銀座アイグラッドクリニック院長の乾雅人先生が影響を受けた本
【比較・類推・相対化という方法論】
今回ご紹介するのは「
著名人はどのような本を読み、どのように影響を受けたのか。
今後、皆様が本を選ぶ際の参考になれば幸いです。
乾雅人先生が影響を受けた本 3選
①思考の整理学(外山滋比古)
東京大学教養学部理科III類、大学1年生時の秋。構内の生協でたまたま「東大・京大生協で一番売れている本」のキャッチコピーが目に留まりました。世間一般で偉業を成し遂げた人の思考回路や、習慣、方法論などヒントが多かったです。特に、忘却の重要性や、セレンディピティ―という概念については衝撃を受けました。学生時代に、何度も重読した書籍でした。その中で、『比較・類推』という要素が自分自身の意思決定に極めて有用であることを経験します。③の『相対化』と併せて、『比較・類推・相対化』という私なりの本質を深堀りする方法論、意思決定のプロセスが完成しました。物事の本質を捉える際に、必ず行う思考習慣です。
余談ですが、霞が関にも「川を上る、海を渡る」という表現があるそうです。川を上る=過去を調べる、海を渡る=海外を調べる、という意味だそうです。時間、空間を超えて比較するというのは、どうやら基本の様です。
②チームリーダーの教科書(藤巻幸夫)
東京大学医学部、大学3年生時の冬。「もしドラ」が流行する前のことでした。アメフト部の主将として、如何に組織を率いるか苦悩していました。アメフトは競技の特性上、年に1回の公式戦しか開催されず、他スポーツ種目と比べて、東大生が勝利する余地がある、数少ない部活の一つです。東大医学部の中でも“熱い”男たちが集い、ついつい公式戦の戦績ばかりが評価されがちでした。結果、私が下級生だった時代は、新入生の勧誘や、下級生の育成が後回しにされがちでした。公式戦の戦績という短期目標の為に、中長期の計画が全く意識されていない状況でした。
問題点を指摘しても、実際の具体的な解決策が欠如していました。唯一の手段が「即戦力となり得る新入生を勧誘し、徹底的に育成し、半年後の公式戦シーズンまでに戦力として仕立て上げる。」ということでした。言うは易く行うは難し。先ずは、①で紹介した方法論よろしく、比較・類推することから始めました。
部活の歴代OBを訪問し、オールスター戦を通じてライバル校とも接触し、各種の対比を浮き彫りにしました。東大医学部の他部活動と対話をし、東大全学アメフト部の練習に参加し、果ては、学生日本一である関西学院アメフト部の本拠地まで訪問します。それでも、掴めぬ、東大医学部アメフト部の“本質”。
(※他とは前提が違い過ぎました。一例を挙げると、関西学院アメフト部では、同部に所属することそのものが就活に直結します。アメフトをする為に入学する学生もいます。)
比較・類推を通じて深掘りすればするほどに、同部の本質が、アイデンティティーが揺らぎます。中長期目標の為に、短期目標に加えて更に犠牲を強いる私の強硬策は、誰の支持も得られませんでした。笛吹けど、踊らず。空中分解の危機でした。
途方に暮れる中で、この書籍に出会いました。部活も組織であり、人々の営みである以上、ビジネス書が有用なのは当然です。リーダーシップとマネジメントの違いなど、ビジネス経験のない学生にも分かりやすく記載されていました。以降、貪る様に各種ビジネス書を読破し、実際に部活動で応用していきました。結果、例年の3倍である10人の新入生を獲得し、チームの士気、実際の練習効率が向上しました。そして、公式戦も全戦全勝を果たしました。当時の新入生に対しては『雅人チルドレン』という造語もでき、漸く本質に気付きます。東大医学部アメフト部は『社会に価値貢献する人材の育成機関』だったのです。他ならぬ私自身が、一番、恩恵を受けています。「チームリーダーの教科書」は、私の人生におけるブレイクスルーの切っ掛け、始まりの一冊でした。
③初めての構造主義
東京大学医学部、大学5年生の夏。医学部の部活動では、幹部学年の後も2年間、部活に在籍するのが通例です。ここで、己の成功体験が、自分自身を苦しめます。自分自身が構築してきた正義と、1学年後輩の新幹部のこれから構築される正義に、齟齬を感じてしまうのです。己が絶対的と信じるものを、立場として表現すべきでない。
この過程で「相対化」という概念を教えてくれたのが構造主義でした。相対化の前提には、すでに、絶対的な何かが前提として存在しています。宗教は素晴らしいものですが、その宗教“だけ”に拘って戦争が生じたことは歴史で学ぶ所です。肩の力を抜くとでも表現すれば良いのでしょうか、絶対的と信じる程に夢中、没頭できるものを尊重しながらも、あくまでも違う正義が存在すると認識しておくほど良いバランス感覚。刀と鞘で表現するなら、刀を磨けば磨いた分だけ、同時に鞘も相応に整える感覚です。
外科手術でも、企業経営でも、部活動一つをとっても、一流と感じる方は「相対化」に至っている印象があります。
この意味で、東京大学入学式での東大総長の言葉は面白いです。100年先の東大総長の言葉とは随分と異なるのだろうと感じつつも、いずれの代の総長の言葉も痺れるものでした。しかし、同時に思うのです。私学である慶応大学の入学式では、創設者の言葉が100年後も紡がれるのだろうな、比較・類推・相対化を通じて、物事の本質を深堀りし、是々非々で思索に耽るのは、悪くないと思うのです。
◎プロフィール
乾 雅人
医療一家の次男として生誕。兄弟ともに東大医学部を卒業後、胸部外科を専攻。大学院生時代に経営の必要性を痛感し、医療業界のプロ経営者を志す。医療コンサルティングの実務経験を積んだ後、独立開業。保険診療の財源確保のために、医療を産業と捉え、眠れる知財を社会実装に導いている。特に、長寿サプリとして話題のNMNの上位互換、5デアザフラビン(TND1128)の臨床研究に尽力。老化を治療して健康寿命を延ばし、社会保障費の圧縮を目指している。