諏訪坂特許商標事務所 伊藤信和|スマートフォンのロック解除画面は、各社でなぜ違う?
スマートフォンのロック解除画面は、各社でなぜ違う?
◆文:弁理士 伊藤信和(諏訪坂特許商標事務所)
皆さんは、スマートフォンやタブレット端末を使う際に、ロック解除(立ち上げ)画面が、各社で異なることに気が付きませんか?
iPhoneであれば、タッチ画面を左から右に動かします。AmazonのkindleFireであればタッチ画面を右から左へ動かします。なぜでしょう。またスマートフォンの初期画面も各社で異なりますがなぜでしょう。
他社製品と差別化する技術を製品に組み込んだ場合には、特許出願又は実用新案登録出願をして、特許・登録実用新案で製品を保護します。製品の外観デザインを他社製品と差別化したい場合には、意匠登録出願をして登録意匠で製品を保護します。
製品の形状は同じだけど、液晶画面の表示部で商品を差別化したい場合には、どのようにしたらよいでしょうか。液晶、発光ダイオード又は有機EL(エレクトロルミネッセンス)で表示された表示画面は保護できないと考えている人もいらっしゃるかもしれません。でも、表示された表示画面は、意匠権で保護できます。
図1は、〝体組成計〟の登録意匠です。体組成計の本体から取り外すことができる操作表示部の画面表示を意匠登録しています。赤矢印は理解を助けるため私が付け加えました。意匠法には部分意匠という制度があり、権利として欲しい部分だけを実線で描き、権利と不要な部分を点線として描きます。
図1の左側は、画面表示以外の線が点線で示されていますから、体組成計本体の外観が全く違っていても、右側の画面表示が同一又は類似であると、意匠権侵害ということになります。
同様に、スマートフォンやタブレット端末の表示画面も各社意匠権を取得しています。
図2はiPhoneの立ち上げ画面の意匠権です。iPhoneの外観は点線で書かれており、画面表示の部分意匠権です。タッチ画面を左から右に動かしてロックが解除(画面が立ち上がる)される画面が権利になっています。部分意匠ですから、点線で描かれたiPhoneの外観は権利範囲ではありません。
外観が異なるiPadのロック解除画面もこの意匠権で保護されています。だからAmazonのkindleFireは、この意匠権を侵害しないように、ロック解除はタッチ画面を右から左に動かしています。
ロック解除画面だけでなく、以下の図3のようにiPhoneの初期画面も意匠登録されています。これもiPhoneの外観は点線で書かれており、画面表示の部分意匠権です。
右図は、富士通のらくらくスマートフォンの初期画面の登録意匠です。らくらくスマートフォンの外観は点線で書かれており、画面表示の部分意匠権です。このため、これらの意匠権を避けて、各社各様の初期画面を採用しています。
以上見てきたように、画面表示の部分意匠権はたくさんあります。しかし、スマートフォン等の画面表示されているアプリのアイコン(GUI)等は、意匠権がありません。現在の日本の意匠法では、アプリのアイコン(GUI)等は、保護対象となっていないからです。一方、米国、欧州及び韓国では、アプリのアイコン等が意匠法で保護対象になっています。
米国等から日本特許庁に意匠登録出願が依頼される際に、我々はその外国企業に、アプリのアイコン等は日本で権利化できない旨を伝えなければなりません。一方日本企業は、製品をグローバル展開しているのにもかかわらず、アプリのアイコン等が日本で保護対象でないから、米国等でも保護対象でないと考えているフシがあります。
このような弊害がなくなるように、日本特許庁は、アプリのアイコン等を意匠法の保護対象にしようと法改正を検討しています。法改正されてその法律が施行されるのは2015年頃と思われます。アプリ等を開発するソフトウエア会社は、その意匠法改正に注意しておかなければなりませんね。
●プロフィール
伊藤信和(いとう・のぶかず)…金沢大学工学部機械科卒業 平成6年 弁理士試験合格/ワシントン大学法学部CASRIP終了(2006年)/工作機械メーカー機械設計/国内・外資企業の知的財産部勤務(経験16年)/特許事務所を開設(2006年~)
●諏訪坂特許商標事務所
〒102-0083
東京都千代田区麹町3-5-2 BUREX麹町
TEL 03-5213-5413
http://www.itopto.com/index.html
◆諏訪坂特許商標事務所の他のコラム
◆2014年4月号の記事より◆
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