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昨夏のソーシャルメディア炎上事件から見直す我が社の備え

◆文:弁護士 稲益みつこ(服部法律事務所)

風景 (18)

後を絶たない炎上騒動

去年の夏、会社の従業員が、ツイッターやフェイスブックといったソーシャルメディアに不適切な内容の投稿をし、炎上(なんらかの不祥事をきっかけに爆発的に注目を集める事態や状況)を招くといったことが相次ぎました。コンビニでアイスクリーム用冷蔵庫に入った画像を投稿したものなど、食品の衛生管理に疑問を生じさせるような悪ふざけ投稿が続いたほか、著名な来店者のプライバシーに触れる投稿から炎上した事例もありました。

 

各企業は、事実確認・従業員の再教育・謝罪、その他食品費廃棄等の対応に追われることとなり、なかには店舗閉鎖に至ったところや、フランチャイズ契約を解消された店舗などもあり、波紋を広げました。

この夏の騒動は、なぜこうした安易な行動をするのか?という若者論をも喚起しつつ、様々なメディア上でも取り上げられましたので、ご記憶に新しいところではないかと思います。

 

ソーシャルメディア利用をめぐるトラブル

このような事件はソーシャルメディアの急速な普及によって、数多く起こるようになってきていますが、「ソーシャルメディア白書2012」(トライバルメディアハウス他編著)によれば、多くの企業がこうしたトラブルの発生をリスクと認識しつつも、利用ガイドラインを策定している企業は25%程度というのが現状なようです。

しかし、企業規模の大小を問わず、弁護士業務においても従業員のソーシャルメディア利用に関わるご相談は増えています。現実にトラブルが発生した、また深刻なトラブルに発展する前の一歩手前のひやりとする事件に遭遇して、今後の対策を含めたご相談にお越しになる例も少なくありません。

 

事前・事後の対応策の概要

こうした事案への対策として、これまで論じられてきている方法を挙げてみると、事前の対策として、①利用ガイドラインの作成、②個別契約の締結・誓約書の徴求、③就業規則による利用制限、④教育・研修、⑤モニタリング、事後の対応として、①早期発見、②謝罪、③原因究明、④再発防止策策定、⑤苦情・質問窓口設置、⑥従業員への責任追及…等があります。
今回は、紙幅の都合上、事前の対応策にフォーカスしてご紹介をしたいと思います。

 

社内ルールの明確化

まず、ソーシャルメディア利用に関するガイドラインの策定が挙げられます。瞬時の情報拡散・消去困難といった危険性を理解させるとともに、投稿に関する諸注意事項を明示するものです。大手企業がホームページ上で公開しているものや、総務省が今年公表した「国家公務員のソーシャルメディアの私的利用にあたっての留意点」なども参考になるでしょう。個々の会社の業態に応じ、特に留意すべき事項をピックアップして策定していくことも有用です。

 

就業規則においては、秘密保持に関する規律、企業の信用毀損行為の禁止に関する規律が明示されているかをチェックします。この夏の事例でも、問題を起こした従業員は解雇等となったと報じられましたが、就業規則違反行為があった場合には、懲戒処分の対象となり得ることになります。

 

なお、業務時間中には職務専念義務がありますが、職場を離れた場面においてまでソーシャルメディアの利用を禁止することは、私生活への過剰な干渉となる可能性が高くなってきます。個人のアカウントの届出制や書き込みのモニタリングにも、同様の問題があります。

 

 

個別契約・誓約書

社内ルールを明確にするだけでなく、従業員個々人に書面でルール遵守の意思を表明してもらう、という方法です。タイミングとしては、採用時のほか、会社で新たにルール作りをした時点、教育・研修の実施時に合わせて提出を求めるのが良いかと思います。内容は、利用ガイドラインの遵守、違反した場合の責任の確認といった事項になります。一人ひとりの自覚を促す点で、意味のある方法といえるでしょう。

 

事前の対応策のポイント

事前の対応策として重要なことは、従業員の意識付けという観点です。そのためには、以上のような対策を行うことに加えて、具体的な事例を挙げつつ継続的教育・研修をしていくことが大切です。
また、安易な投稿が「こんな騒ぎになるとは思わなかった」という事態に発展した場合、会社がダメージを蒙るだけではなく、個人が瞬く間に特定されその情報が残り続けるということ、懲戒処分や損害賠償の問題にも発展するということ等、自らのダメージに跳ね返るということにも理解を促し、当事者意識をもたせることも重要になるでしょう。

       *

 今やだれもが携帯電話・スマートフォンを持ち、その場で簡単に全世界への発信ができる時代です。経営者の知らぬ間に、炎上の種が撒かれて火がついて、頭を抱える事態になるその前に、できることから取り組んでいくことが求められています。

 

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●プロフィール
弁護士 稲益みつこ(いなます・みつこ)
企業法務を中心に執務しています。東京タワーから徒歩圏内の事務所です。スカイツリーもいいですが、朝は凛々しく、夜はライトアップで装うタワーもなかなか素敵だなあと思っています。著書「ソーシャルメディア活用ビジネスの法務」(民事法研究会/2013)、「Q&A 新会社法の実務」(新日本法規出版/2006)(いずれも共著)、ほか。

●連絡先/服部法律事務所
〒105-0014東京都港区芝2丁目10番6号
TEL:03-3453-6341
http://hattorilaw-tokyo.com/

 

 

2014年2・3月合併号の記事より

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