8月のM&A件数(東証適時開示ベース)は、前年同月比5件減の68件だった。前年を下回るのは4月以来4カ月ぶり。この10年では4番目の多さで、一定の水準は維持している。M&A市場は新型コロナウイルス感染の逆風下でも活況が続いていたが、踊り場にさしかかった可能性もある。今後の動向を判断するうえで9月のM&Aの動きが注目される。全上場企業に義務付けられた東証適時開示のうち、経営権の異動を伴うM&A(グループ内再編は除く)について、M&A仲介のストライク(M&A Online編集部)が集計した。

 

1兆円規模の大型案件相次ぐ

金額面では今年初の1兆円を上回る超大型案件が2件あった。なかでも米コンビニ第3位のスピードウェイを2兆2176億円で買収するセブン&アイ・ホールディングスの案件は、日本企業によるM&Aとして歴代4位にランクインした。

一方、日本ペイントホールディングスは、筆頭株主のシンガポール同業、ウットラムグループの傘下に入ることになった。ウットラムは日本ペイントの実施する第三者割当増資を1兆1851億円で引き受け、出資比率を現在の39%から59%に引き上げて子会社化する。

 

武田薬品工業はビタミン剤「アリナミン」、総合感冒薬「ベンザ」など大衆薬子会社を米投資ファンドに約2420億円で売却する。これらを含めて取引金額10億円超のM&Aは11件。4カ月ぶりに2ケタに回復した7月(13件)に続き10件以上を確保したが、コロナ以前の月間20件前後にはほど遠い。

 

海外案件はなお低調

M&A市場は新型コロナ感染拡大を受け、国境を超える海外案件が低調だった半面、国内案件が底堅く推移。1月から8月までのトータルでも前年を上回る水準をキープしている。ただ、金額が張る海外案件がほぼ姿を消したことで、案件の小型化傾向が続いていた。そうした中、8月は上位3案件が金額で突出した。

 

セブン&アイが買収するスピードウェイはガソリンスタンド併設型コンビニを約3900店舗展開する全米3位。今春、買収計画が表面化したものの、金額が折り合わず、断念。今回、新型コロナを受けて買収金額が低下したタイミングで再交渉がまとまった。

 

金額上位10案件は次の通り。

社名 取引金額 内容
セブン&アイ・ホールディングス 2兆2176億円 米コンビニ第3位のスピードウェイを買収
ウットラムグループ(シンガポール) 1兆1851億円 日本ペイントホールディングスへの出資比率を39%から59%に引き上げて子会社化
武田薬品工業 2420億円 一般医薬品製造子会社の武田コンシューマーヘルスを米ブラックストーンに譲渡
ティーガイア 287億円 富士通パーソナルズの携帯電話販売事業を取得
アント・キャピタル・パートナーズ 232億円 スカラ傘下のソフトブレーン(東証1部)をTOBなどで完全子会社化
キユーソー流通システム 70億円 インドネシアの低温物流会社KIAT ANANDAグループ傘下の4社を子会社化
IMAGICA GROUP 59.4億円 映像関連の米Pixelogic Holdingsの株式を追加取得し子会社化
ジーエス・ユアサコーポレーション 48億円 サンケン電気から直流電源装置などの社会システム事業を取得
UACJ 31億円 傘下のUACJ物流の株式66.7%をセンコーに譲渡
ソラスト 23.7億円 訪問介護や居室介護支援を展開する日本エルダリーケアサービス子会社化

 

ストッキング大手のアツギは民事再生手続き中のレナウンの子会社で肌着・ソックスを製造するレナウンインクスを10月1日付で買収(金額は非公表)することを決めた。建設コンサルタント中堅の大日本コンサルタントは、三菱マテリアル子会社で同業のダイヤコンサルタントと2021年7月の経営統合に向けて協議入りすることで合意した。

業種別では介護関連(4件)、物流・倉庫(3件)でM&Aが目立った。