上場企業で急速に導入が進む確定拠出年金とは!? 国に頼らず、自分年金を作るための制度の魅力について
上場企業で急速に導入が進む確定拠出年金とは!?
国に頼らず、自分年金を作るための制度の魅力について
◆税理士 平澤元章
皆さんは年金と聞いて、どんな印象をお持ちですか?
国民年金保険料や厚生年金保険料を毎月払っているけど、将来的には年金なんてもらえないのではないかと思っていませんか? 公的年金は、たとえもらえたとしても、それだけでは老後の生活費には足りません。
夫婦2人の老後の生活費はいくらくらいかかるのか見てみると、公的年金のモデル年金としての支給額は月額で23万2千円(平成23年度厚生労働省発表)、高齢無職世帯の支出額は月額で27万7千円(平成22年度総務省家計調査年報より)となっており、既に公的年金だけでは月額で4万5千円も足りないことが分かります。
また、ゆとりある老後の生活費としては月額で36万6千円(平成22年度「生活保障に関する調査」(生命保険文化センターより))となっており、月額で13万4千円も足りません。このままでは老後の生活費に足りないとはいえ、必要な生活費の大部分は年金によってカバーされています。
将来的に日本の財政が破綻して、現在約束されている年金がもらえなくなるという事態が起こることも十分に考えられますが、予定どおりもらえたとしても老後の生活費には足りないため、足りない部分については何とかしなければいけません。
今回のテーマである『確定拠出年金制度』。これは国から支給されるものではなく、皆様が自分で準備する年金なので、きちんと準備すれば将来払われないなんて心配は不要ですし、公的年金を補完して、老後の生活費に充てることができます。
この確定拠出年金制度は最近になって、上場企業を中心に急速に普及が進んでおり、今年中には加入者数が500万人に到達する可能性が高いといわれていますが、今後は中小企業を中心に一段と普及していくことが見込まれます。
なぜ、それほど急速に普及が進んでいるのでしょうか?
それは、会社及び従業員の双方にとってメリットがあるからに他なりません。どんなメリットがあるのか見る前に、確定拠出年金制度の概要を確認しておきます。
①企業が掛金(お金)を従業員の個人口座へ支払います。これを掛金拠出といいます。
②従業員は拠出された掛金を金融商品で運用し、将来の年金資産(お金)を準備します。
③従業員は運用した年金資産を受け取りますが、これを給付といいます。
では、確定拠出年金にはどういったメリットがあるのか見てみましょう。
確定拠出年金には、掛金の拠出時、運用時、給付時のそれぞれの段階において税制を中心とした優遇措置があります。
・掛金拠出時:
企業から従業員の個人口座に支払われた掛金は給与所得としては扱われないため、従業員には所得税や住民税の負担はありません(支払側である企業においては損金算入)。また、掛金部分は社会保険料の対象外となるため、企業及び従業員の双方にとって社会保険料の負担が軽減されます。
・運用時:
従業員が掛金を運用することにより得た運用期間中の利息や配当などの運用収益は全て非課税となります(積み立てられた年金資産に対しては特別法人税がかかりますが、現在は課税凍結中です)。
・給付時:
60歳以降に給付されるお金を老齢給付金といいますが、一時金として受取った場合には退職所得控除が、年金として受取った場合には公的年金等控除が適用されるなど税負担の軽減が図られています。
毎月1万円を確定拠出年金の掛金として受け取り、年3%で運用した場合には40年後には917万円を受け取ることが出来ますが、同じく毎月1万円を給与口座で受け取り(所得税や住民税、社会保険料を控除されます)、年3%で運用した場合には40年後には691万円しか受け取れません。従業員が確定拠出年金制度を利用することのメリットがご理解いただけたでしょうか?
今後、公的年金の支給開始年齢はだんだんと後ろ倒しになる傾向があり、60歳からは公的年金を受け取れなくなります。60歳で定年退職した場合には、公的年金の支給開始までの期間を何かしらの手段でしのがなくてはいけません。確定拠出年金なら60歳から受け取ることが出来るため、加入している従業員にとっては大きな支えとなります。
これだけのメリットがある確定拠出年金ですが、企業が導入する場合には大きく分けて2つの方法があります。
1つは現状で従業員に対して払っている給与に上乗せする形で掛金を拠出するものですが、これは掛金の分だけ企業の財務的負担が増えます。
もう1つが選択制確定拠出年金といわれるもので、企業の現状での給与負担額を一切変えることなく導入が可能です。更に導入後には、社会保険料の負担を軽減できることから、導入により経費削減が可能となります。従来のように給与としてお金を受け取りたい従業員は、従来どおり給与口座で受け取ることが可能となっています(所得税、住民税及び社会保険料の対象となります)ので、確定拠出年金制度に加入するかは従業員が選択できます。
また、投資に苦手意識のある方向けに、元本が確保された定期預金のような金融商品も用意されているので安心です。選択制確定拠出年金制度は、従業員及び企業の双方にとってメリットが大きいため、これを導入しない理由はないのではないかと思われます。
確定拠出年金制度を導入していることをアピールすることにより、人材採用にも有利に働きますし、早く導入すればするほど企業及び従業員ともにメリットを享受できますので、ぜひご検討いただければと思います。
【プロフィール】
個人の相続税対策や中小企業の事業継承の専門家。アーサー・アンダーセン(現KPMG税理士法人)、国内外の 金融機関や外資系コンサルティング会社などで金融業務や財務コンサルティング業務に従事。
2014年4月25日に集英社より『税理士だけが知っているお金を残すしくみ』を出版。
【お問い合わせ先】
平澤元章税理士事務所
〒162-0825 東京都新宿区神楽坂5-20-5 神楽坂アインスタワー 1704号
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◆2014年5月号の記事より◆
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