっています。
日本でも、この制度が年明けの2014年1月から始まります。NISAは年100万円までの投資について、そこから得られる配当や譲渡益が5年間、非課税となる仕組みです。資産運用の一環として、株式などリスクがある金融商品への投資を促し投資家の裾野を広げることが目的です。
NISA運用の落とし穴とは?
それではここからNISAの落とし穴について見ていきたいと思います。主に3つに分けることが出来ます。
◆落とし穴①…値下がりした場合に損益通算も損失繰り越しもできない。
NISAは、大きなメリットである利益が出た場合に非課税になる一方で、損失をしてしまうケースでも税務上なかったものと見なされてしまいます。本来、株式や投資信託の損失は、その他の株式・投資信託の利益と相殺することが可能ですが、NISA用の口座ではこれができません。
この制度を利用することで、通常は、例えば、Aの口座で100万円の利益が出ていてもBの口座で120万円の損失が出ていれば、利益はないということになり税金はかかりません。
しかし、NISA口座については、この損益通算が認められないのでNISA口座において損失を出してしまい、総合すればマイナスとなっていても、他の課税口座でプラスとなっている場合には、利益があるとされて課税されるということになります。
また、金融商品売却の際に損失が出たとしても、損失を3年間繰越ができる制度(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除)を利用できないというデメリットもあります。
◆落とし穴②…投資信託の場合、普通分配金のみに適用され、特別分配金とは無関係
日本では毎月分配型の投資信託が人気です。しかし、NISAを使った毎月分配型の投資信託での運用を考える上で、注意点があります。
投資信託の分配金は2種類あり、投資信託の収益を分配する「普通分配金」と、収益が足らずに投資信託の原資を分配する「特別分配金」に分けられます。
なお、投資信託の決算日の基準価額が投資家それぞれの個別元本(投資家それぞれに算出される平均取得価額)を上回るか下回るかによって「普通分配金」と「特別分配金」に分けられます。
収益を分配する普通分配金は課税の対象なのですが、特別分配金は利益が出たわけでは無いため、課税の対象ではありません。つまり、いくらNISAの非課税制度があるといっても、保有する投資信託の分配金が特別分配金だった場合、NISAでなくても非課税であるため、わざわざNISAの枠を利用する意味がないということです。
NISAの非課税枠は、年間100万円の新規購入分までと制限をされていますので、このような形で浪費をしてしまってはもったいないですよね。
◆落とし穴③…損をしているのに課税されることがある
これが最も語られていない落とし穴になります。
NISAは非課税期間が限定されています。NISAは、2014年以降2023年までは新たに5年間の非課税口座が利用可能ですが、それ以降は新たに設定することはできないため、最も長期に運用したとしても、2027年には運用が終わってしまいます。その際、保有している金融商品を売却しない場合には、他の課税口座に移行することになりますが、移行後の当該金融商品の取得価額は、移行時の時価とされています。そして、これが大きな問題となるのです。
移行時の時価が当該金融商品の取得価額になるため、移行後の取得価額は100万円ではなく70万円となり、時価が100万円に回復した時に売却すると、差額の30万円は利益とみなされ課税されてしまうのです。100万円で購入したものを100万円で売却しただけなのに、です。
以上、3つの落とし穴についてご説明しました。これらから言えることは、NISAは、利益が生じる投資にはメリットがあるのに対して、損失が生じる場合は、通常の課税口座で行う投資よりもデメリットが多いという注意点が存在します。
現在、政府の方針として「貯蓄から投資へ」という流れがあり、また金融機関による顧客の囲い込みのため、NISAについてメリット(投資から利益が発生する場合)のみが強調されすぎていて注意点が無視されているように感じます。従って、利用する際には、制度のメリットだけではなく、デメリットもきちんと理解したうえで、自らに合った投資をされることをお勧めします。
【プロフィール】
冨田和成(とみた・かずまさ)…神奈川県出身。一橋大学在学中にIT分野で起業。
【お問い合わせ先】 株式会社ZUU
info@zuuonline.com
◆2014年1月号の記事より◆
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